第133話

「なかなかやるみたいだが、お前俺たちのこと知らねえのか?」


「俺たちはな、SSダブルランクの冒険者だぞ!」


「………………」


 エルナンとプロスペロは、ケイに向かって話しかける。

 キュウを痛めつけるくらいだから高ランクの冒険者だとは思っていたが、まさかの上から二番目のランクだった。

 ただ、やってることを考えると、人間的には最低ランクだ。

 2人の自慢話を、ケイは黙って聞く。


「ランクを聞いて怖じ気づいたか?」


「怪我したくなかったら、その檻を――」


 ケイが黙っているのを自分たちの都合よく解釈したのか、2人はにやけた表情へと変わる。

 そして、手を伸ばして催促のような仕草をした時だ。


“パパパパンッ!!”


「うがっ!?」


 しかし、喋っている途中のプロスペロに、ケイは両手の銃口を向けて連射した。

 連射の上に、先程よりも速い弾丸が飛んできたことで、プロスペロは躱しきる事が出来ず、左足の脛に一発直撃した。


「ぐあぁ…………!! 痛えぇ…………!!」


 弾丸を受けた足に穴が開き、血が噴き出し地面を転がりながら痛がるプロスペロ。


「てめえ! 人が……」


“パパパパンッ!!”


「おわっ!!」


 プロスペルが話している最中に攻撃したことに、エルナンが文句を言おうとしたが、その途中でケイはエルナンに向かって銃を連射した。

 槍を主武器にして近距離の攻撃への反応がいいエルナンは、飛んできた銃弾をギリギリで避けることに成功する。


「何だ? ああ。もしかして、話してる最中だとか言うつもりだったか?」


“パパパパンッ!!”


「くっ!?」


 この距離なら戦いながらでも会話くらいできるだろ、とでも言うかのように、ケイは話しながらエルナンへ攻撃をし続ける。

 近くでこれだけの威力の攻撃を連射されては、被弾する可能性があるため、エルナンは銃弾を躱しつつケイから距離を取る。


「さっさとカギ出せや!」


 避けられるのも構わず、ケイは銃を連射し続ける。

 そして、キュウを閉じ込めた檻のカギを出すように要求する。


「調子に乗るなよ!」


 距離を取ることでケイの銃による攻撃に慣れたのか、エルナンはタイミングを合わせながら、今度はケイへと近付いていく。

 そして、銃が発射されたすぐ後を狙って一気に近付くと、槍による刺突を放ってくる。


「この程度の攻撃をしてくるお前の方が、調子に乗ってるって言うんだよ!」


「うぐっ!?」


 槍による攻撃を余裕を持って避けつつ、ケイはエルナンの腹へ蹴りを叩きこむ。

 蹴りが鳩尾に入ったエルナンは、腹を抑えながら後退した。


「この野郎!!」


“ドンッ!!”


 エルナンの相手をしているうちに、プロスペロは魔法か薬で回復させて足の傷を治したようだ。

 そして、エルナンが離れたタイミングに合わせ、怒りに任せた巨大火球の魔法を放ってきた。


「……馬鹿がっ!!」


“ボッ!!”


 場所を考えない魔法を放ってきたプロスペロにイラ立ちつつ、ケイは土魔法を発動する。

 そして、ケイに向かって飛んでくる巨大火球を、そのまま土魔法で作った壁で上空へと受け流した。


「ハッ!!」


“フッ!!”


 反り立つ壁のような形のカーブによって上空へと上がった巨大火球へ、ケイは強力な魔力を放ち霧散させる。

 自然にできた炎ではなく魔力で作った物なので出来たことだ。

 魔法で出来た炎や水などを消し去るには、作り出した以上の魔力を消費しなければらない。

 そのため、余程魔力量に自信がないとできない芸当だ。


「なっ!? 消した!?」


 このようなことは、魔力の使い方に大きな差があることを突き付けられているのと同じで、どちらが上位者であるかを分からせるための行為だ。

 高ランクになってから、このような舐められた行為をされるなんて思ってもいなかったのか、プロスペロは驚き、慌てる。


「プロスペロ!!」


「っ!?」


 自分の放った火球が消えた所を見ていたことで、上空へ視線が行っていたプロスペロへ、エルナンが焦ったように声をかける。

 何事かと視線を落とした瞬間、ケイの姿が目の前にあった。


「人がいないとは言っても、こんな所でこんなのぶっ放してんじゃねえ!!」


“パンッ!”“パンッ!”


