第114話

「えっ? 入港できない?」


 港に入り、ドワーフ王国へと入国する予定だったケイたち一行。

 しかし、港は見えているのに停泊できる場所がなく、少し離れた海の上で留まっているしかない状況になっている。

 同じ状況で留まっている近くの船の船員に問いかけると、入港できないという情報にケイたちは呆気にとられた。


「どういう訳だか多くの船が停泊していて、船を泊める場所が見つからない状況らしい」


 普段なら、漁船や小型の客船などが停泊しているとは言ってもいくつか停泊できる場所があるものなのだが、今日に限って何故だか泊める場所が見つからない。

 他にも停泊場所を探している船があるが、この船同様場所がなく海上で漂っているしかできない状況になっている。


「……なんかあったのかな?」


 着岸できないのであれば仕方がない。

 なので、船は少し離れた沖で留まることになった。

 錨を下ろして、船をとりあえず泊めた状態で岸を眺めていると、何だか町が騒がしくなっているように思える。

 多くの人が慌てるように船に荷物を積んでいて、発車がいつでもできる状態になっている。

 その様子を見ていると、何かに追われているようにも見える。


「近付けなければ何が起きているのか分からないな……」


 リカルドも何が起きているのかは分からないが、何かが起きているということを察知した。

 しかし、望遠の魔道具を使用して見渡しても、遠い海の上からでは判断が付かない。


「ケイ! 見てくれば?」


 何が起きているのか分からないなら、船から岸まで跳んで確認だけでもしてくればいい。

 そうすれば、港に入れないでいる理由が分かるかもしれない。

 そのため、美花は軽い感じでケイに確認に行かせようとしてきた。

 ただ、この船の場所から岸にまでは結構な距離がある。


「いや、俺一人行っても……」


 別に岸まで跳ぶことができない訳ではないが、入国には色々と手続きが必要になる。

 初入国であるケイが審査もなしに入国すれば、不法入国を疑われるかもしれない。

 そんなことになったらエルフの印象が悪くなってしまう。

 なので、美花の提案にケイはためらってしまう。


「なら、私も行こう!」


「えっ?」


 ケイが様子を見に行くのをためらっていると、リカルドが一緒に行くと手を上げた。

 一国の王なのだから、何か起きているかもしれない所に乗り込んで行くのはいかがなものかと思う。


「ケイ殿のことも説明できるし、あそこまで跳べるとなると私くらいだろう?」


 たしかに、何度か入国経験のあるリカルドも一緒なら、ケイが密入国ではないということを証明してもらえるかもしれない。

 それに、この船から岸まで跳ぶにしても、かなりの実力がないと届かないだろう。

 となると、リカルドと一緒に確認に行ってくるしか選択肢がなくなった。


「護衛の人たちは?」


「美花殿の護衛に付いていてもらう」


 元々、リカルドは護衛なんて必要ない程の実力の持ち主だが、置いて行くのはどうなのだろう。

 ケイか美花の転移魔法でなら全員一緒に岸へと移動できるかもしれないが、あまり転移魔法が使えるということは知られない方が良いと言われている状況では、ここでそれを使う訳にはいかない。

