第131話 負動産

「何故だ?」

「月山様は、向こうの異世界では貴族と誤認されていますので」

「なるほど……、つまり月山家の領地の戦力と言うことで説明をすると言う事かの?」

「そうなります」

「ふむ」

「それと――、そのためには、猟友会の方々の連携が必要になりますが、日頃から修練を積んでいる軍ではありませんので連携は捨てることにします」

「ほう」

「田口村長は、鉄砲三弾撃ちというのはご存知でしょうか?」

「日本人なら誰もが知っておるの」


 ……いや、俺は知らないんだがと、突っ込みを入れそうになったが口を噤む。


「これは月山様の提案された話ですが――」

「本当か?」


 田口村長の視線――、疑いの目が俺に向けられてくる。


「もちろんです! 長篠の戦を知らない日本人は居ないと思いますので! そうですよね? 月山様!」

「は、はい……」


 まるで知らないことが駄目な感じであったので知ったかぶりをする事にする。

 あとで調べておこう。


「それでは本題に入りたいと思います。向こうの――、異世界の騎士や兵士の鎧を大量に仕入れた上で、それを一列に並べた上でライフル銃と散弾銃で破壊する事を考えています。それも三段構えを行い次々と隙間なく撃ちこむことを考えています」

「なるほど……、それは猟友会の連中も日頃と違うイベントだから協力してくれるかもしれないのう」

「それでは、鎧などを手に入れることが出来ない場合に限っては木の的を用意するという事で手筈を整えたいと思います」

「それでは、儂は猟友会に話をつけるとしておこうかの。五郎は、踝兄弟に連絡をとって念のために的の用意をしておくように伝えてくれるかの?」

「分かりました」




 ――翌日。


 早速、リフォーム会社――、リフォーム踝の社長である踝(くるぶし) 健(けん)さんに電話を掛けて打ち合わせを行う事になった。


「まったく――、村長からも連絡を貰ったけどさ……、もう少し計画的に作業を頼んでくれよな……」

「すいません。何分、急に決まったことなので……」

「まぁ、いいけどさ。盆も終わったことだし、今は手が空いているからな。これが盆休み中だったら、さすがに難しかったぞ?」


 腰に手を当てながら、愚痴を漏らす踝さん。


「あっ、それとこれは前金になりますので」


 俺は、50万円ほど入った封筒を踝さんの前に差し出す。

 2日という短期間での作業で無理をさせてしまう手前、心づけというのは必要。


「すまないな」


 ニヤリと笑う踝さん。

 どうやら、気にいってくれたようだ。


「――ところで弟さんの方は……」

「ああ、五郎から電話をもらった後、すぐに連絡をしたからな……そろそろ来るんじゃないのか? お! 来たみたいだぞ」


 結城村は基本的に盆地にあるので、勾配が少ない。

 とりあわけ月山雑貨店の周辺は遠くまで道が続いている事もあり、向かってくる車が良く見える。


「たしかに白のワゴンですね」

「そうだな。まぁ、こんな田舎道を走る車で白のワゴンなんて俺の弟くらいしか考えられないだろ」

「それも、そうですね?」


 同意しつつ何となく突っ込んだらアレかと思い疑問で返しておく。

 俺と踝健が話している間に白色のワゴンは、月山雑貨店の駐車場に停まる。


「どうも、お待たせしました」


 白のワゴンから降りてきたのは以前に、元々畑だった場所の整地を頼んだ踝(くるぶし) 誠(まこと)さん。

 彼は、車から降りてくると頭を低姿勢で頭を下げてくる。


「いえいえ、気にしないでください。それより無理を言ってしまってすいません」

「こちらこそ、仕事を回してくれるだけで大助かりです」

「そうなんですか?」

「はい。兄のところはリフォームや配管工事などを受け持っていますが、うちは違いますので――、主に官公庁からの仕事がメインなのですが、最近は税金で公共事業は悪だ! という風潮が強くて仕事が激減しているんです。ですので、すごく助かります」