「ぎゃっ!!」


 村の少し外れの位置で人も避難したとは言っても、少し離れた所には家や畑もチラホラある。

 もしも、さっきの魔法をケイが避けたりしていたら、関係ない人に迷惑をかけることになっていた。

 そんなことも考えないことに腹を立てたケイは、近付くと至近距離からプロスペロの両太ももを銃で撃ち抜く。

 折角治したばかりだというのに、プロスペロは短い悲鳴を上げた後、痛みで地面をのたうち回ることになった。


「おいっ! お前! カギはどっちが持ってる!?」


 左手の銃を呻くプロスペロに向けたまま、ケイはエルナンへ話しかける。

 要求するのは、キュウを閉じ込めている檻のカギだ。


「そんなこと言う“パンッ!”」


「ぐあ!!」


 ケイの質問を突っぱねようとしたエルナンだったが、その言葉の途中でケイはプロスペロの左脛へ銃弾を撃ち込む。

 激痛の箇所が増え、プロスペロはまたも悲鳴を上げる


「カギはどっちが持ってる?」


「それは…………“パンッ!”」


「がっ!!」


 ケイはもう一度同じ質問をする。

 まるで、きちんと答えなければ、またプロスペロを撃つというのを言っているかのようだ。

 その空気をちゃんと読み取ったエルナンは、その質問に答えようか迷う。

 そして、その迷いが言い淀むという間を開けたため、ケイはプロスペルの右脛を撃ち抜いた。

 痛みで脂汗を大量に流し始めたプロスペルは、またも悲鳴を上げる。


「カギは、どっちが、持っている?」


「お、俺だ……」


 三度目の正直とでも言うように、ケイはまた同じ質問をした。

 ちゃんと答えず、これ以上相方を痛めつけられる訳にはいかない。

 そう思ったエルナンは、ようやくケイの質問に正直に答えた。


「じゃあ、寄越せ!」


「いや“パンッ!”」


「がっ!!」


 鍵を持っているのがエルナンだと分かり、ケイは右手の銃をホルスターにしまって、寄越せと言ったそのままのジェスチャーをする。

 それに対して、少しだけ話を逸らそうとしたエルナンだったが、表情ですぐにバレ、プロスペルの右腕に穴が開くことになった。


「寄・越・せ!」


「わ、分かった!!」


 無駄な話も許さないとでも言うようなケイの圧力に、エルナンは屈した。

 どうやら魔法の指輪の中に収納していたらしく、取り出したカギをケイに見えるように掲げる。


「こっちに投げろ!」


 取り出したカギを手に入れ、さっさとキュウの怪我を治したい。

 なので、容赦をする気のないケイは、カギを渡すように要求する。


「エルナン! さっさと投げ“パンッ!”」


「うぎゃ!!」


 出したカギを投げ渡すことを若干ためらっているのか、カギを投げようとするのが僅かに遅れる。

 ためらっているうちに、ケイがまた撃ってくるかもしれない。

 その恐怖にかられたプロスペロは、エルナンに催促するように言おうとしたが、それを遮るようにケイはプロスペロの右腕を撃ち抜く。


「お前は黙ってろ!」


「ヒ~……、ヒ~……」


 両腕両脚に穴を開けられ、噴き出る血と痛みで半泣きになりつつあるプロスペルに、ケイは冷たい目を向け黙らせる。


「わ、分かったから、そいつを撃たないでくれ」


 相方を不憫に思い、エルナンはケイの要求通りにカギを投げて寄越した。


「アウレリオ! これでキュウの入った檻を開けろ!」


「わ、分かった」


 2人は別に弱いわけではない。

 なのに、そんな2人を子ども扱いするような強さのケイ。

 見ていただけのアウレリオも若干引きつつ、ケイから受け取ったカギで檻を開けたのだった。


「アウレリオ!」


「んっ?」


 エルナンから受け取ったカギによって、ミスリル製らしき金属で出来た小さな檻に入れられていたキュウが解放された。

 しかし、キュウは攻撃を受けて大怪我を負っており、かなり辛そうに息をしている。


「キュウにこれを飲ませてやってくれ!」


「回復薬か?」


 そう言って、ケイは魔法の指輪から取り出した物をアウレリオに投げ渡す。

 受け取ったアウレリオが言ったように、渡したのは回復薬だ。

 ケイが作った回復薬で、そこら辺の店で買うのよりも良い出来になっている。


「ほいっ! 飲め!」


「っ!?」


 全身毛玉でどこだか分かりづらかったが、アウレリオは受け取った回復薬をキュウの口へと持って行く。

 小さいので、回復薬をちょっとずつ口に含んで行くキュウ。

 飲んだ量が増えていくごとに、キュウの体の怪我が少しずつ回復していき、辛くて閉じていた目も開いていく。


「おっと!」


【しゅじん!】


 回復薬のビンを一本空けると、キュウの怪我は完全に治ったようだ。

 完全に痛みが引いたキュウは、アウレリオの手から飛び降り、魔法を使ってケイの胸へと飛び込む。

 アウレリオにとって、キュウは一応捕獲対象である。

 それがせっかく手にあったのに、離れて行ってしまったため、アウレリオは若干複雑な心境になる。


「大丈夫か? まだおとなしくしてろよ」


