第429話 大寒波襲来(10)

「殺気って……」

「よくあるんですよ。傭兵というのは――」

「治安とか大丈夫なんですか? それよりも傭兵って、俺の感覚だと、どこかの国に雇われるイメージなんですが……」


 海外でプロドライバーとして活躍していたころ、民間軍事組織に所属している傭兵と呼ばれる人の話を聞いたことがあるが、そういうのは基本的に国に雇われることが多いと教えてもらったことがある。

 

「まぁ、ゴロウ様は色々と思われていますから」


 色々とはいったい……。


「あの、その……、俺……大丈夫なんですよね?」

「はい。ゴロウ様の身は、ルイズ辺境伯軍が全力でお守りしますし、何よりノーマン様に仇なそうとする者が入れば組織ごと、ノーマン様が壊滅させますし、竜帝国やエルフにハイエルフ族も黙ってはいませんから。それよりも、ノーマン様と接点を持ちたいと思っている商人や貴族の方が多いと見た方がいいかと」


 それと傭兵に、一体全体、どういう繋がりがあるのか……。


「そうですか」


 まぁ、ここはナイルさんの言葉を信じるとしよう。


「あのナイルさん」

「はい?」

「少し休ませてもらっても?」

「そうですね。誰かいませんか!」


 ナイルさんの声が響き渡る。

 建物の入り口は、ホールとなっていて天井が吹き抜けで、天井からはシャンデリアがかけられている。

 さらに建物の中は石造りで、装飾品も武骨そのもので、絨毯すら敷かれておらず、壁も石から切り出された石で組み合わされたままの状況。

 隙間には、モルタルが塗られていて、建築レベルとしては高いとは言えないが、それでも最低限の建物としての体裁は保たれていた。

 ホールに、ナイルさんの声が響き渡り――、


「はいはい! あっ!」


 ホールから右手側に伸びた通路から軽い足取りで女性が走ってくると、俺とナイルさんの前で足を止めた。

 彼女は、ナイルさんを見たあと、啓礼し――、


「副隊長! お帰りになられたのですね!」

「ええ。それよりもターナ、駐屯地に殆ど人の気配はしませんが、皆は何をしているのですか?」

「あ! ディアルーナ様が! 辺境伯邸から行方不明になり捜索隊が結成されて――」

「それで町中を調べていると?」

「はっ!」


 赤髪のツインテールの身長160センチほどの女性が、啓礼をしながら現状をナイルさんに報告しているのを見ながら俺はナイルさんの方を見る。


「ナイルさん、彼女は?」


 俺の発した言葉に、俺の存在に気が付いたように赤い瞳を俺に向けてくるターナという女性。

 そして、彼女は目を細めると――、


「――? 副隊長、こちらの方は?」


 そう俺を指さしながら言葉を紡ぐ。


「ターナ。こちらの御方は、ゴロウ・ツキヤマ様です」

「え? こちらの方が将来の辺境伯領を治める?」

「そうです。失礼ですから、指を指すのは止めなさい」

「――は、はい!」

「あの、ナイルさん。ターナさんは、どういう方なんですか?」


 疑問に思い確認する。

 ディアルーナさんを探すために捜索隊が編成されて駐屯地から人が居なくなったのは分かるが、問題はターナさんが、捜索隊に組み込まれずに、この場にいた理由が気になったからであったが――、


「ターナ。自己紹介をしなさい」

「はっ! ゴロウ・ツキヤマ様! 私は、ターナと言います! ルイズ辺境伯領騎士団副隊長補佐官をしております!」

「つまり、ナイルさんの秘書みたいな立場ですか?」


ナイルさんの方を見れば、ナイルさんは頷くと――、


「異世界の言葉に変換するのでしたら、それが近いです」

「なるほど……。つまりナイルさんが居ない間のことは――」

「はい。ターナが行っております。ただ、副隊長自らの許可が下りることもありますので、定期的に業務をする必要はありますが」

「なるほど……」

「ターナ。ゴロウ様は、しばらく休憩をしたいとのことです。応接間に通してください」

「はっ!」

「――では、ゴロウ様。私はこちらの世界を留守している間に溜まっているはずの職務に従事てきますので、何かあれば、ターナに言ってください」

「ええ? 私が、ゴロウ様のお世話を!?」

「何か不満でも?」


 ナイルさんが、ターナさんを見下ろしながら確認の意図を含めて問いかける。

 声は穏やかなモノであったが、威圧感はあった。


「――い、いえ! なんでもありません! ゴロウ様! お部屋までご案内します!」

「お願いします。それでは、ナイルさん、またあとで」

「はい。ターナ、くれぐれもゴロウ様には失礼のないように」

「分かっています」


 ナイルさんと別れて、ターナさんへ案内されたのはベッドのある部屋。

 部屋の広さは、学校の教室の倍くらいはあるだろうか?

 さすがに応接室というだけあって、建物の中に入ってから目に入らなかった絨毯が敷かれていた。


「それでは、ゴロウ様。こちらの御部屋をご利用ください」

「分かりました。ターナさん、ありがとうございます」

「お気になさらないでください。これは、副隊長の指示ですから」


 パタンと扉が閉まる。

 一人部屋の中に取り残された。


「さて――、とりあえず……。少し休むとするかな」

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