第123話
「何だかつけられているな……」
日向へ向けて移動を続けるケイと従魔2匹。
町を出て今日も東へ向けて歩いていたのだが、ケイはずっと後ろからついてくる集団に気が付いた。
向かっている方向が同じなのかと思って、わざと遠回りする道を通ってみたりしたのだが、それでもその気配たちはずっとついてきていることから、明らかにケイたちに狙いを付けている。
【やっつけちゃう?】「ワフッ?」
ケイの呟きに、従魔のキュウとクウが反応する。
旅の資金稼ぎに、多くの魔物と戦う機会が増えているせいか、2匹とも強くなり、戦力としてはかなりのものになってきている。
だいたいの魔物はケイが相手しているのだが、数が多い場合は手伝ったりしてもらっていたのが要因だろう。
「キュウだけで大丈夫だろ……」
2匹ともやる気になっているが、付いてきている人間の強さを考えると、どちらかだけで十分だ。
柴犬そっくりの魔物であるクウだと、牙や爪の攻撃で殺傷能力が高い。
ケセランパサランという魔物でソフトボールほどの大きさのキュウは、魔法特化の戦闘なのでダメージ調整できるだろう。
「殺すなよ。何が目的だか聞かないといけないから……」
【うん!】
別に始末してしまっても構わないが、一応つけてきている理由を聞いておきたい。
もしも、ケイがエルフだと知ってのことだとしたら、今ケイが付けている耳パッドの意味がなくなる。
それに、バレているのにパッドを付けていると思うと、かなり恥ずかしい。
キュウに一言注意をして、つけてきている人間の退治を任せることにした。
“ボッ!!”
「がっ!?」「ぐおっ!?」「うっ!?」
クウの頭の上に乗っていたキュウが、魔力をためて魔法を放つ。
そして、次の瞬間には、水の球が尾行者たちへ襲い掛かった。
突如飛んできた水の球に、直撃した男たちはなす術なく短い声をあげて倒れた。
「……反応通り3人か」
ケイの探知に引っかかった反応通りの数だ。
指示通りの結果で倒したキュウを、褒めるように撫でてあげる。
3人とも武器などを腰に携帯していることや、防具を装着している所を見ると、どうやら冒険者のようだ。
一応ケイも冒険者登録はしているので、同業者と言えば同業者だ。
「うぅ……」
キュウの魔法を受け、気を失わずに済んだのは3人の内1人だけだった。
持っている武器とかを見るに、魔導士系の奴だろう。
そのため、キュウの魔法への抵抗が強かったのかもしれない。
話を聞くにはちょうどいい。
「おいっ! お前ら何が目的でつけてきたんだ?」
「………………」
その魔導士の男に尾行してきた理由を尋ねるが、その質問に対しそっぽを向いて無視してきた。
最初から素直に答えるとは思っていなかったが、その態度には腹が立つ。
「このまま魔物の餌にしても良いんだぞ?」
「グルル……」
イラっと来たケイは、クウをけしかけてその魔導士に脅しをかける。
クウも偉いもので、ケイの意図を察して顔をしかめ、今にも襲い掛かりそうな演技をする。
「ま、待ってくれ!」
クウのその演技に引っかかったのか、男は助けを求めてきた。
その言葉を聞いて、クウは呻るのを止める。
そして、ケイの手から下ろされたキュウを頭に乗せておとなしくなった。
「じゃあ、さっさと喋れ!」
キュウとクウのお陰で喋ることになり、ケイは地面に座ったままの男の前に立って質問の答えを促す。
これ以上無駄に時間をかけられたら殺ってしまいそうなので、脅しの意味も込めて銃を男の頭に向けておく。
「お、俺たちがあんたを付けていたのは……そいつだ」
「んっ? キュウ?」
【……?】
そう言って男が指さしたのは、クウの頭の上に乗っているキュウだった。
それだけでは理由が分からず、ケイと、指をさされた張本人であるキュウは首を傾げる。
「その毛玉の魔物が気に入ったっていう金持ちがいてな。密かに依頼を受けたんだが、結果はこの様だ……」
この男が言うには、何でもその金持ちというのは商人で、彼らにちょくちょく金額の良い仕事を依頼してくれている人間らしい。
いつもの恩があるからか、彼らはその商人の依頼を断ることができなかったそうだ。
彼らは街中でも尾行しており、キュウが一匹になる所を待っていたらしい。
しかし、なかなかそんな機会がなく、町を出ていったケイたちをそのまま追って、今に至るそうだ。
「なんだ……。てっきり俺は……」
尾行されている理由がキュウだと知り、ケイは安堵のため息を吐いた。
自分がエルフだとバレているのかと思って、心配したのが馬鹿みたいだ。
安心したからか、思わずそのことを口に出しそうになった所で止める。
「んっ?」
「……いや、何でもない」
他に何か尾行される理由があるようなケイの発言に、男は僅かに反応する。
思わず余計なことを言ってしまいそうになったケイは、すぐに訂正する。
「今回は勘弁してやるから、これ以上ついてくるなよ。次は命はないからな!」
「あぁ、分かったよ」
理由が分かればもう彼らに用はない。
気を失っている他の2人のことは放置し、ケイたちはまた東へ向けて歩き始めたのだった。
【キュウにんきもの!】
「ハハ……、そうだな」
男たちが遠く離れた所で、キュウが嬉しそうに言ってきた。
たしかにフワフワしてそうで、ペットにしたいと思う者はいるかもしれない。
その気持ちも分からなくはないので、キュウの言ったこともあながち間違いではない。
そのため、ケイは思わず笑ってしまった。
◆◆◆◆◆
「おいおい、何だよこれ?」
日向の国へ向かうケイだが、またも面倒なことが起きた。
地図に描かれた街道を通り次の町へと向かっていたのだが、その途中でケイたちは多くの人間に囲まれた。
