第135話 イベント準備(1)

 表から店に入ると店内は、お昼時と言う事もありごった返していた。

 すでに、根室さん一人では回らない量の人がレジ前に並んでいる。


「根室さん。手伝います」

「はい」


 朝から一人で作業をお願いしていた事もあり、疲労が蓄積されているのが表情から読み取れる。


「それじゃ自分がレジを打つので商品の袋入れをお願いします」

「分かりました」


 彼女と分担して集まっていた利用客を捌いていく。

 前回、大売り出しの時はレジ前に人が集まるのは仕方ないと見過ごしていたが、今後――、こういう事になるとレジを一人で担当するのはきつそうだ。

 そうなると、普通のスーパーのように買い物客本人に商品を袋に入れてもらって、二人でレジを打った方が作業はスムーズに進むかも知れない。


「五郎」


 レジ打ちをしていた所で、話しかけてきたのは踝健さん。


「どうかしましたか?」

「いや――、お湯貰えるか?」

「あー……、カップ麺ですか」

「そうそう」

「それじゃ母屋に行って雪音さんから貰ってきてください」

「分かった」

「おい! お前ら! 許可が出たぞ!」


 踝健さんの掛け声に、外で待機していたであろう買い物客がゾロゾロと母屋の方へと向かう。

 その数は20人近い。

 

「今度、お湯も用意しておいた方がいいですね」

「そうですね」


 根室さんの言葉に俺は頷きつつ、電子レンジも用意しておこうと思う。

 そうすれば気兼ねなく買い物をしたあと使ってくれることだろう。

 そうなるとゴミ箱や食べ物を食べる場所の用意も必要になるか……。

 色々と物入りになりそうだな。


 お昼を少し過ぎたあたりでレジ打ちも一段落つく。


「根室さん、休憩にどうぞ」

「はい。それでは失礼します」


 根室さんが、母屋に休憩しに行っている間に何時もなら品出しをするのだが――、外で仕事をしている作業員が大勢いるので何時買物に来るか分からない状態で品出しはできない。

 仕方なくレジの中で外の作業場を見ながら暇を潰す。


「あれは……」


 外を見ていると一台の車が駐車場に停まる。

 出てきたのは見覚えのある方。

 会うのは久しぶりだが――。


「五郎、ひさしぶりだな!」

「お久しぶりです。中村さん」

「健から話は聞いたがイベントでガスボンベが要るとか?」

「はい。炊き出し用にガスボンベの融通とかって可能ですか?」

「出来る。急だが配管工事も含めて、工賃としてはこのくらいでどうだ? あと、購入よりレンタルの方が安いぞ?」

「レンタルとかあるんですか?」

「ああ、だいたい5キロくらいでいいんだろう?」

「はい」

「そうなると、プロパンガスボンベは購入して使う費用だと2万円前後、レンタルだと5000円くらいだな」

「それじゃレンタルでお願いできますか?」

「分かった。すぐに用意しよう」

「念のため2つお願いします」

「二つ? ああ、そうか――。分かった。それじゃ一度、会社に戻るから費用の方は1万円前後で見ておいてくれ」

「分かりました」

 

 話が一段落ついたところで店から出ていく中村さん。

 ただ――、その足が店を出る前に止まる。


「五郎」

「どうかしましたか?」

「いや――何でもない……」


 そのまま中村さんは店から出ていき車に乗ったあとは駐車場から村の中心部へ向けて車を走らせてしまった。



 

 中村さんが何を言いたいのかは、大方察しがついていたが俺が考えないようにして店内を見渡したあと、ノートパソコンで中古のアンティークなどを見ていく。

 フードコーナーを作る上で必要なのは椅子とテーブル。

 幸い、月山雑貨店はそれなりの広さがあるので、フードコートを作るスペースもあるが――。


「これは……」


 ネットでフードコートを調べるかぎり、掃除が大変という話や不適切な使われ方をして却って売り上げが下がったという内容が多い。

 それらは主にコンビニだが……。


「五郎さん」

「――あ、雪音さんですか」


 パソコンを使っていたところで雪音さんが不思議そうな表情でディスプレイを覗き込んでくる。

 

