第270話 家族会議(2)
「そうですね」
俺は雪音さんの意見を採用し、田口祖父母へと連絡を入れた。
――翌日、午前10時過ぎ。
居間には、俺と田口祖父母、雪音さんに桜と言った具合で、集まっていた。
ちなみにナイルさんは、フーちゃんと一緒に店の裏側の河原に特訓に行っている。
それにしてもフーちゃんと特訓とは……一体――。
おっと! そんなことはとりあえず横に置いておくとしよう。
「本日は、集まって頂き、ありがとうございます」
まずは、俺が集まってくれた事に対して頭を下げる。
「雪音。きちんと家事をしているの?」
そんなことを田口村長の奥さんが、言いながら居間の窓に人差し指を這わせている。
本当に、そんなことをする人を俺は現実で初めてみた。
そもそも、じつの孫娘にすることなのか? と、言う、ツッコミは横に置いておく。
「おじちゃん! プリン! プリン!」
「ほっほっほっ」
村長がお土産として持ってきたのはプリン。
それも秋田市の有名な菓子店のケーキショップで販売されているモノらしい。
「当然です! それよりも、おばあちゃん! 小姑みたいです」
「ほら? 雪音。母さんは、昨日、放送された割った世間は鬼ばかりというドラマに影響を受けただけだからの」
「また影響を受けているの?」
「孫娘が相手してくれないわ」
「もう、おばあちゃんは――」
呆れた口調で溜息をつく雪音さん。
その横では、村長が持ってきたプリンを食べる桜。
「あの……、少しいいですか?」
「どうかしたのか? 五郎」
「いえ。俺の挨拶が全員に華麗にスルーされていたので……」
「だってね? あなた……」
「うむ。家族になるかも知れないのだから、今さら体裁を整えられた話をされてもな――。さっさと本題に入ってくれないと困るからの」
「そうですか……」
どうやら、スルーしているわけではなく俺の挨拶は聞いてはいたようだ。
ただ、反応しなかっただけで……。
それは、それで、結構、心が傷つくんだが!?
「おじちゃん……」
「桜……」
「このプリン美味しいの!」
「そっかー。美味しいか」
桜がニコリと笑顔を向けてくる。
それだけで、今日の家族会議を開いた意味はあるだろう。
とりあえず、そう思う事にしよう。
それでいいじゃないか。
「――で、五郎」
「はい?」
「雪音から簡単な話は聞いたが、ノーマン辺境伯の爵位を継ぐつもりになったと聞いたが本当かの?」
俺は頷き口を開く。
「そう考えています。今後のことを考えるとノーマン辺境伯が健在であるうちは問題ないと思いますが、辺境伯が代替わりしたあと、王家の意見を押し付けてくる相手だった場合、商売が難しくなる可能性がありますから」
「たしかにのう」
村長が、羊羹を咀嚼したあと、お茶でのどを潤す。
「雪音や桜ちゃんは、どう思っているのだ? こうして、家族会議を開いたという事は、まだ話はしていないのだろう?」
その村長の言葉に俺は頷く。
「桜」
「何?」
「桜は、異世界に行った時に、曾祖父と会ったことあるだろ?」
「うん」
「曾祖父は、エルム王国に仕えている爵位を持つ貴族――、簡単に言えば村長のスケールの大きいバージョンなんだけど、その後を俺が継ぐとしたどう思う?」
「えっと……桜、よく分かんないけど……、コンビニの本社の社長役を引き継ぐ感じなの?」
そういえば、桜は、『それゆけ! コンビニ!』で、シュミレーションゲームをしていた事があったな。
そこには、たしか、社長の代替わりシステムがあったはず。
「そうだな。それに近い」
「五郎……」
田口村長が呆れた表情を俺に向けてくるが、仕方ないだろ。
5歳の子供に、貴族の爵位について、どう説明していいのか、まったく分からないんだから。
それならゲームに準えた方が分かりやすいだろうし。
「桜ちゃん」
「どうしたの?」
雪音さんが、桜の名前を呼ぶ。
「えっとね。桜ちゃんの、曾祖父のノーマン・フォン・ルイズ辺境伯様はね、エルム王国に仕えている貴族なの。立場的には、都道府県を管理している知事みたいな役割なの」
「そうなの?」
「そうなのよ。だから、すごく偉いの。――で、その上には、都道府県全てを纏める人がいて、その人が国王って呼ばれているの。それで、五郎さんは、都道府県の一つを治めている知事の後継者になると言っているの」
「へー。おじちゃん、すごいの? すごくなるの?」
「まぁ、そんな感じだ。桜は、俺が曾祖父の跡を継ぐ事に関してはどう思う?」
「えっと……、それって桜も貴族になるの?」
おお、一発で雪音さんの説明を理解した。
さすが、俺の娘!
