第255話 結城村躍進計画

「それじゃ、俺は藤和さんに話を通す方向で――。外資系で土地を買い漁っている人達への交渉の場のセッティングは中村さんがしてくれるということで?」

「ああ。あとは、目黒にも頼んだ方がいいな。あいつも菱王マテリアル経由で、話を持っていくことが出来るだろうし」

「うむ。それでは、話を纏めるとするかの」

「中村、お主は石油関連企業経由の人脈からの外資系企業への繋ぎをしてくれ」

「分かったが、土地を買い占めている外資系企業を洗い出すのは酷だぞ?」

「それは、儂の方で役場に伝手があるから調べておく。おそらくはダミー会社などが存在しておるから、少しは時間は掛かると思うが――」

「まぁ、田口がそう言うのなら任せておく。情報が出揃ったら、あとは儂の方で繋ぎを取ろう。目黒の方にも、儂から連絡を入れておく」

「五郎は、目黒を介して菱王マテリアルと秘密裏に協力関係を作れるように。藤和には、協力要請はするんだろう?」

「そのつもりです」

「――では、藤和の方にも、今回のプランについて説明をする必要があるからの。全ては、説明はしていないのだろう?」

「全ては、まだです」

「――なら、急いで行うことだな」

「分かりました」

「これからは時間との闘いになる。金山の存在を外部に知られれば、結城村の自然を外資系企業が荒らす事になる。分かっていると思うが、失敗は許されないからの」

「田口村長」

「何だ? 五郎」

「誠さんには何時頃、異世界についての話を持っていきますか?」

「そうだのう。中村」

「わかった、わかった。俺の方からタイミングを見て伝えておく。――さてと……」


 中村さんが座布団から立ち上がると――、


「それじゃ田口、情報が出揃ったら連絡をくれ。こちらも人脈の確認をしておく。何せ10年以上、ガソリンスタンドを動かしていなかったからな。取引企業の役職と力関係の確認が必要になってくるからな」

「分かった。五郎も藤和や目黒には早めに連絡しておこうにな」

「分かりました」


 


 話が一段落ついたところで、田口村長と中村さんが帰り――、そのあとは根室さんから仕事を引き継ぎ月山雑貨店は夜の営業時間となった。

 

