第164話
「お久しぶりです。セベリノ殿」
「お久しぶりです。ケイ殿」
リカルドと手荒い再会をした翌日、ケイは今回の目的であるドワーフ王国まで転移した。
そして、王城でドワーフ王国の王太子であるセベリノと挨拶を交わした。
「お父君のマカリオ殿はお元気ですか?」
王太子のセベリノが対応しているが、この国にはマカリオという王がまだ生存している。
しかし、そのマカリオは、高齢なためにもう最近は安静にしていることが多く、もうほとんどセベリノに王位を譲っているのと同じ状態だ。
王のマカリオには、息子であるセベリノにも教えていない秘密がある。
それは、ケイと同じく、日本の小学生だったという前世を持った転生者だということだ。
その時の記憶を使って、今ではドワーフをこの世界の魔道具開発のトップに立たせている。
ケイも魔道具開発に興味があるが、少し不便なくらいの今が丁度良く感じているので、発明チートをするつもりはない。
前回きた時も体調が優れなかったので、心配なケイはマカリオの調子が気になりセベリノに尋ねた。
「ん~……、元気と言って良いのか……、とりあえず変わりないです」
「そうですか……」
セベリノは何だか奥歯に物が挟まったような言い方で返す。
体調自体は良いのだが、やはり年齢が年齢なだけに横になっていることが多いので何と言って良いか分からないというのが現状らしい。
同じ転生者というのもあり、マカリオには少しでも長く生きてもらいたいものだ。
「早速ですが、何でも魔人族のことで助力を得たいとか?」
「その通りです」
今回のことをゆっくりと話し合うために、ケイは応接室のようなところへと案内された。
因みに、キュウとクウはケイの側でのんびりしている。
飲み物を用意されたタイミングで、ケイは今回の助力要請の話に移った。
状況は薄っすらとだが分かっているが、呼ばれた理由をきちんと聞いておこうと思った。
「以前からある人族の国が魔人族へちょっかいを出していたのですが、更に怪しい動きを始めていまして……」
「ちょっかいとは?」
魔人族は、人族から追い出されたような形で現在の大陸に移り、魔物のレベルが他の大陸よりも上なところで、なんとか集落をつくり数を増やしてきた。
国と呼べるものは少数で、それもたいした規模ではない。
そんな魔人たちに、人族がどのようなちょっかいをかけているというのだろうか。
「高レベルの冒険者を雇って、女性や子供の誘拐を繰り返しているようです」
「誘拐……」
ケイには心当たりがあった。
アンヘル島の住人であるシリアコ。
彼は島唯一の魔人で、彼も元は人族の奴隷だった。
今では島の住民の一人として、色々と頑張ってくれている。
実は今回のことで魔人領に行く可能性があるかもしれないことを伝え、彼も連れてくることも考えた。
しかし、彼自身が断ってきた。
「私はもうこの島の住人です。幼少期に連れ去られ、魔人族の記憶は全くありません。それよりも、私はここでケイ様やレイナルド様たちのお役に立てることをしていたいです」
一緒に魔人領に行ってみたくないかと尋ねたら、彼の答えはこれだった。
命を救ってもらったケイに、少しオーバー気味な感謝をしているように思うが、彼自身の気持ちが大事なので連れて来なかった。
彼のように誘拐された者たちが奴隷にされるということが、まだまだ行われているようだ。
「その国が侵略してくると?」
「そう考えております」
思考を戻し、話を続ける。
魔人の国と人族の国では規模が全然違う。
規模にもよるが、魔人たちでは勝てる見込みはないだろう。
「互いに不干渉ということもあり、獣人の国を巻き込むわけにはいかないため、エルフのケイ殿にご協力をお願いした次第です」
ドワーフ王国は獣人の国々と同盟を交わしているが、魔人族の国とも仲がいい。
同盟という程の協力関係にあるという訳ではなく、ドワーフが魔人たちを不憫に思って若干ボランティア気味に助けているというのが正しいだろう。
