第133話 謎のスポーツカー
それなのに子供がゲーム内経過時間20年で、世界的にコンビニ支店を増やすのは普通はできない。
公式の報告でも、経営のプロがゲーム内経過時間10年で、ようやく海外に支店を1個出せるかどうかの難易度なのだ。
それを子供が出来るかと聞かれれば100%無理だろう。
だが、最初からゲーム内データを改造したら駄目だぞと言ってしまっても成長の阻害に繋がってしまう。
褒めて伸ばすこともしないとな。
「えへへっ……」
頭を撫でられた桜は上機嫌。
そして、部屋の隅では枕に顔を埋めたまま寝ている和美ちゃんの姿が――。
「桜、和美ちゃんと一緒に遊んでいたのか?」
「ううん。最初は一緒にゲームしたの! でも……」
「なるほど……」
桜が口ごもった時点で、俺は大人として察する。
おそらく一人用のゲームを桜が何かをして攻略していたので見ていて飽きたのかも知れないと――。
昔からよくある資金増殖バグとか、そんな感じなのかも知れないな。
「桜ね、たくさん本を読んでいっぱい色々おぼえたの! ゲームも、それでうまくいったの!」
「そうか、桜はすごいな」
あれだけの量の本を読むことは普通は無理。
まぁ最初から否定するのも良くは無いからな。
「そういえば、もう本は読んでないけどいいのか?」
「うん! 全部覚えたの!」
「そっかー」
やっぱり飽きてしまったか。
まあ文字とグラフばかりだったからな。
子供には早すぎたのかも知れない。
そもそも、購入した本は大人向けに書かれたものだからな。
俺ですら理解するのがやっとなのに、5歳の子供が読み解けたら桜は天才と言う事になってしまう。
ここは冷静に考えないとな。
とりあえず、あとで目黒さんの家に行くとしよう。
そんなことを考えていると桜が目を輝かせながら俺を見上げてくる。
「桜、えらい?」
「ああ、えらいぞ!」
桜の頭を撫でる。
子供は褒めて伸ばすのがいいってママ友掲示板にも書いてあった。
「それじゃ、少し出かけてくるからお留守番できるか?」
「お出かけ? 桜も、一緒に行っていい!?」
まぁ、目黒さんの所だが……和美ちゃんも居るからな……。
「桜も一緒にいきたいの……」
上目遣いで見てくる桜。
まぁ、最近はあまり構ってやれなかったから、別にいいか……。
「それじゃ一緒にいくか」
「うん!」
まずは水回りの場所――、洗濯機が置いてある場所へと向かう。
「雪音さん」
「は、はい!? 五郎さんに……桜ちゃん? 一緒に、どこかお出かけですか?」
「――え? よく分かりましたね」
「はい。桜ちゃんはお気に入りのワンピースを着ていますから」
「雪音お姉ちゃん!」
「ごめんなさいね」
――ん? 雪音さんは、一体――、何の話をしているんだ?
どうして、お気に入りのワンピースを着ているのがお出かけと言う事に繋がる?
今一、良くわからん。
「それで、どちらまで行かれるんですか?」
「目黒さんの所に行ってきます。お店の方は根室さんに任せていますけど、何かあって連絡があったら対応をお願いできますか?」
「分かりました。それより目黒さんの所と言う事は、お金の件でしょうか? 今回の工事費用で思ったよりも費用が嵩んでいるという事ですか?」
「は、はい……」
「分かりました。それと工事費用に関してですが、踝さん達に頼むのは構いませんが費用については私が帳簿を管理しているのですから事前に報告をしてください、いいですか?」
ジッと見つめてくる雪音さん。
反論をすれば何か言われそうな気がする。
俺は無言で頷く。
「それでは、踝兄弟には私が話をつけておきますので、いってらっしゃいませ」
「行ってきます……」
「いってくるの!」
母屋から出たあとは、何時も通りワゴンRに乗り込む。
もちろん桜は後部座席でチャイルドシート。
「さっきの雪音お姉ちゃんは怖かったの」
「そうだな……」
俺は車を発進させつつ、小さく頷く。
さっき怒ってはいなかった。
笑顔であった。
だが、何というか一瞬、後ろに般若が見えた気がする。
今度から、何か大きな買い物をするときとか工事をするときの予算決めは、雪音さんを通す事にしよう。
10分ほど走ったところで山中の目黒さんの家に到着。
すぐに桜をチャイルドシートから下ろしたあと、俺と桜は目黒さんの家の玄関に向かう。
――ガラガラ。
玄関に到着するかどうかの所で玄関の戸が開く。
いきなり玄関の戸が開いて出てきた目黒さんは、俺と桜を見たあと――、
「田口の孫から連絡があったぞ。待っていたぞ。さっさと入れ」
雪音さんから既に連絡を貰っていた目黒さんに促されるようにして家に入る。
家の中を歩き、以前に案内された事務所に通され――、
「さて――、桜ちゃんはソファーに座りなさい」
「うん」
トコトコと歩いていきソファーに座る桜。
「――で、五郎は立っていろ」
「――え?」
何なんだ?
