第136話 イベント準備(2)

「そうだぞ。だから、熊とか猪とか鹿は危ないから見ても絶対に近寄ったら駄目だからな」

 

 桜がスッと視線を逸らす。

 

「桜」

「分かったの……」

「だけど、動物をマスコットとしておくのはいいかも知れないな」


 まぁ、問題は店内にはペットを入れることは出来ないという点だが――。

 そうすると外にカフェテラスのような物を設置してもいいかも知れない。

 そしたらフーちゃんを店のマスコットとして売りだそう。


「さくら、役に立った!?」

「ああ、すごく参考になったぞ」


 桜の頭を撫でながら返すとニコリと桜が笑ってくる。

 それだけで癒される。


「それじゃ時間が無くなると困るし昼食でも摂るとするかな」

「おじちゃん! 桜も! 桜も!」

「さっきご飯食べたばかりじゃないのか?」

「食べたけど……、アイスクリーム食べるの!」

「そっか」


 台所に行き、二つに割るタイプの棒のアイスを冷凍庫から取り出し二つに割る。

 1個を桜に――。

 もう一個を……。


「あー! 桜ちゃんだけズルい!」


 俺が食べようとしたところで、和美ちゃんがトタトタと走ってくる。


「おっさ――じゃなくて、お兄様! 和美も、アイス食べたいの」

「気持ち悪い。普通に話せ」

「ひどっ!」

「だいたい、そんな話し方、誰に教わったんだ?」

「桜ちゃんと一緒にやっていたゲームで……」

「そんなゲームあったか?」


 色々なゲームをしていたから記憶にないが、そんなゲームは買っていないと記憶しているんだが……。


「あったよ!」

「ふむ……」


 少し半信半疑だが――、俺が納得しないと見るや否や走って桜の部屋に行きすぐに戻ってくる。


「これだよ!」

「――ん? そ、それは!」


 和美ちゃんが手に持っているのは、俺がゲームショップで購入した時に、くじ引きで当たった商品。

 俺にとっては非常にありがたくない品であったが、同じゲームソフトの箱の中に入れておいた物。


「これって、よく分からないゲームだったけど、おっさんはこういうゲームが好きなのか?」

「まったく――、これぽっちも? ほら、アイスと交換だ」

「トレードなの!」


 和美ちゃんが持つゲームソフトを手に取る。

 代わりにアイスを渡すと、桜と和美ちゃんは二人で縁側に行きアイスクリームを食べ始めた。

 そんな様子を見たあと、俺は手にもっているゲームソフト【ヤンデレメモリアル】に視線を向ける。

 このゲームは8人の女の子の中からヒロインを見つけてパラメーターを増やして結婚するという恋愛ありのゲーム。

 ただ、このゲームには一つ問題がある。

 それは恋人になってからだと選択肢を一つでも間違えると即死コースという、とんでもヒロイン達ばかりが居るという点だ。

 さらに選択肢は常に隠しパラメーターに依存し、さらに出題問題数は1万問の中から5問がランダムで選ばれるという攻略難易度SSランクの超絶クソゲーとまで言われたソフト。