王であるマカリオの自国のみならず、他の国まで救いの手を伸ばすという器の大きさに、ドワーフの市民は称賛した。
セベリノも今回のことは見過ごすわけにはいかないため、ケイに助力を求めたらしい。
「協力は構わないのですが、私1人では役に立つのか分からないのですが?」
獣人たちの協力は頼めないため、力を貸せるのはケイだけだ。
いくらケイがかなりの実力の持ち主だと言っても、国を相手に1人で勝てるなんて言えない。
そのため、たいして役に立てるか分からない。
「今回ケイ殿にお願いしたいのは、魔人たちの戦闘強化です」
「戦闘強化?」
魔人大陸の魔物は強力なものが多い。
そこで生きているということは、それだけ戦える戦力があると思っていたのだがそうでもないらしい。
ドワーフの作った武器の力に頼っている部分が多く、個人個人の戦闘力は大したことがない状態なのだそうだ。
こんな状態で、訓練を重ねてきた人族の兵を相手にしたらひとたまりもないだろう。
人族が動き出すにしても、大軍で海を渡るには時間と費用と労力がかかる。
その間にこちらもできることをしようとのことで、ケイに白羽の矢が当たったのだ。
「魔人は生まれ育った場所がら、人族よりも魔力が多い種族です。ケイ殿なら強く出来るのではないかと……」
魔素が豊富なため、強力な魔物が出現する魔人大陸。
そこで生まれ育ったからこそ魔人も人族よりも魔力が豊富だ。
数の不利というのがあるが、それだけを聞くと確かに強くできるかもしれない。
「つまり、人族との戦い参加ではなく、戦闘指導をしてほしいということでしょうか?」
「その通りです」
ケイへの頼みは戦いの参加などではなく、魔人たちの戦闘指導だけで良いらしい。
それだけでいいなら、別にケイが断る理由はない。
「とりあえずやってみます」
人族が好き勝手するのは気に入らない。
今回の侵略を阻止できるように、ケイは魔人たちを強化をすることを受け入れた。
◆◆◆◆◆
「ケイ殿」
「はい」
今後の予定が決まり、ドワーフ王国に滞在していたケイ。
何もしないのは暇なので、王城の訓練場を借りて軽く体を動かしていた。
一汗かいて休憩していると、セベリノがケイに声をかけてきた。
その後ろには、一人の男性が付いてきている。
肌が青紫のような色をしている所を見ると、魔人族の人間なのだろう。
身長は170cm位のケイに対し、頭半分くらい上の大きさ。
筋肉も重くならない程度につけ、良い感じにバランスが取れているように見える。
顏はエグザ〇ルにいそうな、ワイルド系イケメンといった感じだろうか。
「こちらは魔人大陸南端に位置するエナグアという国の方で、兵を統率する役割を担うバレリオ殿です」
「どうも……」
今回ケイが戦闘指導をするにあたり、ケイの手伝いのために連れて来たのだろう。
セベリノの紹介を受け、ケイはバレリオに軽く頭を下げて挨拶をする。
バレリオも、軽く頭を下げて返礼したのだが、
「バレリオ殿、こちら……」
「お待ちください。セベリノ様」
ケイのことを紹介しようとしたセベリノの言葉を遮るように、バレリオは一歩前に足を進める。
そして、ケイの全身を値踏みするように眺める。
「……? 何か?」
紹介途中で遮られたことはともかく、ケイに失礼な目線を向けるバレリオに、セベリノは真顔になる。
次期王というより、実質王の立場なのだから、ムッとしたのを顔に出しては駄目だろうと、セベリノに思う。
近寄ってくる時から、バレリオはケイに睨みを利かせていた。
なので、ケイとしてはやっぱり来たかといった感じだ。
「ドワーフの方々には日ごろから感謝の念が尽きないのですが、このご提案に私は些か疑問を感じております」
「……と言いますと?」
他の大陸と比べて魔素が濃く、それによって湧き出る魔物はかなり強力。
逃げて逃げて何とか仲間を増やしてきた魔人族に、戦う武器を与えてくれたドワーフ王国。
