第428話 大寒波襲来(9)
やっぱり、背中から剣を背負って歩いている人や、ローブを着込んで魔術師といった井出立ちの服装を見ると、異世界だというのを実感する。
「やっぱり異世界なんですよね」
「ゴロウ様?」
「いえ。何でもないです」
ナイルさんからしたら、剣士や魔術師が町中で闊歩している姿は普通なのだから、それで異世界だと口にするのは、あまりよろしくはないだろう。
そう思っていると、ナイルさんが何度か頷くと、「はははっ、ゴロウ様。あまり気にしないでください」と、フォローしてくる。
「そうですか?」
「はい。我々も、ゴロウ様の領地――、異世界側へ行った際には同じことを思いますので」
「そうですか……」
それなら良いんだが……。
それにしても――、
「あの剣を背中に背負っている方は――」
「あれは冒険者ですね」
「冒険者? それって、冒険者ギルドとか……」
「ゴロウ様は、ご存じなのですね」
「ええ。まあ……」
最近は、そういった本も読んでいるから何となくだが話についていける。
「たしか超法規的組織でしたっけ? 国を跨いで活動できる組織とか――」
「いえいえ。そのような組織があったら大問題になります」
足を止めたナイルさんが首を左右に振りながら否定してくる。
「え? そうなんですか?」
俺が小説で読んだ冒険者ギルドというのは、各国に支部を持っていて独自の軍隊や組織を有していて、さらに魔物の素材を買い取ったり、宿屋を経営したり、独立採算制で支部や本部を経営していたりと、そういう組織だと認識していたんだが、違うのか?
「はい」
ナイルさんは頷く。
「まず超法規的というのが、どのような部分を指し示すかは分かりませんが、冒険者ギルドが各国の国境を越えるような組織という事はありえません」
「そうなんですか?」
「はい。冒険者ギルドは、仕事がない人間や職人に仕事を斡旋する組合みたいなものです。そして、冒険者ギルドを運営しているのは、基本的に領内を管理している貴族と王族です」
「つまり、冒険者ギルドの運営には国や貴族が関わっているということですか?」
「そうなります。そして、どこの冒険者ギルドであっても王族の息が掛った騎士団所属であった人間が冒険者ギルドマスターとして派遣されることになっています」
「それって、実質の人事権は……」
「国側にあります。そして、それはどこの国も変わりません。あと国を跨ぐような依頼は原則的に禁止されています。もし国境を越える依頼が発生した場合には、両国間の騎士団の混成部隊が対応に当たる形となっています。そうしなければ国境問題が発生してしまいますので……。以上のことから冒険者ギルドが国境を越えて活動できるような超法規的組織ではないという事です」
「なるほど……」
たしかに、ナイルさんの言う通りだ。
普通の物語にあるような冒険者ギルドみたく他国へ自由に出入りできるような超法規的組織とかだったら、それこそ国同士の問題になりそうだし。
「ということは、基本的に貴族と王族が運営している国営企業ってことですか……」
「そうなります。それに優秀な人材は、騎士団や魔法師隊へのスカウトもありますから、実は士官の窓口にもなっています。ただ、冒険者ギルドに所属している高ランクの冒険者は、それなりの待遇もあり稼ぎもいいですから、士官の窓口として冒険者ギルドを利用しようとして登録される方以外は士官のスカウトがあったとしても断ることが普通ですが」
「いろいろとあるんですね」
「はい」
――ざわざわ
何だか少しずつ注目されていってる気が……。
ナイルさんと立ち話をずっとしていたから目立ってしまったかもしれない。
「さすがにゴロウ様の恰好ですと、目立ってしまいますね」
そんな俺の考えを見透かすかのようにナイルさんが俺の腕を掴むと歩きだす。
どうやら注目を浴びていたのは俺に原因があったらしい。
荷車や馬車――、そして武器や防具に身を包む戦士や魔法師に、多くの商人や露店で買い物をする女性達の間を練り歩く。
「ナイルさん」
「ゴロウ様。少し、お静かに――。さすがに自分の名前は、知られているので」
「あ……」
俺は口を閉じる。
たしかナイルさんはルイズ辺境伯領の騎士団に所属していて副団長という役職だった。
つまり、顔は分からないが、少なくとも名前は知られているということ。
そしてナイルさんと一緒にいる見慣れない服装の人間。
そこまで考えれば、すぐにある結論にたどり着く。
それは、俺が異世界人だということだ。
ナイルさんが注目された途端、急いで、場所から離れたのも、それが原因なのだろう。
しばらく歩くと、3階建てのレンガ造りの建物が目に入った。
「ゴロウ様。もうすぐ駐屯地に到着します」
俺は黙って頷く。
そして、建物の入り口の戸をナイルさんは開けると、俺を押し込めると扉を閉めた。
「どうやら無事に到着できたようですね」
「無事に?」
ナイルさんの口ぶりに俺は疑問を抱いてしまうが――、
「はい。数人の傭兵が、こちらを見てきていました。理由は分かりませんが、殺気は確認できませんでした」
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