【うん!】


 胸へと飛んできたキュウを右手で受け止め、ケイは優しく話しかける。

 そして、元気に返事をするキュウを胸のポケットに入れてあげる。

 最近では定位置になりつつある場所に入り、キュウも何だか嬉しそうだ。


「おいっ! もういいだろ? プロスペロを治療するから武器をしまえよ!」


「あぁ、そうだったな……」


 キュウが解放されて怪我も治ったのだから、もう自分たちには用はないはず。

 そう思ったエルナンは、相棒であるプロスペロのことを心配する。

 ケイの足下にいるプロスペロは、痛みと出血で顔色が少し悪くなっている。

 このまま放って置いたら命も危ない。

 心配するのも当然かもしれない。

 エルナンが戦う意思がないことを示す為なのか、魔法の指輪に武器を収納したのを見て、ケイはプロスペに銃を向けるのをやめて距離を取った。


「プロスペロ!」


“パンッ!”“パンッ!”


「うがっ!?」


 ケイがアウレリオの方に向かうのを見て、エルナンはプロスペロのところへと駆け寄る。

 その時、無防備のエルナンの両足へ銃口を向け、ケイは引き金を引いた。

 戦う意思がないと示すように武器をしまったのにもかかわらず銃弾を受けたエルナンは、太腿に穴を開けて倒れ込む。


「て、てめえ! 何しやがる!?」


 怪我の痛みで立ち上がれず、上半身だけを起こしたエルナンは、当然ながら抗議の声をあげる。

 無防備の人間に攻撃するなんて、信じられないと言いたげな目をしている。


「お前ら宿屋の主人とその周辺の家の人たちを大怪我させたよな?」


 エルナンたちは、恐らくアウレリオがここ数日会っているという理由でケイに目を付けたのだろう。

 ケイがどんな男だか知らないが、アウレリオが意味なく時間を使う相手なら、何かしら直感が反応したのだろう。

 一緒に冒険者として仕事をしていた時、何度かその直感に助けられたこともある。

 その直感を、アウレリオ以上に信用していた2人は、ケイの部屋へ侵入することを決意した。

 そして、アウレリオがケイといなくなっている間に宿屋へと向かい、ケイの寝泊まりしている部屋のカギを出すように言ったが、当然のように宿屋の主人は断ったため、2人は力尽くで主人からカギを奪い取った。

 その時、抵抗した主人は大怪我を負ったらしい。

 その後、窓から逃げたキュウたちを追う時、窓を壊したのを見られたとかいうくだらない理由で魔法をぶっ放したと住民たちが言っていた。

 なんとか死人が出なかったのは良かったが、多くの怪我人を出した張本人であるエルナンたちに対し、村人たちは怒り心頭だった。


「彼らにお前らを捕まえてくれって頼まれたんだよ」


 煙の上がる宿屋に、外から戻ってきたケイが着くと、ケイは村人にどうしてこうなったのかを聞いた。

 理由を聞いて、暴れたその2人がどっちへ行ったか聞いた時、ケイは村人たちの代わりにぶっ飛ばしてきたやると約束したのだ。


「自分たちが好き勝手して、他の人間には同じことをされたくないって言うのは我が儘すぎるだろう? 自分がしたことは自分もやられるかもしれないということを考えないとな?」


「クッ……」


 たしかに自分勝手に行動し、多くの村人に怪我をさせたが、その報復が来ると言う可能性は全く頭になかった。

 それもそのはず、自分たちが高ランクの冒険者だからだ。

 その高ランク冒険者の自分たちをあしらう人間が、こんな所にいると思わなかったため、今更ながらに後悔し、エルナンはバツが悪そうに顔をうつ向く。


“パンッ!”“パンッ!”


「ガッ!?」


「これで抵抗できないだろ?」


 後悔したからと言って、それで許すわけがない。

 ケイはエルナンの両腕を撃ち抜き、完全に抵抗できないようにしてやった。


「このまま村人たちに渡してもいいが、このままだと2人とも死ぬな……」


 恐らく、怪我を負ったり、家族を傷つけられた村人たちは、怒りを2人へぶつけるだろう。

 そうなると、言葉だけではなく物理的という場合もある。

 村人の暴力で死ぬ可能性もあるが、ケイによって受けた怪我による出血多量死という可能性が高い。

 流石に血を止めずに渡す訳にはいかないため、ケイは土魔法で作った紐で2人を縛り上げ、その後、血が止まる程度の回復魔法をかけたやった。

 多めの魔力でケイが作り上げた特製の紐だ。

 抵抗しても、脱出できることはないだろう。


「駐在兵にでも渡しに行くか?」


「そうだな」


 村人に渡すにしても、怒りに任せて2人を殺してしまうかもしれない。

 それはそれでケイたちのせいではないので構わないのだが、10日ほどの滞在だが、ここの人たちには結構良くしてもらった思いもある。

 彼らを人殺しにするのは気が引けるので、アウレリオが言うように、国からこの村に派遣されている駐在兵に渡して、後のことは任せることにしたのだった。


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