第27話 通学でドキ!
悪友(ワルトモ)共有アプリ。ホント使える。一々、待ち合わせを設定しなくてもアプリ内の地図で、優が、今どこにいるかが一目でわかる。こんなに便利とは知らんかった。
朝の通勤通学でごった返す駅。通学の乗換駅のホームで優と出会う。こんだけ人がいると言うのに一目で優を見つけられた。やっぱ、美少女は人混みに紛れても目立つのね。道行く人の視線を集めまくっている。
ドキ!
学校をズル休みした日とは、うって変わって神聖女子(アンタッチャブル)に返り咲いている。凛とした姿で胸をはって颯爽と歩く姿に見惚れてしまう。くうー。緊張してきたぞ。
俺はすれ違いざまに、優の弁当を入れた袋をさっと手渡した。優が同じ袋をもう一つ持っていてそれと交換する。中には空のお弁当箱。明日用だ。
何かスパイ映画みたいだ。この駅は、同じ学園に通う生徒も使っているので油断は禁物。何処で誰に見られているか分かったものじゃない。
優と悪友(ワルトモ)関係になったとはいえ、神聖女子(アンタッチャブル)とヘタレ平民男子。基本的につり合わない二人が、仲睦まじくしていたら、快(こころよ)く思わないやからも多い。
優は気にしないと言うが、俺は大いに気になる。知らない人でも嫉妬や、下手すりゃ殺意の視線を送ってくる。
優を女神と信奉するのは学園の男子ばかりとは限らない。優は、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能!三拍子揃い組のクールビューティ、天下無双の学園のアイドルだから女子にも人気が高い。
ヘタレ平民男子を地でいく、俺のノミの心臓が耐えられるとは思えない。なので電車も別々のドアから乗った。
ぐっ。毎朝のことだが、今日もめちゃ混んでる。俺は優の細っちい体を思い出して心配になる。壁ドンで守って上げられたら良いのだが、無理ってもんだ。
隣のドアから乗り込んだ優をそれとなく伺う。既に乗り合わせたあやかり女子に取り囲まれてがっちりガードされている。ちっと安心してホッとする。
あやかり女子!頼もしいじゃないか。あれなら良からぬ欲望を抱いたサラーマンも学園の男子諸君も一歩も近付けない。俺もだけど・・・。
釣り輪につかまる優の右手に割れたハートのブレスレット。
ドキ!
悪友(ワルトモ)の絆は固い。が、危険極まりない。いつ、誰に感づかれるかわからない。
ってことで、ヘタレ平民男子の俺は、お揃いのブレスレットを左足に付け、感づかれないように靴下で覆っている。
それでも爆弾アイテム故に不安は募る。が、優は許してくれない。昨日の悪友(ワルトモ)共有アプリでのやり取りがこれだ。
『優、普段付けるのはどうかと思うぞ』
『だめ、悪友(ワルトモ)の絆』
『目立つし、記念の品なんだからお互いに大切にしないと』
『アクセサリーは身に着けないと可哀そう』
『そうは言ってもなー。俺、ドジって無くしたりするかも知れないし』
『悪友(ワルトモ)の絆を無くす奴は殺す』
『頼む、優。ポケットに入れるか家に置かせてくれ』
『それじゃ、何か起きたら変身できない』
『変身?』
『合体変身!』
くっ、こいつ、まだあの時の幼児的発想にこだわっていたのか。意味がわからんし、なんかエロい。
『マジで?』
『大マジ!』
脳みそ、無邪気なポンコツのままじゃん。
『アホか』
『なら、脚でも許す』
『靴下で隠してもいい?』
『うふっ。秘密アイテムぽいからOK』
って結果で、結局、俺が折れた。俺の心もポキッて折れた。
そんな、ハチャメチャなやり取りを思い出している内に、電車が着いた。私立渋川学園高校の制服に身を包んだ生徒が、一斉に下車する。
ホームは生徒たちで溢れかえっている。優は皆の視線を集めながら、学園へと続く道を進む。
優の周りをあやかり女子が囲み、その周りに群がるイケメン男子。そして、指をくわえて遠くからチラチラと視線を送るヘタレ平民男子諸君。
毎朝、繰り返されるお馴染みの光景。そんなこと、し続けてもなんも変わらんぞ。優は神聖女子(アンタッチャブル)としての笑みをたたえて、それに応えている。
あれじゃあ、息つまるわな。俺だったらとっくに逃げ出している。注目されて期待されることの恐ろしさが良くわかる。
「お早う、一哉」
後ろから肩をポンと叩かれる。
ヘタレ平民男子の俺を、下の名前で呼んでくるのは学園で一人しかいない。スポーツ万能、神童と呼ばれる頭脳の持ち主、美形男子で名高い幼なじみかつ友人の北条出流(ほうじょう いずる)だ。
「あっ、おう。お早う」
「一哉も神聖女子(アンタッチャブル)に興味を持ったか」
あう。俺の視線を観察しやがったか。今となっては、こいつが一番の危険人物だ。
佐伯優(さえき ゆう)が小学校時代のドンくさデブの三島優(みしま ゆう)で、幼なじみであることに出流は、まだ気付いていない。
が、頭が回るだけあって、出流の勘と洞察力は昔から鋭い。ほころびが出たら一気にバレる。
いっそ、先手を打ってこちらからバラして仲間に引き込むか。
出流は爽やかイケメンで頼られ男子とも呼ばれている。俺みたいな平民男子にも義理堅い。敵に回したら怖いが、味方になってくれる可能性は十分に高いと踏んだ。
が、言い出せない。優の初恋の人だもんなー。俺の気持ちがとことんヘタルわ。
「んな訳ねえだろ。たまたまだ」
俺はヘタレ平民男子らしく、オドオドとしながら出流に答えた。
神聖女子(アンタッチャブル)と呼ばれる佐伯優(さえき ゆう)と頼られ男子と呼ばれる北条出流(ほうじょう いずる)。
両方とも俺の幼馴染で、何故か学園カーストのトップの座に君臨するお二人。
一方が悪友(ワルトモ)で一方は友人。ヘタレ平民男子の俺とは、つり合わなそうな奴ばっかり集(つど)ってきやがる。
この先の学園生活を思い浮かべて大混乱、俺の心臓がトクンと鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます