第241話 ルイーズ王女殿下との談話ルイーズ(2)
「そうなのですか……。それにしても、ツキヤマ様の領地は、何の手つかずの自然豊かな土地に見えますが、そうではないのですね」
素直に田舎と言って欲しい。
「いえ。何もない場所です」
「そんなことはありません。蛇口という、回すだけで尽きる事なく水が出てくる魔道具。火起こしも安定した火を作り出す魔道具に、短時間で湯舟に湯を張る事が出来る魔道具など、こちらの世界では、私達が生きてきた世界とは、まったく異なる常識が存在している事に、この一週間、驚いています」
「そうですか。お暇ではなくて、良かったです」
「暇なんて――そんな……、王城に居た時よりも、ずっと気分は楽です」
そう言って、俺に笑顔を向けてくる。
その様子から嘘ではないと信じたい。
「それは、私としても迎賓館を用意した甲斐があったと言うモノです。ごゆっくりとお寛ぎください」
「はい。ただ――」
「ただ?」
「私は、何もしなくてよろしいのでしょうか?」
「ルイーズ王女殿下に置かれては、まずは、この世界で適応して頂くことが先決だと思っています」
「そうですか……。それでは、ツキヤマ様のご厚意に甘えさせて頂きます」
「はい」
ルイーズ王女殿下と会話を終えた頃には、エメラスさんが、全ての段ボール箱を迎賓館の中へと運び入れ終えていた。
「ツキヤマ様」
そして、運び入れ終えたところで、俺に近づいてくるエメラスさん。
「――な、何でしょうか?」
「荷運びが終わりましたので、あとは、こちらにお任せください」
「そうですね……」
元々、荷ほどきは俺も手伝う予定ではあったが、雪音さんが居れば問題ないだろう。
「五郎さん! あとで迎えに来てくださいね」
迎賓館の2階から雪音さんも、了承の合図を送ってくれているし、それに合わせさせてもらおう。
「アリアさん」
「はい」
「食料品などは……」
「お店まで、ご一緒させて頂いても?」
「もちろんです」
「それでは、ルイーズ様」
「ええ。分かっているわ」
「すぐに戻ってきますので――」
二人の会話から、どうやらルイーズ王女殿下の身の回りは侍女のアリアさんが行っているというのは想像がついた。
ただ、衣服に関してまでとなると――、
「アリアさん」
「何でしょうか?」
「お店には自分が行ってきますので、以前、購入された食料品と同じようなモノを配達にくればいいですか?」
「あ、はい。お願いできますか?」
「お任せください」
アリアさんを無理に連れていくのはマイナスになると判断し彼女を置いていくことにする。
「――では、またあとで伺いますね」
雪音さんを残し迎賓館を後にする。
そして店に到着したところで、店内に入る。
「あら? 月山さん。雪音さんは?」
「少し出かけています」
流石に、根室さんには迎賓館で異世界人の相手をしているとは言えない。
俺は店内に置かれているカゴを手に迎賓館に持っていく食材を厳選していく。
「どうかしましたか?」
俺は近くに寄ってきていた根室さんに語り掛ける。
「――いえ。まるで複数人の料理を作るためみたいな食材の購入の仕方でしたので、少し気になっただけです」
「そうですか」
迎賓館に持っていく食材を厳選し用意したところで車に積んでいく。
すると、車が一台入ってくる。
それは以前にフーちゃんの動画を撮った人達。
「おっさん! フーちゃん、いますか?」
「今は居ませんが? どうかしましたか?」
「実は、そろそろ冬ですよね?」
「そうですね」
「冬だと、こっちに来るのに危険になるので、早めに動画取りに来たんですよ」
「なるほど……。――で、うちらが編集したのが、こちらの動画になるんですよ」
女が、俺に動画を見せてくる。
その動画には、フーちゃんの姿が映っていた。
