黒き爪(8)
分隊司令マフダレーナの命令で待機していた三百のアームドスキンが
「命令だ。こいつらを合流させるな」
「それは分かっていますがこの数です!」
「速っ! 頭と肩がオレンジのクラウゼン? あれが噂に聞く
「突っ込んできた! こっちには
主軸になるエース級パイロットに穴を開けられた部隊は一気に切り崩される。通常なら分散してしまったアームドスキンが個々に戦闘に突入し混戦模様となる筈が、後続部隊はそのまま先行した二百へと接近する。
「こっちに来ただと?」
「もうやられたのか?」
「いや、突っ切られただけだ!」
報道船を人質にした先行部隊を包囲していたゼムナ軍機は堪ったものではない。広く薄く球形に包囲しているところへ背後から襲い掛かられたのだ。
接触は一瞬で、一気に押し切られる。しかも大部隊が通過しながら密な砲撃を行い、包囲は完全に崩された。後続は先行部隊の後尾に合流を果たす。
「後続は報道船を抱え込んでない。回り込んで砲撃すれば……」
「できるか! 周りをよく見ろ! こっちは何を背負っている?」
「こんな近くに艦隊が!?」
艦隊と報道船との間に割り込んだ
「隊長、連中は紡錘陣形を形成しています。突っ切らせておいて後方から砲撃戦を仕掛ければいいのでは?」
「無理だ。抜かれたらそのまま艦隊に突っ込んでいくに決まってる。奴らを撃ち崩すのが先か、母艦を沈められるのが先か、チキンレースをする気か?」
待機組の残存戦力が合流してきて厚くはなったが、動くに動けないゼムナ部隊は
(遅きに失したか。これは敵の思う壺だ)
こうなれば彼女が得意とする守りの戦術も効果を発揮しない。
「分隊司令、兵が混乱しております。命令を」
「全艦後退。アームドスキン隊には守備に徹するよう伝えよ」
「しかし、それでは……」
(
マフダレーナはそれ以外に何もできないと首を振った。
◇ ◇ ◇
「来たよ、魔王様」
ヴァイオラはケイオスランデル機に並ぶ。
「うむ、では敵部隊を突破して艦隊の撃破に掛かれ」
「はいはーい」
紡錘陣形のまま中央突破を図る。艦隊が逃げ出す時間を稼ぐ為に敵アームドスキンは持ち堪えている。しかし、砲撃はしてこないので切り崩すのは容易だ。艦隊の盾になる厚みを維持する意識が後退を余儀なくさせる。
そのまま穿孔するように進撃し、薄くなった中央を突破した。報道船を制御下に置き背後に従えたケイオスランデルがフォトングレイブで艦隊を指し攻撃を命じる。
「さあ、好きなだけ暴れなさい」
主力の指揮をオーウェンと交代したマーニが指示する。
「よっしゃあ! なんか汚い役回りで溜まったストレスをぶつけさせてもらうぜ!」
「パパの戦術が汚いみたいに言うなし、ギルデの馬鹿!」
「そうよ! 魔王様のお知恵を拝借したから勝ててるんだから、ギルデの馬鹿!」
言葉の集中砲火を浴びせる。
「苦労してんなぁ、兄貴」
「泣けてくるだろ、マシュー?」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと来なさい、ゴミクズ!」
幼馴染のバディを黙らせる。
先陣を切っていた精鋭で艦隊へと侵入。追撃は受けるものの振り切って直掩機も撃破していく。
(この瞬間はいつ見ても綺麗なのよね)
宇宙が青白く染まる。
戦闘艦の対消滅炉を覆うように充填されているターナブロッカーが放つ光だ。誘爆で発生する有害放射線を、可視波長の光領域へと変調している為に青く冴え冴えとした光が放散される。
ヴァイオラとてその向こうで数百の命が散っているのは理解している。それを忘れさせてくれるような美しい光景なのだ。欺瞞と知りながらも感動を覚える。
(魔王様の御心のままに進めばいいんだもん。きっと新しい未来への扉を開いてくれるはず。でも、そこに滅びの使者は要らない)
悪も滅びるさだめにある。罪とともに消え去るのみ。
ヴァイオラのクラウゼンは赤い機体の背を追った。
◇ ◇ ◇
「僕たち、なんで生きてるんですかね、ディレクター」
アシスタントディレクターはぼやく。
「知るか! お優しい魔王が見逃してくれたんだろう」
「でも、ぼろぼろですよ」
報道船は無傷である。しかし、シャウテン艦隊は半壊状態。
アームドスキンは四割を超える機体が中破以上の損害を受けている。戦闘艦も三十の内六隻が爆沈した。
軽微な損害しか受けていない
「こんな画、使えないですよ」
「当たり前だ! どこを流せるってんだよ!」
「僕に当たらないでくださいよ」
若手アシスタントディレクターは帰ったら辞表を書くか本気で検討していた。
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