第418話 納品(1)

「はい! ですから、出来ればゴロウ様には毎日とは言いませんが、定期的に訪れて頂ければと思います。エメラス様がご一緒であったとしても、こちらは異世界ですから。ルイーズ王女殿下のことを考えますと――」

「分かりました。出来るだけ時間を作って会いに来ます」


 そう言われてしまうと断ることはできない。

 それに何より彼女の境遇を聞かされている身としては、ぞんざいな扱いは出来ないし。


「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」

「そうですね。また、何かあったらすぐに連絡をください。それと今週の末からは大量の雪が降るようなので――」

「分かりました。――でも、その為に、本日は来られたのですよね? 大量の食料品や日常品も、そのためですよね?」

「そうなります」

「そうですか。それではゴロウ様、またお待ちしております」


 ペコリと頭を下げたアリアさんは、此方に戻ってくるメディーナさんと擦れ違うようにして迎賓館入口へと向かう。


「ゴロウ様。アリアとの会話は終わったのですか?」


 そう小声で俺にメディーナさんは話しかけてくる。


「気が付いていましたか」

「はい。アリアも気が付いていたと思います。ただ、私が同席するのはマズイと思い――」

「なるほど。だから戻ってくるのに時間が掛かったと――」


 よくよく考えれば、あれだけの会話の間、迎賓館の入り口へ荷物を運んで戻って来ないのは変だとは思っていた。

 全てを承知の上で、間をとっておいてくれていたとは。


「やっぱり、メディーナさんとしてもルイーズ王女殿下には思うところはあったりしますか?」

「そうですね。私は平民の出ですから貴族というのは良く分かりませんが、政略結婚というのは大変だと思います。それが異世界に嫁ぐのでしたら余計に……と、言う部分はあります。あっ――、で、ですが! ゴロウ様がという訳ではありません」


 俺は、メディーナさんの言葉に頷く。


「大丈夫ですよ。環境が変わるというのは、人にとって大きなストレスになる事くらいは理解していますから」

「そうなのですか?」


 再度、俺は頷く。

 俺の付き合っていた女性が、俺の所属していたチームに出資していた企業の上の方と男女の仲になって別れた時も、色々とあったからな。

 だから環境の激変というのは、どれだけ心身に負担がかかるのか理解はしている。


「――まぁ、帰りますか」

「え? あ、はい」


 まだ雑貨店の営業中だし、こんな所で立ち話をして時間を潰すのもよろしくない。

 それに、すでに過去の彼女のことは振り切っているし、それで何か変わるのか? と、言えば何も変わることはない。

 今の生活に何らプラスにならないことなのだから、気にすることはないだろう。

 だからこそ、俺は先に運転席に座り鍵を回す。

 エンジンがかかる音が鳴ると共に、助手席のドアを空けてメディーナさんは乗り込んでくると席に座りシートベルトをつける。

 それを確認したあと、俺は車を発進させた。


 


 月山雑貨店の駐車場に、俺が運転する車が到着したのは20分後。

 車から降りた俺とメディーナさんは、目も前に積まれているパレットを見ていた。


「ゴロウ様、これは納品が大変ですね」

「まぁな……」


 パレットの数としては20パレット近く。

 商品の検品は、雪音さんと藤和さんが行っているみたいで、フォークリフトの操作は、リーシャが行っていた。


「ゴロウ様!」


 俺に気が付いたリーシャがフォークリフトの運転を止めると、俺の元へと駆け寄って飛びかかってくる。

 辛うじてリーシャの体を受け止めることが出来た俺は、彼女を引き剥がし――、


「仕事中じゃないのか?」

「うっ――!? ――で、でも……、ゴロウ様と最近はスキンシップがご無沙汰でしたから……」

「まぁ。それはそうだな」


 俺は紺色の作業着を着こなしているリーシャを見ながら、そう呟く。

 

「それにしても、フォークリフトを動かせているみたいだが、エンジンは桜にかけてもらったのか?」

「はい。桜ちゃんにお願いしました」

「そっか」

「そういえば、ゴロウ様」

「ん?」

「大気の様子が変わってきています。近い内に、大雪が降ると思います」

「リーシャも、天気予報を見たのか?」

「――いえ。ハイエルフ族やエルフ族のような妖精種は、四大属性の動きを感知する術を心得ていますから」

「そうなのか。それでハイエルフ族の特性で雪が降るって気が付いたのか?」

「はい!」

「そういえば、異世界では雪は滅多に降らないと聞いたが?」

「あ、それはナイルに聞いたのですか?」

「そうなるな……」


 リーシャの言葉に俺は頷く。


「そうですか。基本的にエルフ族はルイズ辺境伯領から南に位置している森林を住処としています。そして森林からドラゴンの生息する山脈に近づいていくと標高があがるに連れて雪が降る事があります。そのために、雪は、時々、見かけています」

「なるほど……。だから雪が降ると思ったのか?」

「はい! ――ただ、大気の様子がかなりおかしいと感じていますので、かなりの雪が降ると思われます」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る