第427話 大寒波襲来(8)
「酷いわねっ!」
「だって、本気ではないでしょう?」
「あら?」
口に手を当ててディアルーナさんは少し驚いた表情を見せる。
「そう見えるかしら?」
「そう見えます。それと、ここは俺の顔に免じて先ほどのアロイスさんの発言を尊重していただくと助かります」
「……仕方ないわね。姫巫女と結婚する人間の――、あの魔法師の血筋の言葉を無碍にするわけにはいかないわね」
「あの魔法師?」
「ふふっ、それは、こっちの話。それとゴロウさん」
「何でしょうか?」
「リーシャには、今度、こっちの世界で良いから会わせてもらえるかしら?」
「分かりました」
それなら、まったく問題ない。
それよりもやけにアッサリと引いてくれたものだな。
やっぱり、さっき口にした『あの魔法師の血筋』という部分が関係あるのかも知れない。
ディアルーナさんは、言葉を濁していたけどおそらくは俺の父親の事だろうというのは何となくだが想像がつく。
だが、それなら濁す意味が分からないが……。
「アロイス。私は樹海に戻るわ。エルフガーデン王国のリネラス様に、この事を報告しないといけないから」
「エルアル大陸のエルフガーデン王国にですか?」
「ええ。理由は、ノーマンなら分かるはずよ?」
「……かしこまりました。そのように伝えておきます」
「よろしく頼むわ。それじゃ、ゴロウさん。またね」
彼女は、俺の方へと振り向いてくると頭を下げたかと思うとアロイスさんたちと立ち去った。
その後ろ姿を見送ったあと、俺は溜息をつく。
「何とかなりましたね。ナイルさん、大丈夫ですか?」
「――は、はい。それよりも、ディアルーナ様が直接、こちらに来られるとは思いませんでした。メディーナも大丈夫ですか?」
「はい。それにしても、あれが樹海のエルフですか。凄まじい力を有していましたね」
その場に座りこむメディーナさん。
「少し、ここで休みましょう」
「そうですね。魔力の回復もありますから」
ナイルさんも同意すると、立ち上がらず、その場で座ったまま応じてくる。
俺は店に戻る。
そして冷蔵ケースを開けて清涼飲料水を二つ手に取り二人の元へと戻る。
「これでも飲んでください」
二人にスポーツ飲料水を、それぞれ渡す。
「ありがとうございます。ゴロウ様」
「申し訳ありません」
ナイルさんとメディーナさんが、それぞれ感謝の言葉を述べてくるが俺は頭を左右に振る。
「俺を守るために二人とも大変な目にあったのですから、気にしないでください」
そう俺は言葉を帰す。
二人が飲料水を飲んで息を整えている間、俺は店の周辺を見渡す。
店の周囲には、20人ほどの兵士がいるが、こちらへは意図的に視線を向けてきてはいないようだった。
そこに疑問は抱いたが、今は黙っておくことにする。
しばらくして二人が落ち着いたところで――、
「それで、これからどうしますか? ナイルさん」
「そうですね。先ほど、説明した通り私は駐屯地に行き書類作業を行います」
「分かりました」
俺は、メディーナさんの方を見る。
「私は、一度、宿舎に戻ります。何か報告が来ているかも知れませんので」
「そうですか……」
そうなると、俺は手持ち無沙汰になるが――、
「とりあえず1時間後に、ここで集合にしますか」
「ゴロウ様は、それでよろしいのですか?」
「まぁ、俺としては何かすることがあるのか? と聞かれれば何もすることはないですからね」
それなら一度、日本に戻ってから、また来るのもありだろう。
「それでしたら、一度、兵士の駐屯所に来られるのは如何でしょうか?」
「駐屯所に?」
ナイルさんからの思いがけない提案に俺は驚くが――、
「はい。兵士たちも次期領主となられるゴロウ様が訪問すれば士気も上がると思いますので」
「俺が行っても大丈夫なんですか?」
思わず聞き返してしまう。
俺は戦いに関しては素人もいいところだ。
そんな俺が顔を出していいのか? と、考えてしまうのは当然だが――、
「はい。兵士の中では、ゴロウ様には興味がある者も多くおりますので」
「それは、どういう意味で?」
「莫大な魔力を有しているという意味で、憧れとして見られています」
「……そ、そうですか」
俺は魔法がまったく使えないんだが……。
そんな俺が駐屯所に言っても……と、思ってしまうが……、何故か期待するような眼差しをナイルさんが向けてきている辺り、断るというのは、普段からお世話になっている手前、難しい。
「わ、分かりました。それでは、お願いできますか?」
「承知しました! それでは、これから行きましょう。メディーナは、1時間後に、この場所で集合でいいですね?」
「分かりました。副隊長」
メディーナさんと別れて、俺はナイルさんに連れられて駐屯所へと向かう。
整地されている場所から離れたところで兵士の人達が封鎖している場所から、市街地へと出る。
封鎖されていた場所から市街地に入り、しばらく歩くと少しずつ人通りが増えてくる。
そこには、武器を背中に背負った人や金属製の鎧を着込んだ兵士や、杖を持ってローブを引き摺りながら歩く人など多種多様。
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