第208話 桜へのプレゼント(14)
「よって陛下、連れていける人数には限りがございます。そうであるな? ゴロウ」
いきなり話を振られるが、俺はチャンスとばかりに、
「最大で5人までになります」
そう告げる。
俺の返事を聞いた国王陛下は、少し考えたところで、
「――では、ノーマン」
「はい」
「まずは辺境伯を同行させてもらう。次に、シルベリア」
「はい。お父様」
「お前も一緒に来るように」
「陛下、それではナイルとアロイスを一緒に同行させるのは如何でしょうか?」
「どういう意味だ?」
「二人とも異世界には行ったことがある経験者です。二人ならば、必ずお役に立つかと」
「…………わかった。――では、二人の同行を指示するように」
「ナイル、アロイス。異世界へ同行するように」
ノーマン辺境伯の命令に、ナイルさんとアロイスさんは同時に頷いた。
「それでは、行きます」
まずは、辺境伯の手を握り店内に入る。
次にアロイスさん。
そこで、俺は店内で待機している辺境伯へと視線を向けた。
「ノーマン辺境伯様」
「どうした? ゴロウ」
「ナイルさんの次ですが、国王陛下と王女殿下は、どちらを優先した方がいいでしょうか?」
「ふむ……。それは国王陛下でいいのではないのか? 陛下が、王女殿下を先にと命令をしたら王女殿下からでよい」
「分かりました」
店先へと出てナイルさんを連れて店内に入ってから店外へと出て、国王陛下の方を見る。
「それでは陛下」
俺は手を伸ばす。
そんな俺の手を国王陛下はジッと見たあと、
「シルベリア、先に行くとよい」
「わ、分かりました」
俺は、国王陛下の決定を不思議に思いながらもシルベリア王女の手を握り、店の中へと足を踏み入れたところで、心臓が早鐘を打つ。
それと同時に、店内のカウンターの下に置いておいた剣が輝く。
――こ、これは……まさか……。
店の中へと足を踏み入れた王女が、呆けたような表情をしていたあと、すぐに真顔に戻ると、辺境伯へと視線を向けた。
「ノーマン。これは一体?」
「どうやら、シルベリア様は、何かしらの病に罹っていたようですな」
店の中に入る時に、日本に異世界の病原体を持ち込まないようにするために、異世界人の体を治癒することがあるが、俺の心臓が一瞬、早鐘を打ったことから、第一王女のシルベリア王女は、何かしらの病に侵されていたらしい。
何かは分からないが、ノーマン辺境伯や雪音さんを治療した時よりかは遥かに軽い。
「たしかに……、ずっと感じていた倦怠感が消えていますわ。リコードから報告は上がっておりましたが、まさか本当だったとは……」
一応、報告は受けていたのか。
それよりも王族が病に蝕まれているとは……。
「それでは、俺は国王陛下を連れてきます」
「お待ちください!」
「――え?」
離した俺の腕を掴んでくる王女に俺は驚く。
「どうかしましたか?」
「あの、顔色が悪いようですが、わたくしの治療に魔力を使ったのではなくて?」
「そこまでは――。それに、そこまでは」
「あの、お父様も病を患っているのです。ですから――」
まさか王族二人共病を患っているとは……。
「その病は、シルベリア王女殿下と同じ病ですか?」
「は、はい。ですから無理はされない方が宜しいかと思いますわ」
「そうですか」
まぁ、雪音さんの病を治療した時は、もっとやばかった。
感覚的に、同じ病なら特に問題はないはず。
「ゴロウ」
「辺境伯様?」
「これを飲んでおけ」
ノーマン辺境伯が、水の入った瓶を取り出す。
俺はそれを受け取り辺境伯を見る。
「それは魔力を割合で回復するモノだ」
「そんなモノが……」
異世界は魔力を回復するアイテムもあるのか。
便利だなと思いつつ、目を見開く王女殿下を不思議に思いつつ、俺は瓶の蓋を開けて一気に煽る。
すると体中に活力がみなぎってくるというか、体中の毛穴が開いたような気がすると共に、黄金色の光が薄っすらと体を包み込む。
「何だか回復した気がします」
そんな俺の言葉に、誰も反応せず絶句したような表情を向けてくる面々に俺は首を傾げた。
「どうかしましたか?」
どうして、そんなに驚いた表情で俺を見てきているのか、内心、首を傾げる。
そのうちに体を包み込んでいた金色の光が体に吸収されるようにして消える。
「ゴ、ゴロウ」
「はい?」
辺境伯が、震える声で――、
「体は、何ともないのか?」
「はい。何ともありませんが……」
自身の体を動かしてみるが、どこにも異常は見当たらない。
むしろ、先ほどまで感じていた倦怠感が嘘のように消えているし、体がすごく軽い。
「ノーマン様。ゴロウ様の魔力が爆発的に増えたのでは……」
「わ、分かっておる」
何やら、アロイスさんと辺境伯が不穏な話をしているが、魔力が増えたことが、そんなに問題なのか?
