第126話 祭りの前の準備
つまり餌付けされた可能性が非常に高いということだ。
――まったく、結局は犬ということか。
「焼けましたよー」
恵美さんの昼食の用意が出来たという声が聞こえてくる。
「桜、和美ちゃん、フーちゃん、ご飯だぞ」
「わかったの!」
「はーい」
「わん!」
「お前のご飯はコレな」
俺はドックフードをプラスチックの容器に入れて出す。
「ガルルルルル」
「五郎さん、食べられる物を見繕いますから」
「いえ! 甘やかしたら犬として生きていけなくなると思うんですよね。それにドックフードもあと8キロくらいあって駄目になったら困りますし」
「それなら――」
雪音さんがタッパーから自家製ローストビーフを取り出すと、ドックフードの上にのせていく。
「これで、どう?」
「わんわん!」
雪音さんに尻尾を振るフーちゃん。
「まったく仕方ないな……」
俺はフーちゃんに、
「お手!」
「がう!」
「痛っ!」
手を甘噛みされた……。
まったく、本当に俺の言う事だけは聞かないよな……。
桜と雪音さんの言う事は聞くのに。
フーちゃんが、ローストビーフから食べるのを見ていると、
「五郎」
「村長、どうかしましたか?」
「ちょっと良いかの?」
「は、はぁ……」
村長に促されるように、参加者から離れていく。
「最近、雪音とはどうかの?」
「特に問題ありませんが……」
「そ、そうか……、何も無いのか……」
「はい。何も問題はないですね。話はそれだけですか?」
「う、うむ……。それより例の猟友会の話だが、バス会社が定期バスを出してくれることになった。今年は、かなり人数が減ることになった。人数は、関係者を含めて3000人ほどになるからの」
「分かりました。それで出店の用意をする感じですか?」
「いや、普通に店を使わせてくれるだけでいい。あとは、お湯を多めに用意しておいてくれないかの?」
「分かりました」
カップ麺が多く出ると言う事だろう。
そうなると、電子レンジで調理できる食料の用意も多めにしておいた方がいいかも知れないな。
規則正しい音――、俎板と包丁が奏でる音が聞こえてくる。
毎朝、雪音さんが日本風の朝食を作ってくれているからだ。
俺は、そんな音を聞きながら欠伸をしつつ目を覚ます。
布団の中には、桜が居て――、その横にはフーちゃんが寝ている。
「――さて……」
「五郎さん、おはようございます」
「おはようございます。雪音さん、いつも朝ご飯を作ってもらってすいません」
「気にしないでください。家事をするのは好きですから」
「そ、そうですか……。よかったら朝食を作る手伝いでもしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。それに台所は女の城ですから」
「――な、なるほど……。そ、それでは自分は仕事のメールでも確認しておきます」
「はい」
どうも雪音さんは古風な部分があるというか、男を台所に立たせるのは好きではないようで――、以前は料理を教えてくれると言っていたが、半ば同棲中の現在では料理どころか家事は全て雪音さんが取り仕切るようになってしまっている。
ちなみに桜に至っては、怪我をしたら大変だという理由で、少し大きくなったら料理を教えるとか言っていた。
俺はノートパソコンを起動しつつ、今後の予定を考える。
先日、村長から猟友会の集まりについて言われたが3000人がうちの雑貨店を利用するとしたら色々と用意する物がある。
仮設トイレなどは、完全自立型トイレの周辺に設置する事になり、場所はあるから問題はない。
ただ、お湯などを提供するとなると、それなりの電気ポットが必要になる。
「うーむ……電気ポットを幾つか購入するとしてもな……」
コンスタントに使う訳ではない以上、無駄な出費になってしまう。
それは、あまり好ましくはない。
「大きな鍋でも購入するか……」
インターネットで、寸胴鍋の検索をかけていく。
「寸胴鍋100リットルで7000円か……。炊き出し用だけど、これなら丁度いいかも知れないな。あとは、寸胴鍋を熱する為の土台作りはホームセンターで煉瓦を購入する方向で――、それとアウトドア用の石炭があれば十分だな」
そこまで考えたところで、ふと思いつく。
すぐに携帯電話で電話。
「はい、リフォーム踝です」
まだ朝7時。
眠そうな声が聞こえてくると思っていたが歳を経ると朝早く起きるようになることもあり、普通に電話に出た踝さん。
「月山です」
「おお、五郎か! どうした? こんな朝早くから」
「じつは、猟友会の件で話したい事がありまして」
「俺の所にもテントの設営を手伝えって村長から連絡がきたぞ」
「有料で?」
「いつもは有料なんだが、今年は色々とお前の店の開店でお金を貰ったから無料だな」
「そうですか」
「それで、何かあったのか?」
「じつは猟友会の人たちが店を使う可能性があって、カップ麺などのお湯確保の為に寸胴鍋を使おうと思っているんですが……」
「なるほど、それでガス配管の設置をお願いしたいと言う事か」
「いえ、寸胴鍋を温めるのは石炭で行こうと思っているんですが……」
「鍋の材質は何でいくんだ?」
「材質ですか?」
購入しようと思っていたステンレスの寸胴鍋をチェックしていく。
「えっと……材質はステンレスですね」
「それだと、石炭は止めた方がいいぞ。耐熱温度の問題もあるからな。普通にガス配管をした方がいいぞ」
「ちなみに値段は如何ほどに?」
あまり高いと俺の方としても困る。
「五郎の所はプロパンガスだろう?」
「そうですけど……」
「それならプロパンガスボンベを扱っている中村石油店に頼めばいいな」
――中村石油店。
結城村では唯一のガソリンなどを販売している小さなガソリンスタンドで、灯油の宅配から結城村内の家庭全てのプロパンガスの交換などを全て一手に引き受けている。
「――でも、工事は結構大変じゃないですか?」
「そうだな。匠さんも、そろそろ歳だからな……」
「もう年ってレベルじゃないですよね? 70歳超えていますよね?」
「まぁ、俺も手伝うから問題ないだろ」
「ですか……。それより、アイツは……」
「陸翔のことか?」
「…………」
「お前が、気にすることじゃないだろ」
「それは、そうですね」
――陸翔(りくと)。
中村(なかむら)匠(たくみ)さんの一人息子であり、俺とは同級生。
知り合いで友人だった男。
いまでは袂を分かっていて、その理由を踝さんも知っているので余計な詮索などはしない。
「とにかくだ。配管工事については俺から中村さんの所に電話しておくから」
「分かりました。あと1週間後に猟友会の集まりがあるので」
「今日中には連絡がいくと思うぞ」
「よろしくお願いします」
電話を切る。
「おじちゃん……」
気が付けば桜は起きていたのか、布団の上で横になりながら俺を見てきている。
「どうかしたのか?」
「ううん。なんかね――、おじちゃん、すごく怖い顔してたの……」
「そんな事ないぞ」
俺は桜の頭を撫でる。
辺境伯達が領地に帰還を済ませてから3週間が経過し――、土日の休みを過ぎた月曜日。
場所は、月山家の客間。
室内に居るのは、俺と藤和さんと田口村長。
少し緊張感の漂う室内の空気の中――、
「それでは――、先日ご連絡頂きました猟友会の集まりで消費されるかも知れないという納品につきましてですが……」
そう口火を切ったのは藤和さん。
先日に連絡を入れて詳細を説明した所、すぐに3000人が消費すると思われる予測を立てると言う事で一日間を置くことになり――。
本日、話し合いの場を持つこととなった。
「こちらが資料になります」
「これは、何を参考に作った資料になるのか?」
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