第3話 つぶれる?
ある日の放課後、いつもの3人はいつものゆるふわ部の部室でいつものようにダラダラしていた。
今日は暖かく心地が良い。快適な部屋でゆったりした時間が流れる。あー、毎日このくらいゆるーく生きたいなー……。
「ねぇねぇ、チョコ食べる?普通の売ってるチョコだけど」
ホタル部長が突然2人に話しかけてきた。この部は基本的に何も無ければみんなダラダラとしてるので静かだ、話の始まりは唐突にやってくる。突然誰かが発言するのにはもう慣れた。ていうかそんなことよりもチョコ食べたい。
「欲しいですー」
「わたしも貰おうかな」
それにしてもこんな暖かい日にチョコなんて持ってきたら溶けちゃうんじゃないのかな?どうしてるんだろう。
そんな事を考えていると、バタンと音が2回ほどした。
何の音だろう?そんな事を考えていると、すぐにホタル部長なチョコを持ってきてくれた。
「はい、どーぞ!」
「ありがとうございます!」
私は両手をお皿のようにして出すと、ホタル部長は個包装されたチョコを3つ手の上に置いてくれた。
そのチョコは……
「あれ?冷たい?」
そのチョコはこの暖かい日に冷たさを保っていた。もう放課後なのに。溶けててもおかしくない。
ホタル部長は私の反応を不思議そうに眺めながら言った。
「当たり前じゃん、冷蔵庫に入れてたんだから。アタシ偉いでしょ?朝少し早めに来てここの冷蔵庫にチョコ置きに来たんだよ?」
冷蔵庫……?
あぁ、さっきのバタンという音は、冷蔵庫の扉の開け閉めの時の音か。
なるほどー……?
「えっ?!ここ冷蔵庫あるんですか?!」
「えっ?!そこそんなに驚くところ?!」
あれ……?そんなに驚くこと無かったのかな。
「私のイメージでは部室に冷蔵庫ある部活なんてほとんどない気がするんですど……。運動部はまだしも、ここは文化部ですし」
「そうなのかなー。アタシが部室貰った時にはもうあったから普通なのかと思ってたけど……」
「あ、最初からあったんですか?こういう部活にはめっちゃいいじゃないですか!」
「だよねー!ありがたく有効活用させてもらってるよ」
冷蔵庫のおかげで冷たいチョコが食べられる……。うん、やっぱり冷たいチョコはおいしい。
「冷蔵庫って偉大ですよねー……」
「え?いきなりどうしたの?」
ココ先輩が不思議そうに尋ねてきた。まぁ冷たいチョコ食べただけでここまで感慨にふける人なんて普通いないよね……。
「いや、私の家の冷蔵庫、今日の朝つぶれたんですよ」
冷蔵庫つぶれたら困るよね。今朝は両親がドタバタだったよ。
……え?何でホタル部長とココ先輩の2人はそんな驚いた顔をしてるんですか。
「え?冷蔵庫潰れたの……?」
ココ先輩は小さな声で聞いてきた。何でホタル部長とココ先輩の2人はそんな怖がっている顔をしてるんですか。
「つぶれましたね。突然動かなくなりましたよ」
「どうやって潰れたの?」
どうやって?それはどういう事ですかホタル部長。そんな自分がつぶした訳じゃないですし。
「流石に何があったかはわかりませんね。朝起きたらもうつぶれてたんで」
「そうなのかー。え、どんな感じに潰れてるの?」
ホタル部長ご乱心ですか。つぶれるにどんな感じもあるのかな……?
「いや、なんか動かなくなって冷やす機能が無くなった感じですね」
私の話を聞いている2人の頭の上にはずっとクエスチョンマークが浮かんでいるようにみえた。なぜだ……。
ピコン♪
あ、私のスマホがなってしまった。
「すみません、ちょっとスマホ見させてくださいね」
こんな時間に誰からだろう。
「誰からきたの?」
ココ先輩が聞いてきた。
「えーっと、私のお母さんからですね。なになに?『つぶれたと思ってた冷蔵庫、なぜかコンセントが抜けてたみたい!さしたら元に戻ったよ!』……らしいです」
私がお母さんのメッセージを読むと、ホタル部長とココ先輩は今までよりもっと不思議そうな顔をした。
「コンセントさしたら元に戻ったのか?」
ホタル部長がおずおずと聞いてきた。
「普通は元に戻ると思うんですけど……」
え、抜け出たコンセントさしなおしたら元に戻るでしょ?