誰も彼もが武器や防具を装着している所を見ると、恐らく冒険者だろう。
街道の左右は樹々に覆われており、そちらに逃げようものなら魔物の餌食になりに行くようなものだ。
「お前ら見逃してやったってのに……」
ケイたちが進む街道の前後を囲っている冒険者たちだが、前方には見たことがある者たちが混じっていた。
あっという間に倒したので、思い出すのに少々時間がかかったが、2週間ほど前にキュウを狙って尾行してきた3人組だ。
その3人に気付き、この集団の目的が分かった気がする。
あの時、倒しただけで命は奪わないであげたというのに、まだ懲りていないようだ。
「生憎、こっちもこのまま引き下がるわけにはいかないのでな……」
彼らからしたら、不安定な収入の冒険者稼業をしていくうえで、とても重要なスポンサーの依頼で、「できませんでした」では話にならない。
そのため、何としてもケセランパサランの捕獲をするため、冒険者仲間を引き連れて来た。
彼らに頼むにあたり、この依頼が成功しても完全に赤字だが、スポンサーへの信頼を失うことに比べれば安いものだ。
「100人もいないのにか?」
どうやら横のつながりが結構あるようだが、それでも相手との実力差がある程度分からないなんて、たいした冒険者じゃないというのが透けて見える。
そんな彼らが集めたという冒険者たちだが、3人と似たり寄ったりの実力の持ち主たちだと分かる。
それでも数が多ければケイでも慌てるかもしれないが、7、80人程度しかいない。
アンヘル島で何千人もの敵を相手に戦った時と比べれば、この程度では数にならない。
「テメエ……!! 調子こいてんじゃねえぞ!」
ケイの言葉を聞き、前後にいる冒険者たちは殺気立つ。
少々厄介な相手だということは誘われた時に聞いてはいたが、目の前にいるのは戦いで役に立つというより、ただのペットにしか見えない従魔を連れた美形の若者にしか見えない。
そんな奴に舐められたのだから、そうなるのも仕方がない。
「この数相手に勝てると思っているのか?」
「そっちこそ、その数で勝てると思っているのか?」
以前関わった3人組のうちの1人である槍使いが、ケイの態度に疑問を感じる。
この数から一斉に殺気をぶつけられているというのに、何ともないような表情をしているからだ。
しかし、質問に帰ってきたのは、先程同様に舐めた言葉だった。
「そいつと犬は殺してしまっていい……」
それに我慢が出来なくなったのか、槍使いはこめかみに青筋を立てると冒険者たちに話し始めた。
目的はケセランパサランの捕獲。
それはきっちりと教えているので、他はどうでも良い。
「やっちまえ!!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
怒りで我慢の限界だった冒険者たちだったが、合図があったことで、我先にとケイたちへ向かって走り出した。
みんな目が血走っていて、血圧上がるぞと言いたいくらいだ。
【しゅじん! どうする?】
標的のキュウは、クウの頭の上で呑気にケイに問いかけてくる。
「俺がやるから漏れたのだけお前らが相手しろ」
【りょうかい!】「ワンッ!」
見た目に騙されているが、キュウやクウでもこの数なら倒せるだろう。
しかし、こんな奴らに怪我でもさせれたら可哀想だ。
なので、ケイが一気にやることにした。
「ヌンッ!!」
前には右手、後には左手を向けて、ケイは両手に魔力を集め始める。
「「「「「ッ!?」」」」」
“ボンッ!!”
一気に魔力が膨れ上がったのを見て、冒険者たちはケイのことを脅威に思っただろうが時はすでに遅い。
ケイの両手から発射された爆炎によって、街道の前後が爆発を起こす。
その爆発によって生じた炎によって、生き残っていた者たちも燃え始めた。
【……みんなもえちゃった】「ワフッ……」
漏れた奴を相手しろと言われたが、漏れた人間なんていなかった。
準備していたキュウたちは、肩透かしくらったような反応をする。
「……なっ!? なんなんだよ!!」
「こんなことできる人間なんて聞いたことない!!」
目の前で、集めた冒険者たちが焼かれて行くのを目の当たりにし、僅かに助かった者たちと、高みの見物を決め込んでいた3人組は恐れおののいている。
「言いたいことはそれだけか?」
「……ヒッ!!」
ケイに睨まれ、3人は腰が引けた状態で後退りを始める。
他の生き残りたちも同様だ。
「に、逃げろ!!」
「今回は逃がさんよ!」
3人組と生き残った者たちは、ケイに背中を見せてバラバラに逃げ出そうとする。
折角、命を取らないでやったというのに、その恩を忘れてまた襲い掛かってくるような奴らだ。
2度あることは3度あると言うし、今回は許すつもりはない。
生き残った者たちも含めて、全員始末するつもりだ。
「や、やめ……」
ホルダーから拳銃を2丁とも抜き出し、自分から逃げて行く者たちへ向けて、1人1発撃ち放つ。
いまさら命乞いなんてもう遅い。
探知で確認したが、発射した後は誰も逃げて行こうとする反応がなくなった。
3人組の奴らも、脳天を撃ち抜かれて動かなくなっている。
「……あ~あ、焼却処分が面倒だな」
亡骸を放って置くと、魔素が溜まってアンデッド系の魔物が生まれてしまうかもしれない。
そうならないためにも、火葬しないといけない。
別に、アンデッド系の魔物が誕生してしまっても、困るのは人族なので別に構わないのだが、罪なき者を巻き沿いにするのは気が引ける。
仕方がないので、キュウとクウに手伝ってもらい、ケイは冒険者たちの亡骸を火葬した。
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