黒き爪(9)
「え、マフダレーナが? シャウテン艦隊が戦闘継続不能状態?」
スビサレタ艦隊の分隊司令アリョーナは愕然とする。
情報を統合監視中の旗艦ファランドラからの突然の
「
「はい、この宙域にひそんでいたものと思われます」
副官の報告に眉根を寄せる。
「あのマフダレーナが救援を呼ぶまで持ち堪える事もできなかったというわけ? どれだけの大戦力を投入してきたっていうの? あそこはそれほどの戦力を持っていなかったはず」
「旗艦が戦闘状況を分析した結果、戦力的には戦闘空母二十五~三十隻ほどの戦力だと考えられるそうです。我ら分隊と同等と思って良さそうですが」
「その戦力でシャウテンを一気に崩すというのが信じられないわ」
アリョーナは似たような演習でマフダレーナとも当たった経験があるし、直接戦術論を語り合った事もある。彼女とはタイプが違えど、勝利するのは容易な指揮官ではない。
「それが報道船を盾に取られて思うように攻撃できなかった模様です。なので、ヴァルテル司令から報道船を艦隊中央に置くよう命令が来ております」
「ああ、そういうこと」
疑念が一気に解消した。
「邪魔なおまけが足を引っ張った訳ね。ジャーナリスト魂だか何だか知らないけど前に出過ぎたんだわ」
「おそらくは」
「艦隊に合流させなさい。渋ったら、公務妨害で国家訴訟に持ち込んでやるって脅していいから」
どの艦隊も同様の手段を取るだろう。あとで抗議が来るかもしれないが知った事ではない。軍上層部が対処すると彼女は決め込んだ。
「じゃあ、付近の環礁宙域に
直撃してもビームコートを溶かす程度の出力から、撃破可能な出力に上げさせる。
「そのまま探知戦を続行。早い者勝ちの狩りよ。奴らを見つけた艦隊が手柄を挙げられるわ」
「どうでしょうか?
「それならシャウテン艦隊にもっと追い打ちを掛けているでしょう? さっさと引き上げたって事は他の艦隊も狙っているのよ」
(必ずマフダレーナの仇を取ってあげる。居ると分かっているのなら油断などしない。欲を欠いたのが敗因よ)
アリョーナは闘志が湧き上がってくるのを感じる。
それから三十分。全方向に斥候部隊を出し、重力場レーダーの監視体制も強化して挑むがなかなか尻尾が掴めない。じりじりとしていたところへデータ通信が舞い込む。
「
彼女は手を打って喜ぶ。
「獲物が向こうから来てくれたわ。アームドスキンを発進させなさい。どの方向?」
「本艦から見て右舷。環礁公転方向です。相対位置、パネルに出します」
「小惑星が多い辺りね。見通し悪いから見つからないとでも思ったわけ? 狩り出して差し上げるわ」
アリョーナは獰猛な笑いを浮かべる。
全艦に前進の命令を下す。アームドスキン部隊だけを派遣すればデータリンクが途絶える可能性があった。それくらいにターナ
「各部隊、フォーメーションを維持して探索させなさい。絶対に必要以上に先行しないよう厳命」
用兵が乱されなければそうそう後れを取りはしない。
「りょうか……、接敵しました! 左舷方向!」
「全艦回頭。アームドスキン、集中させるのよ。罠の可能性もあるわ。周囲警戒怠らないようになさい」
(さあ、いらっしゃい。歓迎の準備はできているのよ)
司令官席に深く腰掛けたアリョーナはパネルから目を放さない。
(逃げ出すなんてつまんない真似はよしてよね、ケイオスランデル)
各編隊からのデータリンクの情報も観測パネルに反映される。友軍を表す青色のマーカーに消失する物が現れ始めた。
「やられているの?」
それは撃破されたということ。
「それが
「まあね。向こうも同じ条件。エース級を撃破するのは簡単じゃなくても、敵アームドスキンは削れている筈だものね」
観測パネルには実際に敵を示す赤いマーカーが現れては消えている。普通に考えれば敵機の撃破を示しているのだ。
(順調に狩っているわね。良しとするわ)
アームレストに肘を立てて眺める。損害が増えてくれば敵も撤退を考えるはず。
(そこからが勝負……)
「は?」
異常な表示につい声を漏らしてしまった。
赤で表示されたマーカーがフッと消える。撃破したのかと思いきや、同じ位置に青いマーカーが忽然と出現するのだ。
「なにごと?」
「お待ちください!」
「判明しました。データリンクにないアームドスキンを観測したものの、それが友軍機だった模様。それでシステムが適性色から友軍機へと変更したようです」
「友軍機ぃー?」
「分析結果出ました。観測された友軍機はアキモフ艦隊所属機です。前線は混乱状態で
彼女は力が抜けて手から顎が落ちる。
「ロマーノ! あのお馬鹿ー!」
アリョーナは司令官席で立ち上がった。
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