 ――時刻は、午後8時半過ぎ。


 レジで、ノートパソコンを使い、結城村周辺の地図を出して、地形を確認していたところで――、


「ゴロウ様。ずいぶんと熱心に何かされているようですが、何かありましたか?」

「何かあったと言えば何かあったという感じですが……」

「そうですか。商品の品出しは終わりました」

「分かりました。それでは、そろそろ閉店の準備をお願いします」


 ナイルさんに指示を出したあと、俺は携帯電話を取り出す。

 そして、電話をかける。

 数コール鳴ったところで――、


「藤和です」

「月山です、こんな夜分に申し訳ありません」

「いえ。この時間帯にご連絡ということは――、何か火急速やかに対応しないといけない案件などが出てきましたか?」


 少ない情報で、的確に、こちらの状況を読んでくる藤和さんに少し驚きながらも――、


「はい。金山と、その運用についてご相談と、お力添えを頂きたいことがありまして――」

「…………そうですか」


 藤和さんからの返信に少し間が開いたあと、「分かりました」と、承諾をもらう事が出来た。




 店を閉店したあとは、家族全員で夕食を摂ったあと、桜が寝静まった頃に、車のエンジン音が聞こえてきた。

 月山雑貨店の回りには、騒音になるようなモノが何もないから聞こえてきたと言ってもいいかも知れない。

 俺は、廊下を歩き、土間から降りて玄関の戸を開ける。

 そして、しばらくするとスーツ姿の藤和さんが姿を現した。


「遅くなりました。月山様」

「いえ。こちらこそ、夜遅くに連絡をしてしまって――」

「お気になさらないでください」

「それでは藤和さん、こちらへ――」


 俺は、いつも通り客間へ藤和さんを案内する。

 客間に置かれている木目のテーブルには結城村の地図が広げられたまま。

 その地図には、赤ペンで印がつけられている。

印は、外資系や結城村の村民以外が購入している土地。

その地図を一目見たあと、藤和さんは座布団の上に座ると襟を正した。


「――月山様」

「はい?」


 俺から話を切り出そうとしたところで、藤和さんから話を切り出してきた。


「これは、あくまでも私の推測に過ぎません。ただ、月山様は、覚悟をされたという事ですね?」

「どうしてですか?」

「月山様。私が、以前にお伝えしたことを覚えていらっしゃいますか? 金山を作る上で、結城村の土地を出来るだけ買い上げた方がいいと言ったことを」


 その言葉に、俺は頷く。


「この結城村の地図ですが、赤い印がつけられている個所は、都会に移った方が売られた土地ですよね? それに幾つかの赤いペンマークがありますが、これは外資系企業が購入された土地と見ていますが?」


 地図を見ただけで、そこまで当ててくるとは――。


「もしかして月山様は、金山の運営を個人を相手にではなく企業群を相手にしようと考えていますか?」

「藤和さんは、どうして、そう思っているんですか?」

「理由は幾つか考えられますが、まず一つ目として、金山の運用に関してです。元々、金山は客寄せとして利用する事を目的として、ノーマン辺境伯様に作って頂きました。それは、結城村の人口を増やす為の計画です。そして――、計画が順調に進んでいる場合、私に急ぎコンタクトを取る必要はありません。よって、何か計画の根幹を大きく変更するおつもりがあると、私は見ています」


 まるで、俺や田口村長や中村さんが話していた内容を盗聴してくるように話してくる。

 だからこそ、藤和さんを交渉の場に連れていくことは必須だ。


「はい。俺としては、村の活性化の為に、意図的なゴールドラッシュ――、一市民を相手にした鉱山経営では、難しいと判断しました」

「つまり、やはり――」

「はい。菱王マテリアルに、金鉱山の採掘に関しての交渉を持ち掛けたいと思っています」

「なるほど……。その心は、表立った資金の調達と言ったところですか」


 本当に舌を巻くレベルで、こちらの考えを読み取ってくる。


「そうなります」

「――で、私に交渉の取り纏めをお願いしたいと?」


 俺は頷く。


「……分かりました。ただ一つ、条件があります」

「条件ですか?」


 藤和さんが、結城村が描かれている地図を裏返す。

 すると、裏側には東北地方全域の地図が描かれていて――、


「今のままですと、結城村の発展は、頭打ちになる可能性は高いです。理由は、交通の便です」

「それは――」

「そこで、秋田市から八幡平、そして岩手町まで直通の高速道路の建設など如何でしょうか? それも、この結城村を通る形で――、交通の要所として結城村を確立させる事が出来るのでしたら――」


 藤和さんは、地図を指差しながら――、


「この結城村は、人口30万人の盛岡市よりも発展させる事ができます。そうなれば、異世界との物資売買を気にする者達はいなくなります」

「高速道路を一個人で?」

「あくまでも高速道路は、自治体主導で行う形をとります。そうしませんと、間違いなく政府に気が付かれますから――」

「藤和さん。高速道路の建築には莫大な費用が掛かる事は――」

「存じています。だからこそ、自治体主導で行う必要があります。私の計算では、高速道路を作るために必要な予算は1兆円ほどと見ています」

「……桁が違うな……」

「ですが、月山様は覚悟を決められたのですよね?」


 藤和さんが、そこで俺の目を真っ直ぐに見てくる。

 たしかに秋田――、日本海側から太平洋側に抜けられる高速道路は存在していないし、もし、そんな高速道路が出来れば、それは――、一大事業だ。


「難しいですか?」


 俺は頭を振る。


「そんなこと、俺は思いもつきませんでした。やってみましょう。ですから――」

「分かりました。私も、月山様の交渉担当として粉骨砕身で当たらせて頂きます。――で、どのような計画を月山様は、考えておられたのですか?」




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