第22話 アルバムでドキ!
「優、俺がソフトクリーム買って戻った時、昔の写真見てたって言ってたよな。俺にも見せてくれないか」
「見たいの?」
「ああ」
「んじゃ、悪友(ワルトモ)だから見せてあげる」
「あんがと」
俺の知らない優を知りたくなるのは、独占欲の表れだろうか。優はアイドル並みの美人さんだし、俺はヘタレ平民男子。
つり合いっこないことは写真を撮らせてもらって思い知ったのに、まだ未練があると言うのか。
正直、混乱するが話題もなく、つい言ってしまった。
優は俺の言葉を気にとめることなくスマートフォンにデータを移したアルバムを見せてくれる。
年代順や出来事順に、きれいに整理されているのは優等生の優らしい。
目がクリクリでまんまるボディの赤ちゃん時代は、ドンくさデブの三島優(みしま ゆう)の面影を色濃く残していた。
食事をぶちまけていたり、チョコで口の周りがベトベトだったり。
保育園から小学校低学年時代は泣き顔が多い。丸々と太って、どの写真も必ずお菓子を抱えている。
俺のよく知っている三島優時代だ。現在の優と比べて、あれがこうなったと思うと何とも信じがたい。
「あれ、これ俺か?」
「うん。一哉!」
くっ。父親(おとん)のやつ。俺は小学校低学年時代、リトルリーグに入れられていた。今どきありえんが、髪を短く刈り取られてジャガイモみたいな頭をしている。
まあ、結局、野球の練習にはほとんど顔を出さず、近所の公園とかで暴れ回っていたんだけど。
俺の髪が男子にしては少し長めなのはものぐさもあるが、この時の反動かもしれない。
「一哉、やっぱり、クマの縫いぐるみのカズキチそっくり」
いや、あれはお犬さんなんだけど。あえて訂正するのは止めておこう。どっちでも実害なしい。
それにしても確かに似ている。今と言うより、あの頃の俺だったのか。体形もサイズも同じくらいだ。なるほどと納得する。
それにしてもひでえ顔してんなー、俺。
優の撮った今の俺の写真を見なくて良かった。心がポッキリ折れるどころか、粉々に砕け散っていたかもしれない。
それに比べ、横にすましている幼馴染の北条出流(ほうじょう いずる)。優が初恋の思いを寄せただけあって、既にイケメンの片鱗がそこかしこに現れている。
しばらくガキ大将時代の写真が続く。俺の隣には必ずと言って良いほど北条出流が並んでいる。
あの頃は気にも留めなかったが・・・。くそっ。神様のやつ、こんな差別あんのか。
「ちょっと待った、優。何だこれは!」
「一哉のドアップ」
ジャガイモ頭の俺がトンボを捕まえて笑っている。前歯が無い。ギャク漫画でも見ないメチャクチャな顔だ。
「な、何でこんなん持ってんだ?」
「えへへ」
「えへへじゃねーだろ。頼む、消してくれ」
俺は優の前に土下座してでも消してほしかった。こんなところに俺の黒歴史が残っていたとは。
「一枚くらい消しても意味ないと思うけど」
優はスマートフォンの画面をスライドしながら、次々と俺の黒歴史を見せてきた。
「・・・」
「ね、小っちゃい時の一哉の写真、いっぱいあるから」
なんてことだ。もうだめだ。こんな写真が流出でもしたら、俺の平穏な学園生活は間違いなく破綻する。ヘタレ平民男子でいることすら難しくなる。
「出流の写真があれば十分だろ。優の初恋の人だし。何で俺の写真ばかりこんなにあるんだ」
「何でだろ。小っちゃい時、拾ったデジタルカメラのメディアに入ってたからデータをコピーして返した」
「まったく記憶にない。てか、コピーする理由がわからん」
「一哉、おっちょこちょいだから、また落としたら困ると思って・・・」
「だからって、今の優のスマホに入れとかんでも・・・」
「だって、可愛いんだもん。一哉の顔」
「アホか!絶対に誰にも見せんなよ」
「うん。約束する。指切りする」
はー。ため息も枯れそうだ。俺と優はペンギンたちが見つめる前で、二度目の指切りをした。
優は、なんでこんなにポンコツになってしまったんだ。学園で見せる容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能!三拍子揃い組のクールビューティな優を微塵も感じない。
「あのさー、優。お前、俺のあんな変な写真ばっかり見てっから、カズキチとか美的センスが狂ったんじゃないか」
「うーん。一哉もカズキチもかわいいけど」
「俺が言うのも何だが、キモかわいい系の類だぞ」
「ぶふっ!キモかわいい系?」
「吹き出すなよ。俺の顔に唾が飛んだだろ。もう、汚ねーなー」
「一哉、キモかわいい!」
「抱きつんんじねーって。今はそこまで酷くないし。凹むだろ」
「えへへ」
「もういいわ。あれ、もう終わりか」
優のスマートフォンのアルバムは小学校三年の転校前で途切れていた。転校後の優が見たかったのに。
秘密ってことか。それなら仕方ない。
「この後は、あんまりいい思い出がないから」
「・・・」
そういや昨晩、露天風呂で語ってくれた優の話を思い出した。
ドンくさデブの三島優(みしま ゆう)は、両親の離婚によって佐伯優(さえき ゆう)として新しい小学校に通い始めた。
中々、学校に馴染めずにいた時に、片親しかいないことが皆にバレた。
別にイジメられたわけじゃないが、優は自分の殻に閉じこもった。そしてダイエットに猛勉強、反射神経や運動神経を鍛えまくって、今の優ができあがった。
もともと持った素質もあったのだろうが、それに更に磨きをかけ続けて、気付いたら神聖女子(アンタッチャブル)と呼ばれていたらしい。
「優、ごめん」
「別に。一哉は何でも受け止めてくれるから、何でも話す。悪友(ワルトモ)だから」
「そ、そうだな」
「あっ、一哉に話していないことがあった。転校してからも楽しいことが一つだけあった」
「そっ、そうか」
「一哉のキモかわいい写真。見ると笑えた」
「・・・」
「離ればなれになってからも、ずっと勝手に悪友(ワルトモ)認定してた」
「・・・」
「ごめん。一哉」
「一生、持ってろ。俺のキモかわいい写真」
「うん」
優の太陽の様な笑顔に、俺の心臓がトクンと鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます