第242話 ルイーズ王女殿下との談話ルイーズ(3)
「そ、そうなのですか……あれ?」
そこでルイーズ王女殿下が首を傾げる。
「あのツキヤマ様」
「はい?」
「先ほど、学生が着る服とおっしゃられ――」
「はい。日本では、義務教育は15歳までですが、大半が高校に進学しますので18歳までは勉学に励む形になります」
「そうなのですか?」
「はい」
「日本という国は余裕があるのですね」
感心したような口ぶりで、ルイーズ王女殿下は呟く。
王女殿下が感心した理由も分からなくもない。
子供を18歳まで勉強をさせるという事は、子供の力を借りる必要がないくらい経済力が安定している証拠なのだから。
おそらく異世界では、王女殿下が、そう思うくらいエルム王国では経済が安定していないのかも知れない。
「勉強は国の土台ですから」
「そうですわね」
コクリと頷く王女殿下。
ルイーズ王女殿下も、そのことは理解しているのだろう。
「それにしても、学生服ですか……、異世界に学校に通ってみたくはありますわね」
「それは難しいかと」
「それは、どういうことですか? ツキヤマ様」
ルイーズ王女殿下と会話をしていたところで、横からエメラスさんが鋭い目つきで俺を睨みつけながら問いかけてくる。
「どういう事も何も、気品が滲み出ていますから、一発で王族だと分かってしまうから」
「たしかに……」
俺の言葉に満足そうに何度も頷くエメラスさん。
よかった、納得してくれたようだ。
でも、冗談抜きでルイーズ王女殿下みたいな美人が入学してきたら、高校とか普通にパニックになりそうだ。
エメラスさんが護衛に出ると言っても絶対に断らないと。
主に、俺の精神的安定のために。
「ツキヤマ様」
「却下です」
「まだ、何も、言っていませんが?」
「却下です」
俺は即答する。
相手に反論する機会を与えてはならない。
「どうしても学校には行かせるつもりはないと?」
「残念ながら自分としては、ルイーズ王女殿下の身に何かあればエルム王国との間で問題になりますから」
「エメラス、良いのです。ツキヤマ様の仰っていることは当たり前のことです」
「――ですが! ルイーズ! いいのですか?」
「はい。私は、お父様や兄弟から離れて暮らせるだけで、それだけで満たされていますので」
そういう話をされると俺としても困る。
たしかにルイーズ王女殿下は、庶子ということで王宮では扱いは宜しくないと聞いていた。
だが――、それとこれとは話は別。
そう――、話は別だとしても……。
「ルイーズ王女殿下」
「はい?」
「一度、高校に体験で行ってみますか?」
ルイーズ王女殿下の扱われ方を見ていると、まるで姪っ子の桜の辛い時期を思い出してしまって、どうしても手を差し伸べずにはいられない。
たしかに、藤和さんには余計な情報は与えない方がいいとアドバイスは受けていたけど、間々ならないものだ。
「五郎さん……」
俺を心配そうな目で見てくる雪音さん。
「すいません。どうしても……」
「桜ちゃんのことを想い出したんですよね?」
「わかりますか……」
「はい。五郎さんは、冷酷には人に接することはできませんから。でも、だからこそ皆さんが力を貸してくれていると私は思います」
「そう言ってくれると助かります」
そう、雪音さんに言葉を返したところで――、
「ツキヤマ様! 本当に、学校というところに行ってみてもいいのですか?」
「一応、少し時間を頂けますか? 用意とかありますので」
「はい!」
子供のように目を輝かせる王女殿下。
そして――、
「おっほん。ツキヤマ様?」
「何でしょうか? エメラスさん」
「私も、もちろん行っていいのよね?」
俺は頷く。
もう一人行こうと二人行こうと変わらないだろう。
それに護衛役は必要だろうし。
問題は戸籍をどうするかだが、そのへんは留学生って扱いにすればいいだろう。
このへんは、田口村長や藤和さんと一回話し合うとしよう。
それから数時間、洋服の合わせとかを行ったあと、俺達は店前に戻ってきた。
「疲れましたね」
もう途中からはファッションショーになっていて、一々、俺に、どうなのか? と、批評を求めてくるから、地獄であった。
母屋に入り――、
「雪音さん、自分は少し仮眠とってきます」
「ゴロウ様、おかえりなさいませ」
「ただいま。メディーナさん、少し仮眠をとりますので、あとは雪音さんと宜しくお願いします」
俺は自室の居間へと移動する。
すると、俺の自室の縁側では、桜と和美ちゃんとフーちゃんが川の字になって寝ていた。
よくよく時間を確認するとお昼寝タイム。
「俺も寝よっと」
桜の隣に布団を敷いて、俺は横になった。
目を覚ますと、日は沈みかけていた。
そして、横では、フーちゃんに顔を埋めたまま深呼吸を繰り返す桜の姿が。
「おはよう、桜」
「……」
反応がない。
肩を揺すると、コロンと縁側で横になった。
どうやらフーちゃんに抱き着いていただけ。
犬吸いをしていた訳ではないようだ。
寝ている桜を、そのままに俺は立ち上がる。
「おっさん! うちは!」
「お前は起きていただろ」
俺はジッと息を顰めていた和美ちゃんの頭をぐりぐりと触った。
「くびがー、くびがー」
「とりあえず、俺は店の方に行ってくるから桜を頼んだぞ」
「任された」
「ナイルさんに影響されなくてもいいからな」
適当にあしらい店の方へと移動する。
「すいません。お待たせしました」
「起きられたんですね」
店内に入り、まず反応してきたのは根室さん。
雪音さんはレジ前でお客の応対をしていた。
「はい、すいません。あとは、もう上がってしまっていいので」
就業時間を30分ほど過ぎているを確認すると同時に、
「タイムカードを押しておいてください」
「はい。それでは、今日は、これであがりますね」
俺は頷く。
「ナイルさん」
「はっ」
「送って上げてください」
「いいのですか?」
「問題ないです」
「分かりました。エミさん、私では至らぬ点があると思いますがご自宅までエスコートさせて頂きます」
「そんなことありません! 一緒に、来て頂けるだけでうれしいです」
そんな会話をした後、着替えてから店から出て母屋へと向かう二人を見送ったあと、
「五郎さんも気が付いているんですね」
最後の清算客の対応も終わった雪音さんが話しかけてきた。
「気が付いて?」
「はい。根室さんとナイルさんは、そういう仲ですから」
その雪音さんの言葉に、俺が感じていた違和感は勘違いではないのかと思う。
つまり、根室恵美さんとナイルさんは特別に仲がいいという事だ。
だが、問題は――、
「それって、問題のような気がしますけどね」
何せ、異世界人と結婚したら、どちらかがどちらかの世界に住むことになる。
そうした場合、俺が何かのはずみで死んだ場合、異世界との国交ゲートが消えてしまう。
そしたら、あとに残されたのは……死へのカウントダウンを待つ異世界の人だけ。
そう言う事を考えると異世界人との結婚というのは、互いにとってリスクが高いと思う。
「問題って……?」
「俺が死んだ時にゲートを開けられる人間がいないので、そしたら大変な事になるってことです」
「五郎さん?」
笑顔で、俺の名前を呼んでくる雪音さん。
ただ、その笑顔は、とても怒っているように感じられた。
「は、はい……」
「五郎さん。最悪を想定して動くのは良いですけど、ご自分が死なれることを想定してまで、今後の事に対して備えるというのは、私は困ります」
「そうですか……」
「はい」
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