第127話 祭りの後

 そう呟いたのは田口村長。


「3000人規模の集まりと言う事でしたが、話に聞いた限りではお祭りとは趣が異なるという話でしたのでビッグサイトなどで行われるイベントで消費される飲食品などを参考にし――規模を縮小した物を作りました」

「なるほど……」


 村長が頷くと、俺の方を見てくる。

 

「カップ麺関係が多いのは、五郎の発案か?」

「そうなります」

「そうなると……、外で炊き出しをするかのような工事をしているのはプロパンガスボンベを利用する為か? カップラーメンで多くの湯を使うと想定した上でか……」

「はい」

「ふむ……。だが夏場だぞ?」

「それは……」


 たしかに暑い時期にカップラーメンというのは忌避されるかも知れないが、それ以外に何か良い案があるのか? と言われれば答えに窮してしまう。


「田口村長、カップラーメンは長期保存に向いていますので非常食にも利用できます。その点を考慮に入れれば決して悪い事では無いと思います。それに夏場という事ですが、31ページを見て頂くと分かる通り――、一度お湯で麺を戻したあと湯切りを行い水で絞めて食する冷風たぬきうどんや蕎麦などもありますので」

「ふむ……」

「それに、今回の場合は毎年のデータが蓄積されていませんのでクールデリカ関係の食材を大量に仕入れるというのも腐らせてしまうリスクがありますので……」

「それもそうだな……。食あたりなどしたら目も当てられないからな」


 藤和さんの説明に田口村長が頷く。

 まぁ、結局のところは食材が破棄になった場合や、在庫が出来たら全て俺の持ち出しになり赤字を被るのは俺なので田口村長には恩はあるが、全てをホイホイ聞いてはいられない。


 田口村長が帰ったあとは、藤和さんに麦茶を出しながら話を詰めていく。


「それにしても、カップラーメンだけでもかなりの量になりそうですね」

「はい。あとは多種多様な商品を納品するとしましても猟友会に所属している人口比率を考えますと、サッパリとした食感のある物が望ましいでしょうね」

「そうなると、うどんや蕎麦系のカップ麺がメインになりますか」

「はい。あとはチルド製品に関してですが、お弁当のような体を持つオカズとご飯が一緒になった製品もありますので、そう言う物も幾つか用意しておいた方がいいかも知れません」

「なるほど……」


 藤和さんの説明を聞きながらカタログを確認するが、そこには今まで見た事がない珍しいお弁当型の冷凍食品なども存在している。

 

「それでは、幾つか用意して貰えますか? 時間としてはギリギリですが……」

「大丈夫です。月山様はお得意様ですから」


 藤和さんは力強く頷きながら答えてくる。


「それではよろしくお願いします」

「そういえば月山様」

「はい?」


 資料をカバンに入れながら藤和さんが何気ない様子で「ノーマン辺境伯様からは、何か連絡とかはありましたか?」と、聞いてくる。


「え? あ……」


 そういえば、藤和さんには言ってなかったな。

 俺が異世界に行かないと向こうからはコンタクトの取りようが無いという事を。


「そういえば行っていないので、向こうがどういう判断を取っているのか分からないですね」

「行ってないから?」


 藤和さんが、怪訝な表情を一瞬見せる。

 そこで、やはり俺は話して居ないという事に至り……。


「じつは異世界と此方の世界を行き来するには、俺と一緒に行かないと世界を渡る事が出来ないんです」

「え!? そ、そうなんですか?」

「はい。ですので、異世界には誰でも気軽に行けるとかそういう事は出来ないんです。あとは向こうからも、こちらの世界には俺が一緒に同行しても良いと思える人しか来れません」


 俺の説明に固まる藤和さん。

 やっぱり最初に説明しておくべきだったかもしれない。


「あの、やっぱり何か不味かったですか?」

「そ、それは……おほん。えっと、それでは……月山様と同行しないと異世界には行けないという事ですか?」

「そうですよ?」


 どうして、何度も聞き返してくるのか。

 俺の説明が駄目だったか?


