第21話 撮影会でドキ!
食事を済ませた俺と優は、人気の少ない屋外のペンギンコーナーに来ていた。四月だと言うのに太陽の日差しが強く、ほんのりと汗ばむくらいの暖かさだ。
ペンギンたちが次々と水中に飛び込んで水浴びを楽しんでいる。地上いるのんびりとした姿とはうって変わって、水中では弾丸のごときスピードで泳いている。
「あいつら、陸と海じゃ全然動きが違うな」
「うん。面白い」
「だな」
二人並んで水槽を眺める。やっぱ、こっちの方が良いや。暗闇に紛れる場所がないから、あんまり人こないし。ノンビリできる。
ウブ毛の残った灰色の子供ペンギンがよたよたと歩き回っている。
「あれ、昔の優みたいだな。丸くって、ドンくさい」
小学校三年で転校するまでの、ドンくさデブの三島優(みしま ゆう)にそっくりだ。
こいつも大きくなったら佐伯優(さえき ゆう)みたいに変身してスーパーペンギンになるのだろうか。
「かわいいね」
優は楽しそうにスマートフォンのカメラで撮影しだした。俺の前で見せる優の笑顔は基本、癒し系の動物顔だ。見ていて和む。クラスで見せる女神様的な威圧感が無い。
「楽しいか?」
「うん」
撮影に集中している優の横顔を覗き込む。ショートカットの首筋にほんのりと汗が浮いている。
ドキ!
やば、エロい。
「俺、売店でソフトクリームを買ってくるわ」
そう言い残して俺はペンギンコーナーを後にした。無防備な優ってほんとにやべぇ。何度、見ても慣れないな。
売店でソフトクリームを二つ買って戻る。一つはチョコレートで一つはバニラ。優の好みがわからないから二種類を買った。
小学校の時はソフトクリームと言えば悪ガキたちの癒しアイテムだったけど、こりゃー完全に悪友(ワルトモ)と言うより、カップル達のテンプレートだよな。戻る途中で思わず一人で苦笑いした。
ペンギンコーナーのベンチに座って優はスマートフォンいじりに熱中していた。
「何してんだ」
「昔の写真、見てた」
ふーん。そういや、小学校の三年生から高校二年でクラスが一緒になるまで優がどんなだったか俺は知らない。
おっと、考え事に耽っている場合じゃない。陽射しを受けてソフトクリームが溶けてたれだした。
「優、どっちにする」
俺はチョコとバニラの二種類のソフトクリームを優の前に差し出した。
優は嬉しそうな顔をしてチョコを受け取る。そっか、チョコか。
今度はチョコ二つにしよう。
優は溶けたところを、ぺロッて舌を出して一口なめてから戻してくる。悪戯猫みたいな顔をしている。
「やっぱり、バニラ」
「なめてから言うか」
「一哉、悪友(ワルトモ)だから。バニラ、ペロッとしてからでもいいよ」
「できるか!顔から蒸気が噴き出すわ」
「ほんとだ。お猿さんみたいだ。顔、真っ赤」
そう言ってスマートフォンを俺に向けたかと思うと、カシャリと写真を撮った。
「やめろ。消せよ。恥ずかしいだろ」
「やだ、悪友(ワルトモ)記念」
「消さなかったら・・・」
うっ。反撃が思いつかない。ガキの頃ならバニラのソフトクリームに唾でも飛ばして手渡しているのだが・・・。いくら悪友(ワルトモ)でも高校生の女子にそれはムリってもんだ。
「消さなかったら・・・、どうすんの」
あくまで俺を追い詰める気か?ヘタレ平民男子だぞ、俺は。
「優の写真を俺のスマホで撮る」
どさくさ紛れに欲望を口にしてしまった。
「うん、良いよ。お互い様だもんね」
マジかよ。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能!三拍子揃い組のクールビューティ、天下無双の学園アイドル。佐伯優(さえき ゆう)の写真が俺のスマホに!
クラスのみんなに知れたら俺のスマホ、きっと叩き割られるな。極秘ファイルに入れとかなければ。
と、言う事で恥ずかしながら誰もいないペンギンコーナーをバックに大撮影会。
クラスで見せる神聖女子(アンタッチャブル)とは違った優のふやけた顔が、俺のスマートフォンにたまっていく。
くっ。かわいい。上目遣いですねたり、ほほをふくらましたり、アホ笑いしたり。泣きマネも。アイドル写真集ができあがりそうだ。
優が舌を伸ばしてバニラのソフトクリームをペロリ。
カシャ。
すげえ。ベストショット。雑誌の表紙でもおかしくない。
真剣な顔して見つめられて、カシャ。
魂を吸い取られそうな優の瞳にタジタジ。
「一哉、サービスカット」
そう言って優は目を閉じで唇を突き出した。
カシャ。
アップで写る優の顔。
ドキ!
俺の心臓は飛び出しそうなくらい激しく鼓動した。
見返りとして優のスマホには、俺の不細工な姿が溜まったんだけど。
美少女に対する男子の情熱って凄いわ。自分のことながらちょっと引いた。
あれっ。んじゃ、優が俺の写真をとるのは何でや。俺はイケメンでもないヘタレ平民男子だけど・・・。
「優。さすが、美少女だけあって取られ慣れしてんな」
「撮らせたことないよ。一哉が初めて」
「えっ」
そうなのか?動揺して動きが止まる。
「どれ、どれ、一哉の写真家としての腕前を確認させてもらおっかな」
優が俺のスマートフォンを覗き込んでくる。
顔が近いけどもう気にしない。俺は撮った写真をスライドショーにして優と鑑賞した。
「一哉にしては上手く撮れてる。まっ、素材が良いからね」
「・・・」
素材が良いとか言うレベルじゃない。ピンぼけ写真すら味のある芸術品に見える。
「優、おまえアイドルになった方が良いんじゃねーか」
「うーん。一哉と遊んでた方が良いかな。楽しいし」
俺専用アイドル?そんな言葉が思い浮かぶ。
「ねえ、一哉も優の撮った写真、見る。私、けっこう写真撮るの、うまいと思うよ」
「ハズいし、遠慮しとくわ」
俺はきっぱりと断った。優の写真の腕前がどんなに凄かろうと、今、俺は自分の姿をみたら心がポッキリ折れてしまう。
自分じゃ日頃どんな顔してんのかしらんが、レベルと言うより住む世界そのものが根本的に違うのではと悟った。
ソフトクリームの残ったふにゃふにゃのコーンを見つめて、俺の心臓がトクンと鳴った。
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