「そうだ。五郎」

「はい?」


 踝健が俺に話しかけてくる。


「中村さんだが、あとで来るらしいぞ」

「今日?」

「もう時間がないだろ。一緒に、工事作業をしたらどうか? と、聞いたら二つ返事をしてくれたぞ。まぁ、中村さんの所も過疎化で仕事が激減しているからな。炊き出しで使うボンベの設置でもいいお金になるから、それは見逃さないだろ」

「なるほど。あ、踝さん」

「はい、何でしょうか?」


 俺は、50万円が入った封筒を手付金代わりと言う事で、踝誠にも渡すことにする。

 今回の作業は二人がどれだけ頑張ってくれるかで決まってくるからだ。


「いいんですか?」

「はい。手付金です。それより、まずは作業依頼に関してお話をしたいと思うのですがいいですか?」


 実際の仕事依頼に関しての話題になった所で二人の表情が引き締まる。

 さすがは仕事人と言ったところか。


「今回、結城村で行われる猟友会に参加する人数は3000人と推測されるそうです。詳細人数については、まだ完全には把握しきれていませんが見学者と関係者を含めた場合には相当数の人数が来ると予測されます」

「なるほど……」


 踝健が頷いたあと、軽トラックの中から丸められた紙を取り出す。


「五郎、誠、こっちに来てくれ」


 踝健さんが軽トラの側あおりを倒すと、丸められた紙を広げる。

 そこには、大手地図会社が作った結城村の詳細地図が描かれている。

 もちろん、今回の地図は月山雑貨店と、その周辺で――。


「何時の間に、こんな地図を……」

「結城村の地図なら全部持っている。一応、測量士の資格も持っているからな。時々、測量を頼まれることもあるんだ。――で、今回は大規模な工事をすると言う事は、今まで使っていた廃屋後の空き地などは利用しないという事だろう?」

「そうなります。月山雑貨店近辺で開催する予定となっています」

「なるほど……」


 踝健さんが、地図を広げたまま頷く。


「そうなると……、3000人以上が一度に動ける場所となると……、このへんか?」

「それしかないですね……」


 踝健さんの指差した所を見て頷く弟の誠さん。

 兄である健さんが指差したのは、月山雑貨店とは隣接した広大な空き地。

 そこは元々、畑として利用されていたが現在は後継者不足と言う事で、俺の父親である月山隆二が貰い受けた畑になる。

 現在は放置中で、雑草などが生い茂っている。

 もちろん一般農地としての課税なので、とても安い。

 ただ、とにかく広い。

 その為、300坪1000円程度であっても年間の課税が10万円を超えることになってしまっている。

 ただ、こんな過疎地の土地など売れないので完全に負の遺産――、負動産となってしまっている。

 それが活用されるとは何の因果なのだろうか? と、突っ込まずにはいられない。


「それでは、その土地を何とかできますか?」

「そうだな。まずは、誠の建設機でローラして地盤を固めてからの作業になるな」

「ローラーでですか……。一応、一般農地と言う事で登録をかけているんですが……」

「建物を建てる訳じゃないから問題ないだろ。使ったあとに、あとで根室さんに耕運機を借りて耕しておけば大丈夫だ」

「なるほど……」


 踝健さんと話している間にも、踝誠さんは自分の会社に電話を掛けて指示を出している。

 

「とりあえず、弟に整地の事は任せるとして……だ。猟銃などの的に関してだが――、よく神事などで弓矢を射る事があるよな?」

「ありますね」

「その際に使う的を用意するのが一番手っ取り早いと考えているんがどうだ?」

「それって、弓道で使う的のような?」

「そうなる」

「なるほど……、それなら数を揃えられそうですね」

「おいおい。3000人が三段撃ちするんだから少なくとも3000は用意する必要があるんだぞ? それに、的を張り付ける柱も必要だ。その数も相当数必要になる」

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