この仕打ちは……。
俺は、何かしたか?
「雪音から話は聞いている」
「はぁ……」
目黒さんが冷蔵庫からスポーツドリンクを2本取り出し、1本は桜に――。
もう一本は、目黒さん本人が飲むようで……。
「お前は、ことの重大さが何も理解出来ていないようだな。まったく――」
どういうことだ?
「どうせ、ここに来たのは金のマネーロンダリングが終わっていないか確認しにきたんだろう?」
「それは……」
資金洗浄みたいな言い方をされると此方としても微妙な気分になる。
「まずは、お前が持ってきた金に関しては半分ほど換金は済んでいる。ただな……」
目黒さんの視線が桜を見たあと、俺の方へと向いてくる。
「すぐに現金化できるわけじゃないんだぞ? もう少し計画的にお金を使うように。あまり子供のいる前で文句を言いたくないから、このくらいしておく」
「分かりました」
たしかに、今回は突貫工事依頼と言う事もあり、かなりのお金を使う事になってしまったが、費用に関しては金の売買があるからと思っていたのも事実。
値切れる所は値切っておくべきだったかも知れない。
「分かったならいい。ほら!」
再度、冷蔵庫を開けた目黒さんはスポーツドリンクを一本取り出し俺に放り投げてくる。
それを空中で受け取る。
「それでも飲んでおけ」
スポーツドリンクを飲んでいる間にも目黒さんは金庫からお金を取り出すと、俺に手渡してくる。
「まずは、300万円。これだけあれば当面の費用は賄えるだろう? もちろん手数料は引いておいた」
「はい。ありがとうございます」
「五郎、お前も人を雇う身になり家族を養っているという事を忘れるな。たとえ知り合いであっても安くできる所は安くしろ。今後のことを考えて外面を良くすると言うのも必要かも知れないが、お前が大事にしないといけないのは身内だからな。それを忘れるな」
目黒さんが俺の胸元を軽く叩きながら忠告してくる。
「分かっています」
「分かっていたら説教なんてせん。思考を止めるな。相手が何を考えているのか、最悪の事態を想定して常に行動しろ。分かったな?」
「はい」
満足そうに頷く目黒さんに頭を下げて家の中を通り玄関へ――、そして桜と一緒に車に乗りエンジンを掛ける。
ギアを一速に入れてサイドブレーキを落としアクセルを踏もうとしたところで窓ガラスが叩かれる。
「どうかしましたか?」
「そういえば忘れておった。最近、結城村内に見知らぬスポーツカーが出入りしているようだぞ?」
「スポーツカー?」
「何かを探しているようだと回覧が回ってきた。」
「こんな田舎で何を探して……」
「話によると家の中を見るような仕草をしていたらしい」
「明らかに怪しいですね」
「うむ。一応、誰もスポーツカーの乗り手には知り合いには居ないらしい」
「つまり村の外から来たという事ですか……」
「そうなる。五郎も警戒しておいた方がいいぞ。姪っ子がいるんだからな」
「分かりました」
俺は、頭を下げてからアクセルを踏んで車を発進させる。
すぐに目黒さんの家は遠のく。
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