「ゴロウ、本当に体は何ともないのだな?」
「何か問題でも?」
「――以前にもゴロウに話したことがあったな? 貴族や王族というのは魔力の質、量に関して」
俺はコクリと頷く。
そういえば、そんなことを……言っていたような……。
「黄金の魔力は、紫色の魔力を超えた時に発現するモノだと言われておる」
「……きっと気のせいです」
何で、そんな面倒なことになっていて、そんなことに俺が巻き込まれないといけないのか。
そもそも、魔力なんて増えても俺には魔力回路が無いのだから魔法なんて使えないし。
「いえ。ゴロウ様! 素晴らしい魔力です! 間違いなく歴代王族1位かと――」
「あー」
アロイスさんが褒めてくれるが俺にとっては全然嬉しくない。
むしろ普通が良かった。
へんな薬を飲ませた辺境伯が全て悪い。
「まぁ、これで王の関心は、ゴロウに移るのではないのか?」
近づいてきた辺境伯がボソッと俺の耳元で忠告してくる。
そういえば、桜の魔力は、俺よりも遥かに強かった気がする。
その桜よりも魔力が強いのなら、王家の関心は俺に向かってくるだろう。
なら、この事態は、逆に感謝するべきなのかも知れない。
「ゴ、ゴロウ様!」
一人、心の中で葛藤していると、俺の腕を掴んでくるシルベリア王女。
先ほどまでの、この下郎が! みたいな態度は、微塵も感じない。
「は、はい?」
「ルイーズよりも私とどうでしょうか!?」
「いえ、結構です。じゃなくて、国王陛下が一度は、決められたことを自分達が勝手に決めるのは反意ありと取られてしまいますので」
俺は遠回しに断る。
どう考えても、いきなり態度を180度変えた原因は、俺の魔力が上がったのを知ったのは見え見え。
つまり、目の前の女性は、年収が高い男性を選ぶかのごとく俺に擦り寄ってきただけ。
そう考えると、昔の彼女を思い出して、シルベリア王女を嫌悪感の対象として見てしまう。
「と、とりあえず、国王陛下を待たせていますので、俺は、国王陛下を連れてきます」
これ以上、ここで会話を続けていても国王陛下を待たせるだけで、良くはない。
「あ――っ」
シルベリア王女の腕から手を抜き、店の外へと出ると、国王陛下と目が合った。
「ずいぶんと時間が掛かったようだな」
かなりお怒り気味のようだ。
「申し訳ありません。少し問題がありまして――」
「問題?」
「はい。ですが、それは、ここでは説明できませんので」
俺は、そう国王陛下に伝えつつ回りを見る。
回りには20人を超える兵士達が警備をしていて、夜という事もあり些細な物音も拾う事ができる。
俺の態度に、国王陛下は、「そうであるな」と同意を示してきた。
「――では、陛下」
俺は、手を差し出す。
陛下が、俺の手を取ったのを確認してから、握り返し、店舗の中へと足を踏み入れる。
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