「うんうん」
俺は何度も首肯する。
「うちの娘は天才かも知れないな」
「だからキチンと説明しろと目で言っただろう?」
そんなことを村長が発言してくる。
それを言われると俺としては何も言えない。
「貴族……、貴族って、ルイーズさんやエメラスさんみたいな?」
「そうだな」
「お姫様……、桜もお姫様なの!?」
「お姫様には、なれないと思うぞ」
「そーなんだー」
残念そうな表情でシュンとする桜。
「雪音さん……」
「まぁ、ほら。あれですよ? 五郎さん。女の子は、御姫様に憧れますから」
「ハハハハッ、桜は村のお姫様みたいなものだぞ?」
村長が、そんなことを口にする。
そういえば、以前に村長は、子供は村の宝だと言っていたからな……。
たしかにお姫様と言っても差し障りはない。
「本当に!?」
「うむ、本当だぞ?」
「わーい! 桜は、お姫様なの!」
無邪気に喜ぶ桜。
「それじゃ、桜は、俺が貴族になるのは良い感じか?」
「うん! おじちゃんが貴族になると桜も貴族になるの?」
「そうだな。ただ、影響は出ないように全力は尽くす」
とくに異世界の政治で桜が迷惑を被るような真似だけはさせない。
まぁ、最悪、異世界には桜は連れていかなければ、それで済むことだし。
異世界側の王宮側も利益を享受させておく分には文句は言わないだろう。
その辺は立ち回り次第だが、何とかしないとな。
「わかったの!」
とりあえず桜の許可は得ることは出来たか。
あとは――、
「私も構いませんよ? 日本に影響を及ばさないようにするということは、これからも、この生活の延長線上という事ですよね?」
「そうなりますね」
雪音さんも承諾してくれた。
「ふむ。儂は、雪音が良いと思っているのなら口は出さんぞ?」
「そうね。雪音をキチンと守ってくれるのなら、私達が口に出すのは無粋ですものね」
雪音さんの祖父母も雪音さんの気持ちを優先するという事で簡単に首を縦に振ってくれた。
「五郎」
「村長? どうかしましたか?」
「雪音とのことだが、なるべく早くするのだぞ? 少なくとも分かっておるな?」
「分かっています」
村長は、俺がリーシャや、ルイーゼ王女殿下と結婚する前に、先に雪音さんと結婚するようにと言いたいのだろう。
そのくらいは理解している。
何せ異界人は――、とくに王族と婚姻を結ぶのだから、先に雪音さんを正妻という事で認識させておかないと、後々、ゴタゴタになるのは目に見えているからだ。
そして、それはすなわち、雪音さんにプロポーズをするという事にも繋がる。
「分かっているのならよい」
満足そうに頷く村長。
そして――、顔を赤らめて俯く雪音さん。
不思議そうな表情をしている桜に、ニコニコと笑みを絶やさない村長の妻の妙子さん。
「そ、それではお昼を作ってきますね」
場の空気に耐えられなくなったのか雪音さんが立ち上がると部屋から出ていく。
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