第419話 納品(2)

「そっか……」


 俺が、頷いたところで――、


「月山様」

「あ、藤和さん。お疲れ様です」


 俺が帰ってきた事に気が付いた藤和さんが俺に話しかけてきた。

 もちろん、藤和さんと一緒に、納品された商品の検品をしていた雪音さんも居て。


「おかえりなさい。五郎さん」

「雪音さん、ただいま」

「戻ってこられたら、すぐに来てくれればよかったのに」

「納品チェックで忙しそうだったので――、ですよね? メディーナさん。あれ? メディーナさん?」


 さっきまで俺の横に居たメディーナさんは何時の間にか店内に入りナイルさんと会話をしていた。

 いつの間に……。


「分かりました。それで、迎賓館の方は問題なく用事は済ませられたのですか?」

「そうですね」

「迎賓館の方? 今日は、月山様は迎賓館に行かれたのですか?」


 俺と雪音さんの会話を聞いていた藤和さんが話に入ってくる。

 俺は頷き――、


「数日後から大雪が降るらしいので、食料品と消耗品の補充の為に迎賓館に行っていました」

「そうだったのですか……。たしかにニュースで日本海側の天気は大荒れになると言っていましたね」


 藤和さんの、その言葉に俺は頷く。

 だからこそ、何か問題があったら困ると思って迎賓館に行ってきたのだ。


「それで、何か向こうから必要なモノなど言われませんでしたか?」

「特にないですね」


 流石に生理用品を買いに行ったとは言えない。

 それを、流石に藤和さん相手にでも言ったら駄目だろう。


「そうですか……」


 藤和さんは少し考え口を開く。


「そろそろ何らかのリアクションをしてきても良いと思っていたのですが、思っていたよりも、こちらの世界に興味はないのでしょうか?」

「さあ? 興味はあるみたいですよ」

「それなのに、何も要望を出してこないと?」

「まぁ、どうですかね」


 そこは、さすがに濁しておく。


「なるほど……。言い難いことであると……」

「え?」

「いえ。何でもありません。雪音様も、一応は知っていられるのですよね?」


 そこで藤和さんが雪音さんに話を振る。


「はい。特に問題はないと思いますよ?」

「そうですか。雪音様が、そう言われるのでしたら問題ないと信じています。それと月山様」

「どうかしましたか?」

「中国の外資企業が結城村に関して調べていると情報が流れてきましたが、何かありましたか?」

「ああ。そのことですか」


 俺は周囲を見渡して、リーシャと雪音さんと藤和さんしかいない事を確認したあと、外資系企業が土地を売ってくれることになったことを説明する。

 もちろん、その際に、俺に興味を示した人間が居たことも説明する。

 話が進むにつれて藤和さんは考え込むようになり――、


「なるほど。つまり、その外資系のゼネラルマネージャーは、月山様がプロドライバー時代の事を知っていると……そして、そのファンだったと言う事ですか」

「そうみたいですね」

「それで、そのゼネラルマネージャーのお名前は?」

「たしか……竜(りゅう)海徳(かいとく)という名前だったと思いますが……」

「竜 海徳!?」

「どうかしましたか?」

「月山様は、アラジンという企業を知っていますか?」


 アラジン……?

 企業で、俺が知っている名前なら――、


「たしか米国のアムゾンと、双璧を為す中国の物流会社でしたっけ?」

「はい。その創始者の会長の息子さんの名前が、竜 海徳です。まさか結城村の土地売買に世界でも10本指に入る多国籍企業が絡んでいるとは――」

「それって、かなり不味いですかね?」

「マズイというよりも、そんな大企業の資本が、食い込んできている事に驚きました。ただ――」

「ただ?」

「いえ。ここからは私の想像になるのですが、それだけの大企業のゼネラルマネージャーが、結城村に関して調べているというのが些か腑に落ちないところでして――」

「社長」

「どうかしましたか? リーシャさん」

「えっと、ゴロウ様のファンなのですよね? それなら、結城村について調べるのもあるのでは?」

「……はぁ……。それを言われてしまいますと、色々と考察していた私が考えすぎのようではありませんか……」

「私だって、この世界に来て思ったことがあります。あっちこっちに荷下ろしや搬入作業をして思ったことは、結城村には、何か陰謀をするような価値は無いということくらいは」


 酷い言われようである。

 ただ本当のことだから何一つ言い返せない。

 

「少し、お口にチャックしましょうか? 理紗さん」

「あ、はい……」

「申し訳ありません。月山様」

「気にしなくていいですよ。たしかに、リーシャさんの言う通りですし、だからこそ秘密裏に計画を進める必要があるんですから」

「そう言って頂けると助かります。それと、世界的な資本企業が土地売買に関わっているのですから、何かあったらすぐに連絡をください。大企業の情報網は侮ってはいけませんから」

「分かりました」


 俺は頷く。


「他には何かありませんでしたか?」

「あとは、雪音さんと何時頃になったら結婚するのか? と、聞かれましたね」

「なるほど……。たしかに異世界から嫁ぎに来ている方でしたら、そこは最重要問題ですね」


 藤和さんは納得するかにように呟く。




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