第209話 桜へのプレゼント(15)

 その際に店全体が金色に光るが、俺は特に何の負担も感じることもなく店の中へと入ることが出来たが――、


「こ、これは……。体の倦怠感が消えておる!?」

「お父様っ」

「シルベリア、どうかしたのか?」

「お父様、体調は如何ですか?」

「う、うむ……」


 国王陛下が、自身の体を確認するかのように体を動かす。


「ずっと感じていた身体の怠さが消えておるな」

「そうですか。お父様も……」

「これは、どういうことだ? ツキヤマ」


 俺に事情を聞いてくる国王陛下。


「陛下」


 俺が答える前に、店の中で待っていた辺境伯が口を開く。


「如何がしたか? 辺境伯よ」

「この店には、入店する者の病を治療する魔法が掛けられております。それにより、国王陛下の病の治療が行われました」

「……まさか、リコードが報告に上げてきた事は本当のことであったか……。それにしても、神殿の大神官でも治療が出来ないとされた病であったというのに……、なるほど……」


 辺境伯の話を聞いていた国王が、自分自身を納得させるかのように呟くと、


「辺境伯」

「はっ」

「ルイズ辺境伯領内に、王家直轄の離宮を作るように手配をしてくれ」

「分かりました。すぐに手配を致します」

「うむ」


 小気味良く頷いた陛下は、今度は俺へと視線を向けてくる。


「ツキヤマとやら」

「はい?」

「今度、我の息子――、王太子を連れてくるが問題はないな?」


 俺は辺境伯の方を見る。

 すると、辺境伯は肩を竦めるのが見えた。

 それを見て、どうやら王家は何かしらの病気に侵されているらしい。

 良好な関係を築いておく上で、王家からの要求は一方的だが、ここは頷いておくしかないか。


「お任せください」

「そうか。大義である。それから――」


 国王陛下が、話が一段落したとばかりに店の中をグルリと見ると目を細める。


「異世界の店と言うのは、王都の――、貴族街の店とは違い随分と赴きが異なるのだな」

「はい。お父様! この箱なんて氷が入った袋があります」

「ほう!」


 どうやら、国王陛下と店の外で会話している間に、シルベリア王女は店の中を物色していたのか、興奮した面持ちで国王陛下に話しかけている。

 そんな国王陛下と王女殿下に、店舗の従業員として手伝ってくれていたナイルさんが説明を始めた。

 そんな二人を横目に、ノーマン辺境伯が近づいてくる。


「ゴロウ、体の調子はどうじゃ?」

「特には何の負担も感じないです」

「ふむ……。どうやら、ずいぶんと魔力の保有量が増えたというよりも……、ゴロウ」

「何でしょうか?」

「以前に、ゴロウの魔力を計った事があったのう?」

「そういえば、そんなことがありましたね」

「うむ。どうやら、あの時の計測結果は間違っていたようじゃ」

「――と、言いますと?」

「ゴロウの魔力は、以前に計った時点で枯渇状態――、正確には異世界で暮らす分には問題ない程度の最低水準で体が魔力を内部で作っておったが、今回の魔力回復薬で、本来の全体魔力の割合で回復したようじゃ」

「それって……、もしかして……」

「うむ。アロイスやナイルと話をしておったが、どうやらゴロウの魔力は、膨大のようじゃ。魔力回復薬の割合回復量は2割程度。本来のゴロウの魔力は、いまの5倍ほどはあると推測できる。これは、恐らく神話に出てくる神々と同格の魔力量であろう。――いや、それよりも多くある可能性もある」

「また、厄介な……」


 思ったことが、そのまま口に出てしまう。

 ただ、店をやっていく上で不特定多数が入ってくる事を考えると魔力はあるだけ会った方がいいだろう。

 メリットもあればデメリットもあるということか……。


「うむ。このことは間違いなく国王陛下へ、シルベリア王女殿下を通して伝わるであろうな」

「ですよね。ただ店をやっていく上では、どうしても結界を通ってもらう必要がありますから、魔力は多い方が店舗の利用者も多く出来て良い気がしますけど」

「ゴロウ」

「どうかしましたか?」


 俺の返した言葉に、真剣な表情になった辺境伯は、俺の名前を呼んでくる。

 