「フードコートですか」

「はい。利用客を増やす為にフードコートを作ろうと思っていまして」

「うーん」


 雪音さんは思案しているが――、すぐには答えがでないようで悩んでいる。

 その様子を見て俺もネットには悪い記事が多く書かれていたことを思い出す。


「やはりフードコートは止めた方がいいでしょうか?」

「そうですね。都会では、フードコートはありましたけど、あまりいい意味での使われ方はしていませんでしたから」

「やっぱり……」

「ただ……、それがフードコートだけならという点になります」

「つまり?」

「結城村ならではのフードコートにしてみたらどうでしょうか? ここのフードコートでしか味わえない! そんな形にしてみたら利用客は増えるかも知れないです」

「なるほど……。――でも、結城村ならではのですか……、難しいですね」

「そうですね…………あっ! 五郎さん」

「なんですか?」

「桜ちゃんが遊んでいるゲームありますよね?」

「桜が?」

「はい。コンビニを経営するゲームみたいなのを遊んでいますよね?」

「そういえば……」


 そんなことがあったような……。


「桜ちゃんに最近は色々と聞かれるんですけど――」

「え?」


 俺、桜に色々と聞かれたことないぞ?


「どうかしましたか?」

「いや、何でもないです。それで、桜に何を?」

「あのゲームって、すごく本格的でフードコートの作り方とか利用客の動きとかをシミュレート出来るんです。全てためになるとは思いませんけど、一度やってみたらどうですか?」

「そうですね……」


 軽く相槌を打つ。

 ゲームはゲーム。

 リアルはリアル。

 それが俺のモットー。


 正直、ゲームで何かが分かるとは思えないんだが……。


「五郎さん、レジ打ちは代わりますのでお昼をどうぞ。ついでに桜ちゃんと和美ちゃんがお昼を食べたばかりですので、桜ちゃんにゲームのことを聞いてみてもいいかも知れませんよ? すごくやり込んでいますから」

「……」


 さすがに、子供に聞くのは大人としての威厳が……。


「と、とりあえず食事に行ってきます」

「はい」


 すぐに母屋へと戻り玄関を上がったあと、桜の部屋へと向かう。

 一応、念のため! 念のために『それゆけ! コンビニ』を見るだけ。

 

「桜」

「はーい」


 ゲームをしながら振り返ってくる桜。

 

「あれ? 和美ちゃんは?」

「ママとご飯食べているの」

「そうなのか」 

「桜、ゲームは楽しいか?」

「うん! えっとね! いま売上が倍になったの!」

「倍!?」

「うん。これ見てー」


 桜が指差す方向――、画面を見るとコンビニにはフードコートらしき物が出来ているのが見える。

 何というタイミング。


「これね! ふーどこーとっていうの」

「そうか」

「地域によってね! とくしょくをだしたりしているの!」

「なるほど、ちなみに桜ならうちでフードコートをするって言ったらどんなのにしてみたい?」


 まぁ、子供の意見を聞いてみるのもいいかも知れないな。

 それを俺が修正すればいいだけだし。


「えっとね! 動物にさわれるふーどこーとがいいとおもうの!」

「動物?」

「うん! ウリちゃんとかクマちゃんとかシカちゃんとか!」

「ウリちゃんってイノシシの事か?」

「うん!」


 なるほど……。

 それにしても、熊ちゃんとか鹿ちゃんとかずいぶんと親しい風に言ってくるよな。

 おそらくゲームと混同しているのかも知れない。

 ここは、ゲームはゲームと教えておいた方がいいかもな。


「桜」

「なに?」

「ウリボウも熊も鹿も動物だけど、そういう動物が大人しく人の話を聞くのは稀なんだぞ?」

「そうなの?」


 何故か知らないが、傍らで寝ているフーちゃんをチラリとみる桜。

 どうして、そこでフーちゃんを見るのか。

 フーちゃんは犬だぞ?


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