「2人ともなんか調子悪いんですか?さっきから様子がおかしいですよ?」
「そりゃちょっとくらいおかしくもなるよ、潰れた冷蔵庫がコンセントをさしたら元に戻るんだよ?それも作り話じゃなくて、とても身近な所で起こってるんだもん。怖いよ!」
私にはホタル部長の言っている事が理解出来なかった。
「え?普通の事じゃないですか?」
「マイちゃんはどこの世界に住んでるのさ!冷蔵庫がぐちゃぐちゃに潰れるんだよ?!怖いじゃん!」
ん……?ぐちゃぐちゃに潰れる?ホタル部長それはどういう……?
「え?ぐちゃぐちゃにはなりませんよ?」
「じゃあペッタンコになるの?」
「いやどういう事ですかココ先輩。ペッタンコにもなりませんね」
ぐちゃぐちゃ?ペッタンコ?いや、それも潰れるだけど……。
ここで私はようやく気づいた。
「もしかしてホタル部長とココ先輩の言う『潰れる』と、私の思っている『つぶれる』が噛み合ってないんじゃないですか?」
「噛み合ってないも何も『潰れる』って力が加えられて形が変わることって意味以外あるの?」
ホタル部長が聞く。いや、そうなんだけど……。
「あれ?『つぶれる』に壊れるって意味はないんですか?」
「無いね」
ホタル部長に即答された。
嘘でしょ?そんな意味無いの?じゃあ私が今まで生きてきた14年とちょっとは一体なんだったの……?
するとココ先輩がスマホの画面を見ながら言った。
「マイちゃん昔関西に住んでたの?」
なぜそれを?
「小学校卒業までは大阪に居ましたけど……。それが何かあったんですか?」
「ほらこれ」
ココ先輩はさっきまで見ていたスマホの画面を見せてきた。
なになに?『関西人が標準語だと思っている意外な関西弁。つぶれる。故障するの意。』
……マジで?
「つぶれるって関西弁なんですか?!」
「そうらしいね」
そういうココ先輩はとてもニッコニコだった。なんでやねん。私の反応が面白かったのかな。
それにしても悪いことしたなー……。
「なんかすみません……会話が噛み合わないのは私のせいだったんですね……。関西弁は中学の時に抜けたと思ったんですけど……つぶれるって関西弁だったんですね。全然気づきませんでした」
私が申し訳なさそうにしていると、ホタル部長が慰めてくれた。
「いや、いいんだよ。面白かったし。冷蔵庫が潰れるとかマイちゃんの家だけ重力が10倍にでもなってるのかな、と思ったけどね。ただ冷蔵庫が壊れた。それも壊れたわけじゃなくて、コンセントが抜けてただけとはね。でもまぁよかったじゃん『つぶれた』わけじゃなくて」
「そうですね……」
ホタル部長優しい……優しすぎる……。
「ねぇ!それよりさ!」
「な、なんですか?ホタル部長」
今、明らかにホタル部長の顔と声色が変わった。何されるんだ。
「大阪住んでたってホント?!関西弁話せる?」
そうきたかー!
「いや、こっちに来てから3年は経ってますし、忘れてるかも……」
「ほら!あれ言ってよ!『なんでやねん!』ってやつ!」
「あー!もうイントネーションが違いますよ!なんでそこで上がるんですか!」
「えっ、なんか怒らせちゃった?!」
関西人あるある。エセ関西弁が許せない。
このあと今日のゆるふわ部は私の関西弁教室になりました。
ちなみにチョコは帰り際に食べていないことに気づきました。もちろん暖かいのでちょっと溶けてましたね。
冷蔵庫で冷やした意味なくなっちゃったなー……。
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