終焉の魔王(7)
遊離したボールフランカーの撃ったビームが空間を埋め、エオリオンの接近を許さない。
それがニーチェの灯りを視る能力を
「どう? すごいでしょ」
「素晴らしいね。これでは相手は堪ったものじゃない」
応えはジェイルのもの。二人が見ているのは前回戦闘におけるルージベルニのガンカメラ映像。褒めてほしい気持ちと、自分の能力をアピールして父の戦略の助けになりたい思いから確認をねだったのである。
「ゼビアルでも難儀しそうだ。一対一なら苦戦する相手は少ないだろうね」
髪に感じる彼の手の感触がニーチェを満足させる。
「剣王を超えたし。これならパパも安心してあたしを使えるでしょ?」
「そうだね。でも、基本的には君が思うがままに戦うといい。それが一番戦局を動かすからね。時代の子っていうのはそういう存在らしい」
「えー、またぁ?」
こんな会話は幾度となく繰り返されている。ニーチェとしてはアドバイスが欲しくてたまらないのに、ジェイルは彼女の自由意思を尊重しようとするのだ。
「強いて言うなら……」
彼は映像を部分的に見返しながら言う。
「構造的に消耗の激しい兵装になるね。それを踏まえた運用が望ましいかな?」
「う……」
「弾体ロッドや推進剤ロッド、パワーチャージもこまめにしたいね。そうしないと穴を作る事になる」
二人だけの私室でヘルメットギアを外している父の美形が思案げに小さく歪む。それで彼女の命を慮っての事と分かるが、ニーチェとしては見透かされた気分になる。思わず舌を出してしまった。
「その様子だと、それが原因で女帝を取り逃がしたのかな?」
墓穴を掘った。
「あー、言わないでほしいし!」
「なるほど。ドゥカル、君の監督責任も問いたいね?」
『こっちに飛び火するかいの?』
白髭のアバターの背筋がピンと伸びた。
「場合によっては決定的な隙になりかねない。指摘しておくべきだと思うけど?」
『戦闘が終わったら教え諭しておこうと思ったんじゃ。嬢ちゃんは一度上がったモチベーションに水を差さんほうが良いからの』
「理解できなくもない。でも、彼女の無事を優先しなさい」
指摘するジェイルの視線はどこまでも冷たい。
(お爺ちゃんが叱られちゃった。それだけあたしの身を案じてくれてるのが分かるからすっごく嬉しいし)
悪いので、怯える素振りのゼムナの遺志をフォローしておく。ドゥカルは彼女の側に逃げこんでいる。
「えっと、どうすればいい?」
上目遣いで窺う。
「具体的には一基ずつ運用するのが間違いが起こりにくいと思うよ。できるだけラップして射出するようにしたら穴は小さく攻撃が厚くなる。二基とも使うのは勝負どころと感じた場面だけにするといい」
「はーい。そうするし」
「とはいっても、気分が乗ったら忘れてしまうんだろうけどね?」
正確な指摘にニーチェは「あう!」と悲鳴が漏れてしまう。
引き続き教えを乞う。様々な場面でのボールフランカーの運用方法を考案する父の顔に見とれていた。そうしているうちに、胸の中に押し留めていた思いが首をもたげてきてしまう。
「ねえ、パパ。革命政権が求めてるみたいな落としどころはないと思う?」
ニーチェはおずおずと切り出した。
「落としどころ。ライナックとの共存かい?」
「うん、あたしから見るとできなくもない気がするし」
「実権を法的に剥奪し、過去の偉人の血統としてゼムナの象徴的立ち位置に収まってもらうというものだね?」
エデルトルートが提案したもの。リューンもジェイルもいい顔をしなかったが。
「国の看板って事で満足してもらえないのかなって思ったし」
「どうだろう。僕は難しいと思っているよ」
「制度的に?」
二人が頑として首を縦に振らないのが理解できなくて訊きたかったのだ。
「法的には簡単だろうね。でも、心情的には納得をえられないと思っている」
「ライナックが、なんだ」
ニーチェは剣王の怒りが深いからだと思っていた。ジェイルも一度こうと決めたら完遂しようとするだろう。その辺りで意見が一致しているのではなさそうに聞こえてきた。
「ニーチェは比較的穏便な決着を望んでいるんだね?」
「うーん、正直どっちでもいい。でもね、エデルの案が後々収まりが良いように思える時があるし」
『法的な部分と心情的な部分では隔たりがあるかもしれんの。じゃが、嬢ちゃんの言う通り、国際社会からの評価は共存案のほうが高かろう』
背後からのルーゴの一撃をひらりと躱しながらドゥカルも賛同の意を示す。
(後押ししてくれたし)
意図を読まれているかもしれないと思う。
(本当にライナックが生き延びようが滅びようがどっちでもいい。ただ、世間の評価が高い決着のほうがいいの。そうすればパパの貢献も評価される可能性が出てくるし。後の人の為に自己犠牲も顧みず頑張ったんだって。そうしたら表舞台にもう一回立てるかもしれない)
その為に落としどころを考えもした。
(パパが大統領になったらゼムナが本当に善くなるって思ったのは間違いないもん)
ニーチェの願う未来はそれだ。
期待のままに見つめる彼女にジェイルは口を開いた。
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