「そ、そうですか……」

「何か困ったことでも? もしかして辺境伯との商談は自由に行き来することが前提でしたか?」

「いえいえ、お気になさらず。それでは今日は、私はこれで――」

「あ、待ってください。これを」

「これは?」

「藤和さんが立て替えてくれた辺境伯達を歓待する為に使った費用になります。今回は、かなりご迷惑を掛けてしまったので少し色をつけさせていただきました」

「…………」


 ジッと俺は差し出した茶封筒を見ている藤和さん。

 そんな彼は、顔を上げて俺を見てくる。


「月山様は、最初から全て分かっていたという事ですか?」


 ――ん? 何の話だ?

 何で最初から分かっていたと聞いてくるのか……。

 ただ、ここで何を? と、聞くと駄目な人間に思われそうだ。

 よく考えろ。

 藤和さんは、最初から全て分かっていたのか? と、聞いてきた。

 それはつまり、話の流れからして猟友会のお祭りに関して全て知っていたのか? と聞いてきているとみていい。

 つまり!


「最初から知っていました」

「――ッ!? こ、これからも末永くお付き合いの程をよろしくお願いします」

「はい」


 何を言っているのだろうか?

 最初から、そして――、これからも藤和さんとは取引相手として付き合って行くつもりなのに、もしかしたら別の問屋も仕入れ業者として使うかも知れないと思われているのかも知れないのか?


 いやいや、さすがソレは面倒だから無いから。


「今回のことも含めて藤和さんとは良いお付き合いをしていきたいと思いますので、あまり気にしないでください」

「わ、分かりました――」


 返答したあと、藤和さんが玄関から出る時に、今日は暑くなりそうだと思い彼の身を案じて声をかける事にする。


「あ、あと! 藤和さん、お体には気を付けてください。ご家族もいるのですから」


 藤和さんの目が見開かれる。

 そして……、彼は頭を一度下げて足早に去っていく。

 後ろ姿を見送っていると、


「おじちゃん! とーわさん帰ったの?」


 ――と桜が話しかけてくる。

 桜の頭の上にはフーちゃんがぐたーっと乗っていて「はぁはぁ」と舌を出しながら息をしていて。


「何だか忙しかったみたいだ。いきなり予定を入れてもらったからな」

「そうなの?」


 言葉を返しながら俺は玄関の戸を閉めた。


「さて、そろそろお昼だし――」

「わん!」

「今日の、フーちゃんのご飯は俺が用意するな」


 俺の言葉にフーちゃんがシュンと立てていた耳を伏せてしまう。


「ふっ、フーちゃん。今日のご飯は大盛だぞ?」


 俺も何時もの轍を踏むような馬鹿な事はしない。

 日々成長しているのだ。

 俺の言葉にフーちゃんも反応したのか伏せていた耳をピン! と元気よく立てると尻尾を振る。


「ドッグフード大盛だ!」

「がるるるっるる!」

「仕方ないだろ。ドッグフード余っているんだから」


 まったく我儘な犬だな。

 

「それにドッグフードは完全バランス食なんだぞ? 痛っ! おい! 噛むな!」


 フーちゃんが、桜の頭から降りると俺の足を甘噛みしてくる。

 そっちがその気なら俺にも考えがある。


「ほら、靴下!」


 俺は履いていた靴下をフーちゃんの鼻先に持っていく。

 すると、フーちゃんがパタリと横になって倒れた。


「おじちゃん、フーちゃんが倒れたの!」

「いや、俺の靴下の匂いで倒れるとか……、結構ショックなんだが……」


 まぁ犬は人間よりも嗅覚に優れているらしいから、今度から気を付けるとしよう。

 それから数分後にフーちゃんは復活したが、ますます俺は嫌われてしまったようだ。


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