第210話 ヘリからの景色

「遅ればせながら、申し上げますと、ゴロウの世界には魔力と言うモノが存在しておりません」

「なっ!? そ、それでは、生物は、どのようにして生きておるのだ!?」

「そのために、滞在は極力控えた方がいいかと思います。陛下の御身に何かあれば王国が立ち行かなくなりますので」

「う、うむ……」


 名残惜しそうに商品を見る国王陛下と王女殿下。

 そんなに興味が惹かれたモノがあったのだろうか。

 まぁ、どちらにせよ――、そろそろ移動した方がいいだろう。

 迎賓館の方での打ち合わせも終わっただろうし。


「国王陛下」

「ツキヤマ、どうかしたか?」

「長居が出来ないとなりますと、私が住む世界をじっくりと見ることもできないでしょう。ですので、私の方からささやか乍らも、絶景をお見せしたいと思いますので、付いてきて頂けますでしょうか?」

「ほう……」


 俺の絶景という言葉の部分に惹かれたのか、そこで国王陛下は顎鬚を弄り――、


「よいぞ、ツキヤマよ。余興を見せてもらおうか?」

「はい。仰せのままに」


 店のバックヤード側を通り、国王陛下を連れて母屋の方へと出る。

 そこには、俺の愛車のワゴンアールや、仕事用のフォークリフトなどが置かれている。


「ここは……、随分と寂れた田舎のようだが……」


 異世界の中世前期の――、製鉄の技術すら存在していない王国に、田舎と言われるとは……、少し奇妙な感覚を覚えつつも、


「陛下、ここはエルム王国へと繋がる入口が存在する場所です。そのため、万が一があったら問題ですので」

「なるほど。異界の門が暴走し爆発した際には、小さな領地であるなら、その領地ごと消し飛ぶこともあるからな」


 ――え? そんなに危険な代物なのか!?

 初めて聞いたが……。

 俺は、思わず辺境伯たちの方へと視線を向けるが――、


「儂の息子は、王国随一の魔法師でもあったから問題ない。それに、エルフやハイエルフも門の生成、固定には携わっておるからの」


 自信満々に、そんなことを語る辺境伯。

 そんな話を一切聞いていなかったから、流石に俺は驚く。


「ゴロウ」


 そんな俺に気がついたのか辺境伯が、俺の肩に手を置く。


「このゲートは、使用者の莫大な魔力を吸い取って起動し、都度、世界観の往来を出来るようにする。つまり、自然発生のエネルギーではなく、指向性のある魔力が必要だと言う事だ」