「はい?」

「婚姻関係、つまり生まれてくる子供は両親の魔力の質を強く受け継いで生まれて来ると言う話は以前にしたな?」

「そういえば、そんなことを以前に――、それで桜も色々と目を……」

「うむ。大半は、女性側――、つまり母親側の魔力の質に大きく影響を受けるとされておるが、ゴロウほどの魔力があるのなら……」

「あ……、つまり種馬としては優秀ってことですか」


 嫌な予感がしつつも呟いた言葉に、辺境伯が頷く。


「貴族であるのなら10人以上の妻を娶って子供を作り、それにより派閥を増やすという事は普通であるが――」


 普通なんだ――、と、心の中で呟く。

 どうも貴族社会と、一般人として生きてきた俺とでは、思考回路というか考え方というか生き方そのものが違う。

 正直、俺には雪音さんだけでいい――、むしろ雪音さんがいいと思っているが……。


「それは厄介ですね」

「で、あろう?」

「はい」


 俺は、冷蔵ケースのところで商品の説明をしているナイルさんと、それを聞いている国王陛下と王女殿下を見て思わず溜息が出る。


「間違いなく王女殿下は気が付いていますよね?」

「お主に、婚約を申し込んできた時点でな」

「つまり国王陛下に知られれば……」

「シルベリア王女は無理でも、他の王権派の重鎮貴族の令嬢を送り込んでくることは考えられる」


 思わず額に手を当てる。

 何て、メンドクサイんだ……貴族社会。


「まぁ、そのへんは儂の方から上手く躱すようにしておこうかの」

「お願いします。本当に」


 俺はハーレムを作るつもりなんて一切ないし、そういうのに興味もない。

 

「それにしても、随分と熱心にナイルさんの説明を聞いていますね」


 こちらに目もくれずに商品説明を聞いている国王陛下に、俺は少し意外だと思い呟くが――、


「あれでも、エルム王国の国王でだからの。自国を豊かに出来るならば、話を聞くくらいの度量はある」


 ひどい言われようだ。

 まぁ、俺も王宮側と交渉してきて、今まで良いイメージは持ってないからな。

 辺境伯の言い分にも思わず同意してしまう。

 口には出さないけど。

 そう思いつつ、ナイルさんの方を見ていると、時折、チラッと俺達の方を見て来ていた事に遅ればせながら気が付く。


「もしかして……」

「ナイルは時間を稼いでくれている」

「それって、俺とノーマン辺境伯様が話す時間を作るためにですか?」

「そうなるの。とりあえず魔力に関してはシルベリア王女の口から国王陛下に語られるまでは伏せておいた方がいいのう」

「分かりました」


 俺も、そのつもりだ。




 辺境伯との会話も一段落ついたところで、こちらの様子を時折、横目で見て来ていたナイルさんが、気が付いたのか話をいい感じで切り上げると、国王陛下と王女殿下を連れて、こちらへと戻ってくる。


「ツキヤマよ」

「はい」

「お主の店には、珍しいモノが、たくさんあるのう」

「ありがとうございます」

「少し、此方に滞在しても問題ないか?」


 え? それは、非常に困るんだが……。

 迎賓館での接待も短期間なら、金を売ったお金で何とか工面は出来るが、長期間となるほ話は別。

 破産してしまう。

 辺境伯との取引きを行えばある程度の資金を賄えるとは思うが、問題は、取引きで手に入れられる金は、すぐには換金できないという点。

 さすがに数百万の資金を――、それだけの金を流通させれば、高い確率で問題になりそうだ。

 目黒さんに頼むのも限界があるだろうし。

 そうなると――、


「陛下」

「どうした? ノーマン」










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