第11章

第163話

「あっ!!」


「あっ!!」


 転移魔法を使って、アンヘル島へと戻ってきたケイ。

 戻ってきたはいいが、家出のように姿を消したため、バツが悪いので誰にも見つからないように物陰に隠れながら自宅へ向かっていた。

 しかし、その途中に、たまたま通りすがった孫のラウルと目が合ってしまった。


「父さん! じいちゃんが返って来たよ!」


「あっ!! ちょっ……ラウル……」


 折角バレないようにしていたというのに、ラウルはあっさりと大声を出してレイナルドを呼びに行ってしまった。

 その声に反応し、島のみんなにも自分が戻って来た事がバレた。

 みんな心配していたため、ケイが戻ってきたことを喜んでくれた。

 しかし、ケイなら死ぬこともないだろうと、そこまで心配していなかったと言う者がほとんどだった。


「「お・帰・り」」


「た、ただいま……」


 皆と挨拶をして自宅に戻ると、息子のレイナルドとカルロスが、仁王立ちして待ち受けていた。

 その背後には、炎のような物が燃え盛っているような錯覚に陥る。

 それだけで、相当腹が立っているんだろうと理解できた。

 そのため、ケイは少し低姿勢で挨拶を返した。


「ったく! いきなり後は任せるとか言っていなくなるなんて、何考えているんだよ!」


「いや~、すまんすまん」


 とりあえず椅子に座ると、ケイはレイナルドから説教を受けた。

 それはそうだろう。

 美花の死で沈んでいた人間がいきなり姿を消したものだから、いくらケイでもどこかで野垂れ死んでいる可能性も考えられたからだ。


「まぁ、まぁ、父さんも無事戻って来たんだし良しとしようよ」


「……そうだな」


 カルロスの方はレイナルドほど心配していなかったようで、ケイが元気そうなので怒りも跳んでしまったようだ。

 こんな時キュウとクウが入ってくれればもっとありがたいのだが、2匹とも島の子供に捕まって外で遊んでいる状況だ。

 ケイとしては、援護がもらえて助かった。

 レイナルドも怒りも治まったようだ。


「……じゃあ、これ返すよ」


 もしもの時に使えるように、ケイは大容量の方をレイナルドに、美花の形見の方の魔法の指輪をそれぞれ2人に渡しておいた。

 それも、ケイが戻って来たので、レイナルドたちは返そうとする。


「いや、それはお前らに渡したんだし、お前らがそのまま使えよ」


「「えっ?」」


 指輪を返そうとする2人を、ケイは止めた。

 ドワーフ特製の魔法の指輪は、この島にもしもの時が起こった時にを必要な物。

 以前から島外へ出る機会が多かったケイが付けているよりも、しっかり者のレイナルドが付けている方が安心できる。

 カルロスでも良いかとも思うが、脳筋な部分が感じ取れるのでやめておいた。

 その代わりと言っては何だが、カルロスには美花の付けていた魔法の指輪を渡すことにした。

 美花の魔法の指輪は、狩りや戦いで使うには十分な容量だ。

 ケイのよりも容量があるので、使い勝手がいいはずだ。


「島のことはこのまま俺らに任せるってこと?」


「あぁ」


 予定はないが、獣人国やドワーフ王国と関わる時、島を離れたケイに代わって島を仕切るのはこの2人が適任だ。

 ケイがいなかった時も何事もなかったようなので、このまま任せることにした。


「……もしかして、面倒だから押し付けたってことないよな?」


「……ないよ」


 何だかまた島からいなくなりそうな気がしたのか、レイナルドは鋭い質問をしてきた。

 それに対し、ケイはすぐに言葉を返すことができなかった。


「今間があったぞ!」


「そんなことないって……」


 カルロスに間が空いたことを突っ込まれたが、ケイは首を横に振って否定する。

 実は図星とは言える訳がない。

 この島は大好きだが、まだまだ心配なことは尽きない。