「それって、つまり……、普通の異界の門よりは安定していると?」

「うむ。そうでなければ儂も町中でゲートを作らせるような真似はさせん」


 辺境伯の言葉には、一理ある。

 俺の異世界の店は少なくとも、治安の良い場所に存在している。

 ナイルさんの話によると、市民街の中でもいい所にあるらしいと聞いたことがある。

 つまり、そんな場所に親父が店を作った以上、安全には力を入れたのだろう。

 だったら、必要以外にビビる必要もない。


 俺と辺境伯が会話している間にも、国王陛下はナイルさんに案内されて、俺の母屋の敷地から出ていく。

 そして、そんな国王陛下の後ろを追って付いていく第一王女殿下。


「ゴロウ。それで迎賓館というのは、どこにあるのだ?」


 俺と辺境伯もアロイスさんと供に、母屋の庭から出る。

 そして周囲を見渡した辺境伯が興味ありげな表情で俺を見てきた。


「それなら、今から案内します」


 辺境伯に、そう伝えたあと、俺は国王陛下に近寄る。


「陛下」

「ツキヤマよ。ずいぶんと長閑な風景だな?」

「はい」

「――して、我の娘ルイーズが滞在する館はどこになるのか?」

「今から案内させていただきます。こちらへ、どうぞ」


 俺は、国王陛下を店の反対側――、正面へと案内する。

 本日は、急遽、休みと言う事にしてある。

 おかげで、数十台停まれる店前の駐車場は、ヘリポートとして運用することが可能となっていた。

 現在は、山岳救助隊が使用するヘリコプターを着陸させてある。


「――な、なんだ……こ、これは……!?」


 流石に、国王陛下は驚いたようで、ヘリコプターの外側の部分を触っているが――、


「ツキヤマよ」

「はい」

「これは、一体なんなのだ?」

「言葉で説明させて頂くのもいいのですが、まずは体感して頂いた方が分かりやすいかと」

「どういう意味だ?」

「私を信じてください。まずは――」


 俺は、側面のヘリのドアをスライドさせる。

 そして、ヘリコプターに乗り込めるようにする。


「これは、馬車と同じように乗り物です。まずは乗って見てください」

「ノーマンよ」

「陛下、儂も乗りますので」

「……お父様」

「も、問題ない」


 国王陛下も、流石に心を決めたのかヘリに乗り込む。

 その後は、シルベリア王女殿下もヘリコプターに乗り込む。

 あとは、辺境伯やアロイスさん、ナイルさんが乗ったあと、俺はシートベルトの着用を手伝い、人数分のヘッドフォンを取り出したあと、付けていく。


「『あー、あー。聞こえますか?』」


 感度調整の意味合いも込めて、俺は全員を見渡すが、全員が頷いたのを確認してから、ヘリの操縦室へと向かう。

 ヘリの操縦席についたあと、シートベルトを着用する。

 そして横に座っているノーマン辺境伯へと視線を向けたあと、俺は機器を確認し、エンジンを始動する。

 ゆっくりと回転を始めるローターが徐々に音を鳴らし始め――、俺が操縦するヘリコプターは、駐車場から、ゆっくりと浮上する。


「『な、なんだ? こ、これは――、大地から離れているのか? いや――、空を飛んでおるのか?』」


 初めて、焦ったような声が、ヘッドフォンを通して聞こえてくる。

 俺はフォローする為に、


「『安心してください。この乗り物はヘリコプターと言って空を飛んで人を運ぶ乗り物ですので。簡単に説明すると空飛ぶ馬車のようなモノです』」

「『馬など付いてはおらぬが……』」


 国王陛下、実は余裕があるのでは? 

 そんなツッコミをするなんて。


「『あくまでも言葉のあやですので』」


 会話をしている間にもヘリコプターは、高度500メートルを超えた。


「『陛下。これは、また雄大ですぞ』」

「『分かっておる。ノーマンよ』」


 上空でホバリングさせながら、結城村を見せる俺は、ヘリの中から窓にへばりつくようにして興味深々に結城村を見下ろす国王陛下たちを見て思わず笑みを浮かべる。


「『陛下。少し面白い趣向がありますが、宜しいでしょうか?』」

「『うむ。よいぞ』」


 随分と気分を良くしているのか、俺の提案に陛下は上機嫌に答えてくる。

 俺は、すぐにヘリを操縦し秋田市が見える位置まで移動する。

 眼下には、無数の建物にビル、さらには運動場に無数の一軒家から商店街、巨大な商業施設などが見えてきた。


「『……ツキヤマよ』」

「『はい。どうかされましたか?』」

「『あ、あれは……、建物なのか?』」


 困惑したような声が、ヘッドフォンを通して聞こえてくる。


「『はい。ただ、あれでも日本だと低い部類の建物になります』」


 秋田駅前に建築されたタワーマンション。


「『ちなみに、あれはタワーマンションと言いまして、庶民が暮らす平たく言いますと長屋になります』」

「『……つ、つまり、あのような建物が他に……。……ま、まだ、あると言うのか?』」

「『そうなります。ここは秋田市と言い、秋田県の県庁所在地で最大の都市ですが、自分が仕えている日本国にとっては、GDPは、47都道府県中40位程度ですので、そんなに高くはありません。ですので、東京都にいけば、眼下に見えるタワーマンションの5倍以上はある建造物も存在します』」

「『……』」


 俺の説明というか、藤和さんが計画したことを、そのまま実行して説明しただけだが、国王陛下は沈黙してしまう。






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