それによって魔物と戦い、逃げ回るのではなく定住するということができるようになった。
今では国と呼べるほどに大きくなったエナグアの地。
ドワーフの力がなければ成しえなかったことだと、国民みんなが分かっている。
感謝しているというのは、紛れもない本心だ。
しかし、今回の人族侵攻に対して兵を訓練すると言っても、何故ドワーフの国の者ではないのか。
「魔人族の間にもエルフという種族のことは知られております。我々と同様に人族から追い出された種族だと、しかし、我々と違い戦うこともせずに滅びたとも聞いております」
「バレリオ殿、ケイ殿に失礼ですぞ!」
滅びたというのは合っているようで合っていない。
ケイという存在がまだいる以上滅びたとは言えないが、ケイがこの後死んだ場合、エルフは滅んだと言っても過言ではない。
しかし、息子や孫たちの中にエルフの血は受け継がれている。
純血か混血かという違いがあるが、そんな事たいした話ではない。
そういった意味では滅びたというのは適切ではない。
そのことはケイ自身が分かっていることだし、他の種族が軽々に口に出すことではない。
バレリオの失礼な物言いに、セベリノの方が先に腹を立ててしまった。
「セベリノ殿、構いませんよ」
実の所、ケイは特に何とも思っていない。
エルフが戦わず、人族に搾取されて来たのは事実だ。
しかし、ケイがアンヘルの体に転生する前の話だ。
ケイからしたら、それもただの情報でしかなく、実体験ではないので感情が動くことはない。
なので、ケイは怒気を揚げそうなセベリノを冷静に制止する。
「それで、バレリオ殿はどうしたいと?」
目付きからいって、もしかしたらこのように挑発をしてくるのも予想していたし、これからバレリオが言いたいこともなんとなくだが予想できる。
なので、ケイはその挑発に乗ってみることにした。
「手合わせ願いたい!」
「いいですよ」
ケイは内心でやっぱりかと思った。
予想していた通りの言葉に、ケイはあっさりと受け入れる返事をする。
「君たちでは勝てないから訓練してくれる人連れて来たよ!」と言われて、あっさり受け入れられるほど人間の感情は簡単にできてはいない。
バレリオがこうしてくるのも当然だ。
ケイが同じ立場になったとしても似たようなことをしていたかもしれない。
「い、良いのですか?」
「えぇ、早速やりましょう!」
あまりにもあっさり受け入れられたので、逆にバレリオの方が慌てたようだ。
ケイからすると、その反応にやり返してやった感もなくはないが、そんなことを見せる訳もなく、それよりももっと慌てさせてやりたくなる。
そのため、まるでケイの方が先に誘ったかのように、訓練場の中心に向かって歩き出した。
「えっ? えぇ……」
策略は成功したらしく、バレリオは促されたことに戸惑いながら、ケイの後へと付いて行く。
「セベリノ殿。すいませんが審判をお願いします」
「ハハ……、分かりました!」
バレリオがケイの実力を知りたくて挑発していたのは気付いた。
アンヘル島はエルフ王国という位置づけになってはいるが、まだまだ国と呼べるような規模ではない。
格で言えばドワーフ王国の方が数段上だ。
しかし、王としての器の大きさを考えた時、この僅かな対応力の差をだけでセベリノはケイの方が上に思えてしまった。
今も、いつの間にかケイのペースになっている。
セベリノは思わず笑ってしまい、ケイの頼み通り審判役を了承した。
「じゃあ、やろうか?」
「お、おうっ!」
手合わせなので、当然致命傷を与えないことがルールだ。
本人が分からないうちに肩に力が入っている様子のバレリオに対し、ケイは余裕の様子で銃を一丁抜きクルクルと回転させる。
そして、2人はセベリノの合図を待った。
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