 しかし、何かあったとしても美花を守ってもらえるなら、どうなろうが心配はなくなった。


「……じゃあ、様子を見に行ってきますか?」


「えぇ!」


 とりあえず、ドワーフ王に会うにしても、船のことをどうにかしなくてはならない。

 ケイはリカルドと共に、船から岸へと跳んだのだった。







「ぐっ!? いったいどうなってるんだ?」


 ケイたちが海岸へと降り立ったころ、魔物の大群と戦っていたドワーフたちは、町の城壁付近まで下がって来ていた。

 そして、味方が怪我をして離脱して減っていくのを見て、隊長格の男は悔し気に声をあげる。

 味方は怪我をしてジワジワと減っていくのに、魔物の群れは一定数からずっと変わらない。

 倒しても、その分補充されているかのように魔物が増えている。


「隊長! このままでは全滅してしまいます!」


 仲間の数が減っている上に、この魔物の数ではとてもではないが勝てる見込みがない。

 怪我人が運ばれて行っている様子で、恐らく町中の住人たちも慌てている状況だろう。

 このままでは町中への侵入も阻止できないかもしれない。

 部下の男は、隊長の男に対して一度退き、形勢を立て直すことを求めた。


「くっ!!」


 これ以上退くとなると、城壁を利用した戦いになる。

 これほどの魔物の数を相手に、籠城戦が通用するかは疑わしい。

 ならば、この場で玉砕覚悟で攻め込むという選択も浮かぶ。

 そのため、隊長の男は退くという選択をためらう。


「隊長!!」


 隊長の男が考えていることを察したのか、先程の部下の男はまたも隊長に退くことを求める。

 魔物がどうして減らないのか原因が分からない状況で、玉砕覚悟を選択するのはリスキーだ。


「撤退だ!! 総員城壁内へと避難を開始しろ!!」


「「「「「おうっ!!」」」」」 


 部下の考えは正しい。

 自分一人で突っ込むのなら自己責任で済ませることができるが、部下の命を請け負う立場ではそんなことを選択する訳にはいかない。

 反撃の機会をしっかりと見つければ、勝ちを得にくい。

 その機会を作るためには、敵のことをよく見て解析するしかない。

 隊長の男は、自分が殿の立場に立ち、部下たちが城内へ退くことを指示したのだった。






◆◆◆◆◆


「魔物の出現?」


「えぇ……」


 入港できずにいたため、船から岸へと跳んだケイとリカルド。

 ドワーフ国内がどこか慌ただしい雰囲気が流れていたため、情報を得るために王城を目指した。

 リカルドのお陰もあり、王城にたどり着いた2人は、すんなりと中へと案内してもらうことができた。

 そして現在目の前にいるのは、この国の宰相のゴンサロというドワーフだった。

 島に入った時からそこかしこにいるドワーフを見てきたが、やはりイメージ通りの体型をした者たちだった。

 大人でも150~160cm位の身長で、全体的に太い体はずんぐりした体型をしている。

 男性も女性も体型的には同じようで、男性の場合は髭を蓄えているのが特徴になっているようだ。

 手先が器用だという話だが、見た目からだと本当かどうか信じられない気もしてしまう。

 ケイたちが今話している宰相のゴンサロも体型とかは同じで、彼が違うのは顔と服装くらいだろう。


「恥ずかしながら、状況は上手くいっていおらず、多くの兵が怪我をして撤退を余儀なくされている模様です」


「なるほど……、それでみんな避難準備をしているのか……」


 魔物に圧されているなんてことを国民に知らせれば、パニックになってしまうという可能性もある。

 しかし、知らされていない状況では、逃げる機会すらなく魔物に蹂躙されてしまうかもしれない。

 この国の住人は、どうやらこう言った時の対処法を訓練しているのか、慌てているようでもパニックには陥っていない様子だった。


「お2人には申し訳なく思っております。わざわざ来ていただいたのに……」


 この国に来たのも、会いたいと言ったドワーフ王の希望に合わせて来たと言うのに、入国もまともにできない状況になっている。

 そのことに対し、宰相のゴンサロは申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「マカリオ殿は大丈夫なのですかな?」


 リカルドが言ったマカリオとは、この国の王の名前だ。

 エルフのケイに会ってみたいと言っていた張本人なのだが、この非常事態に出陣しているのだろうか。


「マカリオ様は……体調が優れず、床に臥せっている状態です」


「何っ!? 大丈夫なのですかな?」


「えぇ、熱が高いですが、状態は安定しています」


 現場に出て、指揮を執っていると思ったのだが、マカリオはそれとは関係なく体調不良で動けないでいるそうだ。

 人の倍近い寿命のドワーフ族。

 しかし、マカリオはもう250近い年齢になっている。

 なので、いつ体調を崩してもおかしくはないとは言え、不運は重なるものだ。


「そういえば、最近会った時も顔色がいまいち良くなかったな……」


 年齢的にはいつお迎えが来てもおかしくない。

 程度の差があるが、ここ数年体調を崩すことが何回かあったと聞いている。

 今回も、年齢による抵抗力の低下からの発熱かもしれない。


「ゴンサロ様!!」


「どうした!?」



 ケイたちと話している最中ではあるが、差し迫った状況のため、ゴンサロは報告に来た兵のことを優先することにした。

 ケイたちも状況を理解したので、別に失礼だとかは思わない。

 その兵の報告を黙って聞いているつもりだ。


「それが……」


 報告に来た兵は、リカルドがいることに若干戸惑いながらも、ゴンサロに状況を話し出した。

 何度倒しても補充される魔物。

 それによって、じり貧になり、全軍が撤退して来たということを説明した。


「何!? 全兵撤退だと?」


「はい……」


 ドワーフ族は、人間よりも全体的に太い肉体をしている。

 その肉体から繰り出される攻撃は、威力が高い。

 しかも、鍛冶の能力も高いことから、使用している武器もかなりの業物だったりする。

 ほとんどの兵は、大抵の魔物相手に後れを取るようなことはない。

 なのに、その兵たちが撤退を余儀なくされるなんて、よっぽどの敵なのだろう。


「マカリオ殿がいない状況で、誰が指揮を執っているのですかな?」


 王であるマカリオは、魔道具開発の天才と言われ、この国の発展に寄与した人間だ。

 魔道具だけでなく、魔物の襲来に対しても兵を率いて退けたことも何度かあった。

 彼がいることで、ドワーフたちは一枚岩となって前へ進むことができてきたのだ。

 そのよりどころがない状況で戦うとなると、もしかしたら連携が上手くいっていないのかもしれない。

 そのため、リカルドは指揮を取っている者が誰だかを尋ねたのだった。


「王子であるセベリノ様です」


「セベリノ殿か……」


 マカリオの息子のセベリノ。

 父が天才なだけに、かなりのプレッシャーを受けて育ってきている。

 しかし、彼は父には勝てずとも懸命に自身を高める努力をし続けてきた。

 それを認めている人間も少なからずいる。

 ただ、やはり父であるマカリオに比べれば見劣りする。


「ゴンサロ殿。我々が助力に向かおう」


「「っ!?」」


 リカルドの提案に、ケイとゴンサロは目を見開く。

 ゴンサロは、自国のことでもないのに、リカルドほどの男に助けをもらえるということで、ケイの場合は我々・・ということは自分まで数に入っているということにだ。


「しかし、お客人を危険な目に遭わせるわけには……」


「何、危なくなったらちゃんと引かせてもらうつもりだ」


 ゴンサロが2人のことを心配しているが、他国のために命を懸けるつもりはリカルドにはない。

 当然ケイにもだ。

 2人とも危険だと分かれば、遠慮なく撤退をさせてもらうつもりだ。


「勝手に決めてしまったが宜しいか? ケイ殿」


「えぇ……、構いませんよ」


 事後承諾のような状況でリカルドはケイに言って来る。

 元々はドワーフ王国とのつながりを持つことができればいいと思っていたケイ。

 なので、手伝うのは構わない。

 ただ、勝手に決められて、この状況では断りづらい。

 内心仕方なく、けいはリカルドと共に魔物の退治を手伝うことにした。


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