第3話

カードキー、一つあればここでは不自由なく暮らしてゆける。


個人情報の管理、日々の実績、何もかもがここでわかる。


人生を有形化するもの。


唯一無二の存在となる。


ランクがある。


噂でしか聞いたことがないが、三階以上は金色ゴールドらしい。



それをかざす。


家のドアが開く。


俺以外は絶対に立ち入ることはできない。


中は無造作に散らばったものであふれかえっている。


明日から一週間は暇だ。


しかたがないので片付ける。



まず、ごみを捨てた。


次に服や物を元に戻す。


パーカー、時計、はさみ、やかん、たくさんの物が出てくる。


ベッドの隙間に何かが挟まっている。


取り出すと、ネクタイだった。


実家を出るときのたった一つのプレゼント。


自分には必要ないと思ったが、取っておいた。


カッターシャツがあるわけでもないし、面接があるわけでもない。


機会がなかったのだ。


引き出しの一番上に置いた。


きっと、いつか使う時が来るかもしれない。



すっかり片付いた。


そして、冷蔵庫をあさる。


久しぶりに自炊でもしてみようか。



オムライスを作る。


余っていたご飯と具材とケチャップを入れる。


タンスから出てきたフライパンで炒める。


皿に盛る。


上にふわトロの卵を添える。


残ったケチャップを上に垂らす。


懐かしの味。


4年前の味。


舌の上で記憶がよみがえる。


静かだった脳が激しく動く。


ふいに塩の味がした。


ご飯に塩は入れてない。


何故だろう。


今まで食べたところも塩辛くはなかった。


こんな水滴はなかった。



あぁ。


泣いているのか。

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