第240話 ルイーズ王女殿下との談話
辺境伯から大量の金を、大量の塩や香辛料と交換で渡されてから一週間が経過し、何事もない毎日が続いている。
「おじちゃん! テレビ見ていい?」
朝食の時間、卓上に全員がつくまでに、桜がテレビを見ていいか聞いてくる。
「その前に、ニュースな」
テレビを付ければ、朝のニュースが流れる
すると――、
「先日、菱王マテリアル採掘事業部が、今年の金の採掘量を8トンから19トンへと上方修正しました。事業部長の話によると――」
ニュースがテレビより流れてくる。
どうやら、テレビでも目黒さん経由で金が持ち込まれたことが話題になっているようで佐渡島の土地は、多少値上がりしているとニュースで流れていた。
「ニュースになったみたいですね」
料理を運んできた雪音さんが俺に話しかけてくる。
「そうみたいですね」
俺は相槌を打つ。
ちなみに菱王マテリアル採掘に、目黒さんが金を持ち込んで3日後に、菱王マテリアル事業部から、古札で300億円届いた。
届いた時のまま紙幣は、アタッシュケースの中に入れたまま。
居間の一室に置いてあるが、そろそろ地下室か何か作った方がいいかも知れない。
朝食を食べたあとは、店を開ける。
「おはようございます。月山さん」
「おはようございます。根室さん」
和美ちゃんを連れて出社してきた根室さんと挨拶を交わしたあとは、4人体勢で雑貨店を回す。
そして、秋も中旬に差し掛かってきた事で問題が起きて来た。
それは、利用客が増えてきたことだ。
雪音さんが、お客さんというか結城村の人から聞いた話では、今までは車で遠い場所まで買い物に行けていたが、秋から春までは、雪に閉ざされるという理由らしい。
「季節フィーバーか」
俺は、駐車場で遊んでいる桜と和美ちゃんフーちゃんを見ながら、そんな適当な事を考えたあと頭を左右にふる。
そして経済関係の本へと視線を落す。
いまは、働き手がメディーナさん、ナイルさん、根室さんに雪音さんと、12時間営業の店にしては、それなりに増えてきたが、あくまでもナイルさんとメディーナさんは異世界からの出向扱い。
俺とルイーズ王女殿下を守るための護衛できている。
その点を考えると手が空いている今の内に勉強をする必要がある。
「五郎さん、そろそろお昼の用意をしてきますね」
「あ――」
その雪音さんの言葉に俺は本を閉じて、壁に掛けられている時計を確認する。
時刻は既に午前12時の30分前。
勉強に夢中で時間が経過しているのを忘れてしまっていた。
「分かりました」
「桜ちゃん、和美ちゃん、フーちゃん、いくわよ」
「はーい」
元気よく返事をする桜。
「わかった」
ぶっきらぼうな和美ちゃん。
「わん!」
そして、何故か連携するように吠えるふーちゃん。
そんな二人と一匹を連れて雪音さんは母屋へと戻っていった。
「ゴロウ様」
雪音さん達の後ろ姿を見送ったところで、俺にナイルさんが話しかけてくる。
「どうかしましたか?」
「お金の置き場所ですが、我々は交代で紙幣の警備だけでいいのでしょうか?」
「むしろ、それでお願いします」
盗まれたら大変だ。
主に税務署にバレたら何を言われるか分かったものじゃない。
「分かりました」
とりあえず、地下室を作ることを後で提案しよう。
一時的な保管場所では十分だろうし、あとは結城村に寄付するのもいいかも知れない。
戦後、埋設された上下水道管や道路やガードレールに橋やトンネルも耐久年数を超えてそうだし……。
そう考えると、お金を手元に持っておくのは数億で、残りは村の設備改修に回した方がいいかもな。
お金は、回さないと経済が発展しないし子供も増えないと経済の本にも書いてある。
巡り巡って人口が増えれば、それが一番いいことだ。
今度、田口村長に提案してみるとしよう。
