終焉の魔王(2)
(幾分か緊張は和らぎましたか。このタイプは素の僕のほうが説得しやすいのでしょうが、今更ヘッドギアを脱ぐ訳にもいきませんし)
ジェイルはそう考えながら話を進める。
「現状、ほぼ全てのライナック本流家の人間が地上軍本部に逃げこんでいる」
エデルトルートは視線を巡らせる。その方向に本部があるのだろう。
「はい、不気味なことに」
「彼らはなぜ、もっと住みよい所へ移動しないのか? 話は簡単、今も首都への帰還を狙っているからだ」
「
軽く頷く。
「想定外に脱出を余儀なくされた彼らの資産がポレオンに多く残されている。それらの回収もしなくてはならない」
「調査させていますけどセキュリティも高くて手が出せません」
デジタル化された資産は個人認証でいくらでも利用できるが、いかんせん物品資産はおいそれとは動かせない。美術品や宝石などの貴金属類がそれに当たる。
「取り戻したいとは考えているだろうが、それ以上の理由もある。やはり集権体制としての首都機能はポレオンが特化している。自分たちさえ居ればそこが本来のゼムナ政府だと言い切れるほど驕ってはいないだろう」
彼女は何となく理解しているようだが、リューンの反応が鈍い。
「通信関係なんかもそうだけど、多方面に対して開かれたポートの存在や、宇宙ポートの整備なんかが最初から考慮されて設計されているのがポレオンという都市。他の都市で代替するとなると機能的には落ちてしまうかしら? そうでしょう、魔王」
「うむ、エルシの説明した通り。基本的には使いやすく時間をかけて整備したのだから、そのまま運用したい。早期奪還を目論むのはそんな意図からだ」
「言われて見りゃ確かにな。俺だって他の
多少意味合いは異なる。しかし、リューンが形容するにはそれが一番近い表現なのだろう。
「ゆえに生活には不便な地上軍本部に起居し、地方戦力を集結させて防備を固めている。虎視眈々と隙を窺っているのだ」
ジェイルは現状を説く。
「ポレオンの治安が悪化するようであれば強引にでも奪還の指示を出すのではなくて? 市民の安全確保という大義ができるから。ところが貴女が手腕を発揮して統治を成功させてしまっている。進むも退くも適わない状態かしら?」
「いや、そんな、私の手腕じゃなくてデイビットやガラントさんのお陰です」
「現実はそうでも、表向きは暫定大統領が安定した統治を行っているように見える」
エルシの説明に恥じ入るエデルトルートだが事実は事実。
「そこへ諸国が革命政権を支持する声明など出したらどうなるか考えるといい」
「政権としては、より強固な地盤を得ると思いますけど?」
「だよな。手を出すにも大義がねえ……、おい、まさか?」
二人とも何かに気付いたようだ。
「本流家は危機感を抱く。そのまま安定してしまえば事態は長期化の様相を見せてくるだろう。ならば方針を変えてくるかもしれん」
ライナック本流家はリスク分散を考えるようになると説明する。地上軍本部に滞在する要人を各地に移動させる可能性が高い。警護の為の戦力を分散させなくてはならなくなるが、現在の一気に攻め崩されかねない状況は解消される。
「つまり現状は戦力を集結させやすいが、リスクも高い状態だと彼らは知っているのだ」
魔王は説明を終えた。
「分かったぜ。俺らとしちゃあ一網打尽にできる好都合な状態だってのを奴らも怖れてんだな」
「せっかく作り出した状態を壊したくないと考えてらっしゃるのですね?」
「その通りだ」
それが諸国の公認を得るのは早いと考える理由。
「支持を取りつけるのはいい。が、表面化させるのは控えてほしい」
「まったく、こいつには参るぜ。ポレオン奪取戦の前の段階から今の状態を作り出そうとしてやがったんだな?」
「無論だ。私ならば首都を焼くのも厭わないが、実行しようとすれば貴殿は阻止に動くだろう。ライナックだけでなく
一応はそう告げておく。
現実になればジェイルだとて事を急がず各個に対処を考える。長期化は否めないが不可能ではないはず。
しかし、遠回りするくらいならリューンの思惑に乗っておいたほうが効率が良い。その為に策を巡らせたのだった。
「もしかして……」
エデルトルートが恐るおそる訊いてくる。
「現状は魔王の思惑通りに動いているってこと?」
「とんでもなく切れんだろ? ハシュムタット革命戦線に攪乱戦を仕掛けたのもこいつだし、お前みてえな手駒を探せっつったのもこいつ。今んところは事実上連合軍のブレインだな」
「びっくりした。ただの怖い人だと思ってた」
目を丸くした彼女は余計に幼く見える。
「やっぱり失礼な女だし。ライナックをやっつけたらパパが大統領になるのが一番だと思う」
「え? わたしってお飾り? お飾りなの?」
「そう言やぁそうかもしんねえな。とりあえず大統領やっとけよ、エデル。また考えとくわ」
暫定大統領は頭を抱えて「もてあそばれてるー!」と非難の声を上げる。
(彼女は本当に人気が出る要素を兼ね備えていますね。こんな人物を見出すのもリューン・バレルの運命というものなのでしょう)
ジェイルは二人のコミカルなやり取りを微笑ましく見守っていた。
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