「――いやー、ほんと! フーちゃんの動画を上げてから、お気に入りが1000人超えて、総視聴時間も2000時間超えたんですよ! ほんとうに、あの時はありがとうございます。それと栗も美味しかったです」
「それは良かったですね」
俺も定例文という感じで言葉を返した。
「でも、フーちゃんが居ないならコーヒーだけ買って帰りますよ」
「そうですか。気を付けてくださいね」
「はい」
女性動画配信者は、コーヒーだけ買って帰っていった。
「さて、迎賓館に向かうとするか」
俺は車のエンジンをかけてアクセルを踏み込んだ。
迎賓館に到着した後は、正面玄関のチャイムを鳴らす。
すると、すぐに雪音さんが出てきた。
「あ、五郎さん」
「アリアさんは?」
「王女殿下とエメラスさんの服の着せ替えをしています」
「そうですか。特に、何か問題とかは?」
「今のところはありませんね」
「そうですか。それは、よかった」
「それより、五郎さん」
「はい?」
「五郎さんは、ルイーズ王女殿下を婚約しているのですよね?」
「そうですね。一応は――」
「一応って……、五郎さんは王女殿下が嫌いとか?」
「いえ。そういう意図はなくてですね。あくまでもエルム王国が嫁がせてきたって感じなので、自分としては何て処理していいのか分からなくてですね」
「どうしてですか?」
「俺としては、雪音さんだけでいいので」
少し疲れていた事もあり、考えていたことがサラッと言葉に出てしまう。
それと同時に、雪音さんが顔を真っ赤にした場面を見た事で俺は、ハッ! と、してしまう。
まるでプロポーズみたいなだなと。
「そ、そうなのですか……」
俺から顔を背ける雪音さん。
その顔は赤く――、耳まで真っ赤だ。
「はい」
「そうですか……」
ただ、そこで雪音さんは、少し複雑そうな表情をする。
「どうかしましたか?」
もしかして俺の婚約が嫌とか?
そんなマイナス的な思考が浮かんでくるが、俺は頭を左右に振り、悪い考えを振り解く。
「桜ちゃんのことです」
「桜のことですか」
「はい。私と五郎さんは、いまは、まだ一つ屋根の下で暮らす男女という感じですが、結婚したとなると違ってきます」
「たしかに……」
桜も、雪音さんと仲がいい。
雪音お姉ちゃんとも呼んでいる。
だが、本当に結婚したら、そうはいかない。色々と変わってくる。
「そのへんは折りを見て桜に話さないと駄目ですね」
「はい。ただ、異世界側が婚約者の方を送って来たという事は、時間がそんなに無いと思います」
「そうなりますよね」
エルム王国の王宮側も、俺と王女殿下との結婚を急かす為に何らかのアクションをとってくるはず。
そうなれば、雪音さんとの結婚の前にされてしまう可能性がある。
「一度、桜と話し合って見ます」
「それが良いと思います」
「雪音様! どうかされましたか?」
「――いえ。王女殿下、五郎さんと結婚や婚約について会話していただけですので」
「そうですか」
そう言って、俺の前に姿を見せた王女殿下が着ていた服は、女子高の学生服だった。
しかもブレザーにハイソックスという。
たしか、ルイーズ王女殿下の年齢は16歳だったはずなので、女子高の学生服は、とても似合っていた。
「雪音さん」
「王女殿下が、どうしても気になっていて――、それで……」
「そうですか……」
雪音さんが一瞬、勧めたのかな? と、思ったが、どうやら違うようだ。
「しかし、王女殿下は、その服装が似合っていますね」
「ありがとうございます、ツキヤマ様。お世辞でも嬉しいですわ」
「いえいえ。お世辞とかではなく、その服は15歳から18歳の学生が着る服になりますので」
やはりと言うか何というか男女ともに年齢ごとに着れる服装というのは決まっている。
王女殿下は16歳なので学生服がピッタリとマッチングしだただけのことだ。
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