 発売から15年が経過した今でも一人のヒロインも攻略されたという情報がネットではない事から、逆神ゲーとまで言われている。


「まぁ、そんなことはどうでもいいか」


 色々と闇が深いゲームソフトは、居間の箪笥の中に入れて食事を摂る事にした。




 食事を摂ったあとは、雪音さんと交代する。

 レジは根室さんに任せて、俺は品出しをするが思ったよりも御菓子類やカップラーメンの類が売れている。


「これは、藤和さんに発注しておいた方がいいかもな」


 一人呟きながら発注する為の商品の量を確認していく。

 正直、藤和さんの倉庫から月山雑貨店までは距離があるので、できれば纏めて発注して在庫も持っておきたいが――。


「予算がな……」


 早く何とかして異世界との交渉を纏めないと真綿で首を締められる状態になり資金繰りが苦しくなる。


「はぁー」

「月山さん」

「うぉっ!? ど、どうかしましたか?」

「月山さんこそ大丈夫ですか?」


 あまり深く考えすぎていたので、根室さんが来るまで気が付かなかった。


「はい。それで、どうかしましたか?」

「はい。中村石油店の方が、プロパンガスのことで月山さんと話をしたいそうです」

「分かりました」


 すぐに店の外へと出ると、駐車場にはプロパンガスを載せている自動のリフト付きトラックが停まっている。

 すぐにトラックのドアが開くと作業服を着た中村さんが下りてきて――。


「お待たせ、作業内容は炊き出しで使う為のプロパンガスの設置でいいんだな?」

「はい」

「炊き出し用のガスコンロはあるのか?」


 そういえば鍋の発注はしたが、ガスコンロの発注を忘れていた。

 普通のガスコンロだとアレだよな……。


「その様子だとガスコンロは用意していないんだろう?」

「ええ。まあ……」

「――念のために持ってきておいて正解だったな」


 トラックの積み荷から降ろされたのは鋳物の大型ガスコンロ。

 

「いまなら一日のレンタル料金3000円でどうだ?」

「よろしくお願いします」

「そんなに簡単に決めてしまっていいのか?」

「簡単ではなく時間を買っていますから。それに時間は、そんなにありませんので、いまから探しても――」

「そうか」


 中村さんが渡してきた領収書を受け取る。

 金額を見るが3万円もしない額。

 このくらいなら安い。

 いや、ここ最近の出費が酷すぎて金銭感覚が麻痺しているだけか。


「それじゃ作業を始めるが、場所は?」

「道を挟んだ場所でお願いします。あと、出来ればトイレから離れた位置で」

「分かった」


 作業を始める中村さんの後ろ姿を見ていると、今度は塗装が黒で白猫の絵が描かれたトラックが停車。


「月山様で宜しいでしょうか?」

「はい」

「白猫ヤマトです。代引きの商品を御持ちしました。荷物は、金物と言う事ですが……」

「少しお待ちください」


 俺は荷物の置く場所を指定して、お金を取りに母屋へ戻る。

 玄関から、家内に上がったところで雪音さんがローストビーフが盛られているお皿を持って家の中をウロウロとしていた。


「雪音さん」

「――あっ!? 五郎さん! フーちゃんを見なかったですか? じつは、フーちゃんの姿が見えなくて……」

「フーちゃんが?」

「はい」

「桜には?」

「一応、聞きましたけど……、少し山に行っているから問題ないって……」

「山に?」


 ちょっと意味が分からない。


「ちなみに桜は慌てている素振りは?」

「まったく……」

「なるほど……」


 いくらなんでも、桜の頭の上に乗るくらい小さな子犬であるフーちゃんが山に行く訳がない。


「――あっ!? そ、そういえば……」

「何か?」

「五郎さんが、異世界の方と東京に行っている時もフーちゃんの姿が見えなかった時があったんです。本当に山に行っているのかもって……」

「それは考えすぎです」

「そうでしょうか……」

「仔犬なんですから、そんなに遠くには行きませんよ。第一、周りは畑と田んぼと川しかないんですから。近くの山でも車で数分は掛かるんですから」

「――でも、川に流されたら……」


 その可能性は否定できない。

 ただ、フーちゃんは桜の言う事だけはよく聞いている。

 俺の言う事はまったく聞かないが……。

 だが、一つだけ気になるのは桜がフーちゃんは山に行っていると発言したことだ。

 桜は嘘をつくことはない。


「その可能性は低いかと」


そうなると、結局のところ、よく分からない――、考えても答えは出ない。


「そうですね。そういえば、五郎さんはお店の方は?」

「――あっ!」


 荷物が届いたので、お金を取りにきたことをすっかりと忘れていた。

 まずはお金を払って荷物を受け取らないと。


「荷物が届いたので――、代引きなのでお金を払ってすぐに戻ってきます」

「分かりました。私は、もう少し家の中を探してみます」

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