 以前のように、どこかの人族の国が攻めて来る可能性も完全には否定できないし、北にある火山も時折地震を起こすなどしており、噴火する気配も残っている。

 対策をしてるが、他にも色々と練っておきたい。

 そのためには、ドワーフ王国の力を借りて何か魔道具を開発して貰おうかと思っている。

 決して、以前の魔道具開発が楽しくて行きたいと思っている訳ではない。


「父さんは好きにしてもいいよ」


「本当か?」


 これまでのことがあるからだろうか、レイナルドはケイが島の外で動き回るのも別に文句はない。

 結局それはこの島のためになることばかりだったからだ。

 むしろ、母である美花が亡くなった時、父のケイが相当落ち込んでいたのが心配だった。

 急にいなくなり、更に心配が膨らんだが、今のケイを見る限りもう大丈夫そうだ。

 あの時のように沈んだ父を見ているよりも、どこに行っているか分かった上で好きに動いてもらった方が何倍もマシだ。

 なので、レイナルドはケイの好きにさせることにしたのだ。


「そうだ!」


「んっ?」


 色々と一段落したところで、レイナルドはあることを思い出した。

 どうせケイはここにいたら問題が起こる。

 それ自体は大したことではないのだが、それとは別のことでケイには動いてもらいたい。


「この魔法の指輪で思い出したんだけど……」


「あぁ……」


 レイナルドの付けているのは、ドワーフ王国でもらった魔法の指輪だ。

 ということは、ドワーフ王国のことなのだろう。


「魔人のことで用があるから、家の島からも誰か来てくれないかって話だった」


「魔人……?」


 そう言えば日向を去る時に八坂にも言われていた。

 人族のどこかの国が魔人族の領に侵攻するとかしないとか。

 どうやらそれにドワーフ族が関わっているのかもしれない。

 レイナルドたちからしたら、ケイがこの時に帰って来たのは都合が良かった。


「しょうがない。行くか……」


 折角島に帰ってきたと言うのに、また外へと行かなくてはならなくなった。

 ドワーフ王国にいつか遊びに行くつもりだったとは言っても、急できな臭い話になりそうなことに嫌そうな顔をするケイだった。






「じゃあ、行ってくる」


 帰ってきたばかりだと言うのに、翌日にはドワーフ王国へ向かうことになったケイ。

 妻である美花の墓に手を合わせ、息子のレイナルドとカルロスの2人に出発の挨拶をする。

 日向の時のように、従魔のキュウとクウを連れて転移することにした。


「あぁ、気を付けて・・・・・


「……? あぁ……」


 2人の言葉に若干の違和感を感じるが、別段おかしなことを言っている訳ではないので、ケイはそのまま転移の扉を開いた。

 転移の先は獣人族のカンタルボス王国。

 ドワーフ王国に向かうにしても、一回の転移で行くには相当な魔力が必要になる。

 なので、カンタルボスへ行ってからドワーフ王国へ向かう予定だ。







「ケイ殿!!」


「あっ!」


 カンタルボス王国に転移したケイは、すぐさま王城へと足を運んだ。

 昨日のうちにレイナルドが連絡をしていてくれたこともあり、あっさりと謁見の間に通された。

 しかし、謁見の間に入り、王であるリカルドの顔を見てようやくあることを思い出した。


「ヘブッ!!」


 リカルドは走り寄ってきて、そのままケイにラリアットをかましてきた。

 あまりにもいきなりのことで、ケイは咄嗟に魔闘術を発動することしかできなかった。

 そのため、ケイは綺麗にラリアットを食らってしまい、変な声をあげて吹き飛んだ。


「イタタタ……」


「レイナルドから聞いていたが、いきなりいなくなるとはひどいではないか!」


 レイナルドたちから感じた違和感は、リカルドのことだった。

 ケイもすっかり忘れていたが、日向へ向かう時、リカルドに何も言わずに島から出て行ってしまった。

 もしかしたら、付いてくると言い出しかねなかったので言わなかったのだが、それが良くなかったのかもしれない。

