第132話 お金が足りないっ!
たしかに、そう言われるとかなりの労力が必要になる。
「今から作業をして間に合いますか?」
「他の工務店に応援を頼むしかないな。資材代も含めて数百万円は掛かると思うが……、村長に請求するとするか」
「いや、それは……」
こちらの事情を多少なりとも彼は知っている。
だが――、今回の問題に関しては完全にノータッチだ。
イベントで使うという話だと請求先は村長になるのは当然の流れだが……。
「何かあるのか?」
「いえ――、それでは請求先は村長の方でお願いします」
「それじゃ金額の事だが……」
「そうですね……。大体の大雑把な金額の提示をしてもらえますか?」
「そうだな。本来なら一週間かかる仕事だからな……」
そう言いつつ、俺をチラッ! と、見てくる踝健さん。
その様子から仕事に対する報酬に色を付けて欲しいというのが見え隠れする。
「まずは基本的な金額を提示して頂かないと――」
「分かった。まず、近隣の――、俺の知り合いの工務店に応援を要請するから30人前後は集まると思う。そうなると一人頭、日当として2万円くらいは欲しいところだな」
「つまり2日で完成と言う事になると、30人で日当が2万だと120万円くらいですか?」
「そうなんだが……。おそらく徹夜になると思うんだよな」
「なるほど……。分かりました。それでは一人当たりの日当を5万円と言う事でどうでしょうか?」
「よし! それなら、すぐに人数は集まる! あとは、林業を生業としている渡辺にも資材の搬入を頼むから少し待っていろ」
すぐに村で唯一、林業を営んでいる渡辺林業株式会社に電話をかける踝健さん。
「おう! 踝だが社長はいるか! 昼寝中? すぐに出せ! 大口の仕事だって言え! 数日ぶりだな! じつは月山雑貨店主導で、今度開催予定の猟友会のイベントが大幅に変更になったんだが――、そうそう! ――で! かなりの材木が必要になったから持ってきてくれ! 量はそうだな……」
俺が見ている前で電話を続ける踝健さん。
しばらく見ていると話しが一段落ついたのか俺を見てくる。
「五郎、木材だが杉で大丈夫か?」
「一番安いのでお願いします」
こちらも、そこまで懐が温かい訳ではない。
それでなくとも辺境伯達の日本滞在費用と、踝建設とリフォーム踝に払うお金と、今回の工事の人件費だけでも、かなりのお金が飛ぶのだ。
安く済むなら、それに越した事はない。
「なら杉だな。すぐに搬入できる量は限られるらしいんだが……」
そう言いつつも踝健さんが、親指と人差し指を繋いで円――、つまりお金の形を見せてくる。
つまりお金次第なら何とかなるということだろう。
背に腹は代えられない。
「分かりました。言い値とは言いませんが、それなりの金額でなら――」
「そうこなくちゃな! おい! 渡辺! 杉の木をありったけ持ってこい! もちろん従業員も全員連れてこいよ! とにかく時間がないからな!」
踝健さんが電話を切ったあと「ふう……」と、溜息をつくと――。
「五郎、資材の方は何とかなりそうだ」
「それは良かったです。それで、概算でいいので幾らくらい掛かりそうですか?」
「それは俺の知り合いの工務店に応援を要請してからだな」
「そうですか……」
踝健さんが意気揚々とあっちこっちの工務店に電話をしているのを見ると、嫌な予感しかしない……。
しばらくすると踝建設と書かれた大型のトラックが大型ローラーを積んで現れる。
大型ローラーは、以前に休眠中であった元・家庭菜園の畑を整地した時の再現のように放置されたままの畑を整地していく。
1時間ほど経過したところで、踝健さんが応援を頼んだ隣村の工務店の人たちが続々と到着。
さらには林業に携わっている会社の人までもが、加工済みの木材を山のように持ちこみ大がかりな作業が開始される。
「ずいぶんと人が集まりましたね……」
「まぁ、近隣はどこもかしこも過疎化で仕事がないからな。それに官公庁からの仕事もコンクリートから人への政策で殆ど仕事が無い状態だし、実入りも悪い。今回の作業は、徹夜作業になってもうまいからな」
「そりゃ一人、2日の作業で10万円ですからね……」
俺は戦々恐々しながら、応援で集まった工務店の作業員の人数を数えていく。
その数は林業を営んでいる渡辺さんの所から派遣されてきた人数と合わせて49人。
そこに踝建設の人数も会わせると63人。
日当を合わせると人件費だけで630万円。
しかも――。
「木材って、それなりに高いんですね……」
「よく見てみろ! あの車に積んである直径30センチ、長さ4メートルの丸太が一本4000円だぞ? 今回は、市場に流す分もこっちに融通を付けて貰う事になったから、いまは半額で買い叩かれているのを正規の8000円で購入した!」
「なるほど……」
それにしても請求支払額が200万円って……。
「まぁ、支払いは村長なんだから何とかなるだろ! 駄目なら、新車を売れば何とかなるだろ!」
あっけらかんと言う踝健さんに俺は内心溜息しかでない。
まぁ、間に合わないよりはいいが……。
今回の支払いで、異世界との塩取引で得て換金したお金は全部吹き飛ぶことになる。
これは早急に、赤字を垂れ流して営業をしている月山雑貨店の運転資金を手に入れる必要があるな。
あとで目黒さんの元へ行くとしよう。
預けていた金の装飾品の換金が済んでいればいいんだけどな。
とりあえず……。
「ちょっと用事が……」
「――ん? まぁ、大体の打ち合わせが終わったからいいが……、何かあったら相談しろよ!」
「そ、そうですね」
とりあえず、俺は母屋に戻る。
「五郎さん、どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです」
とりあえず、お金の事に関して雪音さんに相談する訳にもいかず、まずは支払いに関するお金が足りるかどうかを確認する。
「若干足りない……」
箪笥貯金を確認するが100万円ほど足りない。
これは色々を切り詰める必要が出てくるかも……。
「そういえば貯金通帳があったな」
つい最近まで工場で派遣作業員として働いていた。
その間に稼いだお金が口座には多少残っていたはず。
「3817円……」
思わず頭を抱える。
そういえば、色々と物入りでお金を使ったことをすっかり忘れていた……。
「このままではマズイ……」
「おじちゃん!」
居間の箪笥を開けながら、どうしたものかと考えていると……。
「――ん? どうかしたのか?」
振り返ると桜が! そして頭の上にはフーちゃんが!
「見てほしいの!」
「――ん? 何がだ?」
「こっちきてほしいの!」
俺の手を小さな両手で掴んで引っ張ってくる姪っ子。
元々は妹が使っていた部屋に到着。
部屋には、モニターとテレビゲームがあり、そのモニターにはゲーム画面が表示されていた。
「それゆけ! コンビニをしているのか?」
「うん! これ見て!」
「どれどれ」
お金に関しては重要なこと。
だが、それよりもまずは桜とスキンシップを取ることの方が大事だろう。
それに子供というのは得てして自分が頑張った成果というのを大人や保護者に自慢してかまってもらいたいとか褒めてもらいたいという気持ちがあるものだ。
「えーっと……、資本金が2200億で……、売上が17兆6000億円で店舗数が1万2千店舗で全世界展開していると……」
「桜、がんばったの!」
「……そうか、えらいぞ!」
とりあえず桜の頭を撫でる。
このシミュレーションゲームは、1店舗増やすだけでゲーム内時間では1年以上は掛かるという本格的な物だ。
そして、俺は5店舗まで増やす前にコンビニ本店が倒産して債務整理になってしまった。
つまり大人でも難しいゲーム。
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