第420話 大寒波襲来(1)
「それで、結婚式の時期は、いつ頃と答えられたのですか?」
藤和さんは続けて確認してくる。
「来年の春か秋ごろになると伝えておきましたが――」
「なるほど。日本では、よく結婚が行われる時期ですね。それで、雪音様には何も伝えてはいないようですが……」
俺と藤和さんの会話を近くで聞いていた雪音さんがコクコクと頷くと、
「初めて聞きました」
「――うっ。たしかに……」
まだプロポーズもまだだった。
少し、考え無しに話してしまった事に後悔しつつも、あとで雪音さんと話し合おうと考えたところで――、
「まぁ、月山様と雪音様との婚約と結婚式に関しての日取りに関しては、決まり次第、教えて頂ければと思います。あと出来れば秋口が宜しいかと思います。これから夏にかけて色々と忙しい時期ですから。とくに春などは、桜ちゃんの入学ですよね?」
「そうですね」
来年の4月からは結城村の学校に桜は小学一年生という事で入学する事になっている。
その手続きとかも、諸事情のことを考えると春に結婚式というのは立て込み過ぎている。
「私も、まだ五郎さんからプロポーズを受けていませんけど、春に結婚式をするのは控えた方がいいと思います。急いては事を仕損ずるとも言いますから」
雪音さんがニコリと笑みを俺へと向けてくるが、その笑みが怖いと思うのは俺だけだろうか?
やはり不注意な発言だったのかも知れない。
「余計なことを言ったのかも知れないですね」
俺と雪音さんとの会話を聞いていた藤和さんが苦笑いを向けてくると、そうフォローにもならないフォローをしてくる。
思わず本当だよ! と、心の中で突っ込みそうになるのをグッと堪えつつ、
「それでは、早ければ来年の秋口ということで――」
「分かりました。――では、そのような形で理紗さんもいいですか?」
「はい」
どうやら、藤和さんとリーシャの間にも何かしらの約束事があったようですんなりとリーシャが引き下がる。
「それでは私は荷物を引き続き下ろしておきます」
「はい。お願いします」
リーシャが、あんたを下げるとフォークリフトで荷下ろしを再開する。
「それにしても、リーシャさんは、ずいぶんと運転が上手くなりましたね」
「ええ。私も驚いています」
藤和さんも頷きつつも、カバンから一枚の茶封筒を取り出し差し出してくる。
俺は首を傾げながらも、茶封筒を受け取り中を確認する。
「一般種類小売業免許の申請手続きの流れ?」
「はい。概要を纏めておきました。今度、大型スーパーを運営されるのでしたら、絶対に必要になりますから」
「助かります」
そろそろ酒類の販売も考えていた。
早めに手続きを取っておいて損はないだろう。
2時間程経過したところで、リーシャが運転する10トントラックに乗り藤和さんは秋田市へと戻っていった。
そして、午後6時を回ったところで根室さん母娘は、迎えにきた根室正文さんの軽トラックで帰った。
そのあとは、レジは俺が担当し、メディーナさんとナイルさんが品出しをしていた。
「ふう。今日は、忙しいな」
大寒波が襲来すると言う事もあり、結城村の住人が次々とカップ麺や飲み物を買いにくる。
しかも電池などの売れ行きも好調だ。
今までは、閑古鳥が鳴いていたからレジは一台で良いと思っていたが、その辺も改善した方がいいのかも知れない。
「ありがとうございました」
最後の利用客を送ったあと、店を閉める。
かなりの疲労感はあるが、久しぶりに仕事らしい仕事をしたという充実感はある。
自宅に戻り、すでに桜と雪音さんは風呂を済ませていたので、メディーナさん、俺、ナイルさんの順番で風呂に入ったあと夕食にする。
しばらくすると、閉めていた雨戸に雨が打ち付ける音が聞こえてくる。
「五郎さん、随分と強い雨ですね」
「そうですね」
俺は、少しだけ雨戸をあけて外を見ると、かなり強い風が吹いていて、横なぶりの雨が降っていた。
少し前までは星空が見えるくらい大気が安定していたというのに。
「すごい雨だな……」
独り言を呟きながら雨戸を閉めたあと、テレビをつける。
テレビには緊急速報というテロップと西日本海側に大雨、大雪注意報が発令されていた。
「おじちゃん。今日って大雪降るの?」
「どうだろうな……」
「さくら! 雪が、いっぱいふったらうれしいの!」
「そっかー」
俺としては大雪が降ったら色々と大変な事になるから降って欲しくはないんだが……。
これが子供と大人との差というやつか。
「副隊長、一応、風の結界を張っておいた方がいいかと思います」
「そうですね。ゴロウ様」
食事中に会話をしていたナイルさんが俺に話しかけてくる。
「どうかしましたか?」
「風の結界を店と家に張っておきたいのですが宜しいでしょうか?」
「別にいいですけど、魔力の枯渇とか大丈夫ですか?」
以前に、メディーナさんが倒れたことを思い出し、俺は確認する。
「はい。今回は二人いますので分担しますから大丈夫です」
「それならいいですけど……」
「――では、メディーナ」
「はい!」
二人は立ち上がると玄関の方へと向かう。
「雪音さん。お風呂を沸かしておきましょう」
きっと二人共ずぶ濡れで帰ってくるだろうし。
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