昼食を順番に摂った後は、雪音さんと一緒に迎賓館に向かう。
理由は、迎賓館からの電話で食糧が心もとなくなってきたと言われたからだ。
そして、雪音さんを供だったのは、母屋に届いた大量の衣服を、ルイーゼ王女殿下、エメラスさん、アリアさんの3人に渡す為。
女性の衣類を渡すだけなら問題ないとは思っていたが、雪音さんから、女性が一緒に行った方がいいと提案された事から一緒に同行している。
車を迎賓館前の駐車場に停めて、俺は荷物を降ろす。
「雪音さん。王女殿下に、到着したことを伝えてもらえますか?」
「そうですね」
役割分担。
王女殿下たちが通販で購入した衣料品を車から全部下ろしたところで――、
「月山様」
――と、俺の名前を呼んでくる人物が。
「エメラスさん。もう、御加減は大丈夫なんですか?」
ほんの少し前までは、かなり取り乱していたが……。
「ええ、もう宜しくてよ。それよりも、その荷物は?」
「これは、エメラスさん達が注文した品々になります。迎賓館の中に運び込みたいと思うのですが、手伝ってもらえますか?」
「そうね!」
俺の言葉に笑みを向けてくるエメラスさん。
どうやら、衣類を見るのが楽しみらしい。
俺は段ボール箱を持ち上げて迎賓館へと運び込んでいくエメラスさんの姿を見て思い出す。
数日前――、ルイーズ王女殿下たちが購入した商品。
その代金は、後払いだったが、その支払額が1000万円を超えていた。
男の服だったら数万円だったというのに……。
代引きにしてなくてよかったと心の底から思ったところだった。
もし代引きにしていたら配達人が不審に思ったところだろう。
特に何の変哲もない田舎の一般人が1000万円とか通販に使うのはおかしいし。
「まぁ、体調が良くなったのならいいか」
エメラスさんが張り切り荷物を運んでいくと、しばらくするとドレス姿のルイーズ王女殿下が、侍女のアリアさんを連れて近づいてくると、スカートを摘み――、
「ごきげんよう。ゴロウ様」
「お久しぶりです。ルイーズ王女殿下」
俺は、中世の男が女性に挨拶した仕草を真似して、ルイーズ王女殿下の手の甲にキスをする。
「まぁ――、ゴロウ様は、少しは私のことを認めてくださったのかしら?」
そんなことをルイーズ王女殿下は口にしてくる。
どうやら、俺が古代中世のマナーに精通していないことを、自身が配慮されないから、嫌われているとか、厄介者に見られていると思われているらしい。
「私は、ルイーズ王女殿下を常に気にかけておりますので」
「そう。それは、良かったわ。それよりも、随分と荷物があるのね」
「全て衣類になります」
「……そ、そうなのね……。雪音様に頼んだ時は、こんなにあるとは思っても見なかったのだけれど……」
「3人分ですから。それに、これから冬が来ますからね」
「冬ですか。私が来た時は夏という季節の終わりごろだと、雪音様より伺っておりましたが、いまは、すでに秋という季節なのですよね?」
「はい」
俺は頷く。
するとルイーズ王女殿下は、少し体を震わす。
流石にドレスだと盆地の秋では、寒いだろう。
しかも異世界で作られたモノ。
防寒着としての性能は期待できない。
「ルイーズ様」
アリアさんから、ストールを肩から掛けられた王女殿下は口を開く。
「ゴロウ様。これからは、今よりも、もっと寒くなるのですよね?」
「今は、まだ残暑が残っていますから。ただ、これから冬に――、12月になれば雪が降るようになりますので、防寒着は必要になります」
「雪ですか……。エルム王国から、遠い北の国々では、凍死される方も居ると聞きます。これから大変になるのですね」
「はい。ただ、ご安心ください。日本は、つねに四季に備えるための知識や技術がありますので」
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