 遊び相手がいなくなって城から出れなくなり、国の仕事をする日々でずっと発散できなかった鬱憤を晴らすための一撃なのだろう。


「すんません。あの時はそんな余裕がなかったもので」


 一応手は抜いてくれたようで、痛いくらいで済んで良かった。

 リカルドの本気だったら、骨にヒビが入るくらいは覚悟しないとだめだったはずだ。

 それに、ケイが言うように、あの時はリカルドのことは頭になかった。

 それほど切羽詰まっていた状態だった。


「……どうやら元に戻ったようですな?」


「えぇ、ちょっと美花の形見と旅行してきたら何とか……」


 いきなりラリアットをかましておいてなんだが、リカルドはケイが攻撃に対して反応するか確かめたのもあった。

 昨日レイナルドからケイが戻ってきたことを伝えられ、元気を取り戻したとの報告を受けていたが、自分の目で確認するまでは信じられなかった。

 しかし、どうやら報告通りのようで安心した。

 極東の島国である日向。

 聞いただけで自分も行きたいところだが、ケイには良い保養になったようで何よりだ。

 美花のことを忘れていないのも、ケイらしいと言えばケイらしい。


「さて……今日来たのはもしかしてドワーフ王国のことかな?」


「えぇ……」


 勝手にいなくなった事のわだかまりはこれでなしにして、リカルドは今回のケイが来た目的のことを話すことにした。

 とは言っても、リカルドはその目的が分かっているので、早速その話を振った。


「何でも、魔人領に関わることだとか?」


「そうなのだ」


 日向を去る時も聞いていたし、レイナルドからも聞いていたので、少しだけなら何の問題なのかは分かっている。

 しかし、詳しい話は分かっていないので、ケイはリカルドに尋ねることにした。


「我々獣人と魔人は関わり合わないと決まっておるのでな、よく分かっていないというのが現状なのだ」


 人族と魔人、人族と獣人、この関係はかなり悪いが、獣人と魔人は特に何もない。

 というより、お互いあまり興味が無いといったところであろうか。

 人族という共通の敵がいるが、獣人からしたら魔人は人族と肌の色が違うだけの者たちで、魔人からしたら獣人は獣のように荒々しい性格の持ち主たちという印象しかない。

 はっきり言って、お互いがお互いに対して無関心ということだ。

 無関心なために相手のことが分からず、疑心暗鬼から侵攻して来るのではないかと考え、お互い不可侵の関係になることで落ち着いている。

 そのため、今回ドワーフ王国による要請は、どこの獣人国にも来ていないらしい。


「では、今回はエルフの私だけということでしょうか?」


「その通り。レイナルドとカルロスもいいのだが、彼らは島から離れられないだろう? ケイ殿が帰ってきたのはドワーフ族にとっても救いだろう」


 レイナルドとカルロスは、半分は人族の血が流れている。 

 そのため、今回参加するのは良くない。

 2人とも見た目はケイと美花に似ているので何とも言い難いが、スパイ呼ばわりされる可能性もある。

 その点、ケイは純粋なエルフ。

 何も言われることはないだろう。


「ドワーフ族のことを頼みますぞ!」


「分かりました」


 今回参加するのは自分だけなようだが、ドワーフ王国には面白い発明が沢山ある。

 それがなくなるのはもったいないため、ケイは当たり前のように頷いた。


「それはそれとして、今日は日向の話を聞かせてもらおう」


「…………分かりました」


 魔力の回復を待つにしても、結構時間がかかる。

 今日はここで1泊世話になる予定になっているため、時間はかなりある。

 それが分かっているからか、リカルドはケイから日向の話を聞く気満々だ。

 仕方がないので、ケイはリカルドに日向の話をすることになった。


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