第125話 遊園地
――ノーマン辺境伯達が異世界へ帰ってから数日が経過。
「おじちゃん! ここが遊園地なの?」
「そうだよ」
「お城が無いの!」
桜が、千葉にあるのに東京の名前が冠されているテーマパークの事を言って突っ込みを入れてくるが、俺は気にしない事にする。
車を駐車場に停めたところで、桜が物珍しそうに観覧車などを見上げてくる。
「五郎さん、本当に私まで来てしまって良かったんでしょうか……」
「今日は定休日ですから」
本当は年中無休の朝9時から午後9時までの営業を考えて店舗の経営を開始したが、本当に! 買い物客が来ない事もあり、土日祝日は定休日にする事にしたのだ。
何時も仕事ばかりだと桜が寂しがるかも知れないし、俺だって勉強する事が山のようにあるからだが……。
ちなみに神保町で購入してきた本や雑誌などは、辺境伯達が異世界に戻った翌日に届いた。
日本の物流は本当にすごいものだ。
俺は、遠慮がちに聞いてくる雪音さんに答えながら、大人の入場券2枚を購入。
高校生以下の子供は無料であった。
ちなみにフーちゃんは、犬なので遊園地の中には連れては入れないので根室さんに預けてある。
「よし! 今日は遊ぶぞ!」
「遊ぶの!」
まずは軽くジェットコースターから乗る。
「速いの!」
黄色い楽しそうな表情で満面の笑みを浮かべながら俺の横に座る桜。
「桜、ジェットコースターに乗るときには両手を上げると楽しいことになるんだぞ?」
「そうなの?」
ジェットコースターに乗っている間――、走行中に桜と話をしていると「はわわわわっ」と、後ろから雪音さんの声が聞こえてきた。
ジェットコースターに乗る時に、平気な顔をしていたから問題ないと思うが降りたら声をかけるとしようか。
「「キャアアアア」」
桜と雪音さんの声が重なる。
ちなみに桜は両手を頭の上に上げて、はしゃぎながら叫んでいる。
もしかしたら雪音さんも同じかも知れないな。
彼女は、後ろに座っているから分からないが――。
ジェットコースターが一周したあと。
俺達は乗り物から降りる。
「……すこ……し……き、休憩を……」
ふらふらした足取りで長椅子に座る雪音さん。
顔色が悪いことから乗り物系アトラクションは苦手なようだ。
「大丈夫ですか? 無理をしないで休んでいてください」
「すいません。それより、桜ちゃんは何ともないの? 大丈夫?」
「大丈夫なの! もっと速くていいの! おじちゃんの車の方がスリルがあったの! 車がね! 横に滑ってカーブを曲がっていくの! すごいの!」
「五郎さん」
ジロッと俺を見てくる雪音さん。
「以後気を付けます」
「本当に気を付けてくださいね」
「はい」
ぐうの音も出ない。
とりあえず謝罪する。
「おじちゃん! もう一回! もう一回! わんもあーなの!」
どこでワンモアなどと言う言葉を覚えてくるのか……。
それより、どうやら桜は、ジェットコースターがお気に入りになってしまったようで――、
「私は、ここに居ますからお二人で乗ってきてください」
雪音さんの言葉に後押しされた俺と桜はジェットコースターに乗る。
何回も――、
回数としては5回ほど乗ったところで、お昼時間に差し掛かる。
「すいません、お待たせしました。体調は、どうですか?」
「もう大丈夫です。桜ちゃんは、満足した?」
「もっと乗りたいの!」
どうやらジェットコースターに桜は魅了されてしまったようだ。
昼食は、空冷ボックスの中に入れて冷蔵していた雪音さんが作ったサンドイッチや、お茶にオレンジジュースと言った飲み物。
おかずは、たこさんウィンナーや、出汁巻き卵にから揚げに鶉(うずら)の卵にチキンナゲットと多種多様。
「「「頂きます」」」
3人で食事をしたあとは、遊園地の中のアトラクションを制覇した所で、時刻は夕方を過ぎていた。
ゆっくりと太陽は沈み――、夜の帳が落ちてきた所で最後の〆ともなる観覧車に乗る。
観覧車は静かに上昇していき――、天辺まで上がっていく。
そして一番高い部分に差し掛かったところで――、
「おじちゃん! おじちゃん! すごーい綺麗なの! いっぱいキラキラ光っているの!」
桜が指差した方向――、見ている場所は羽越本線の新屋駅周辺の市街地。
光っているのは、電気の明り。
「すごいわね。綺麗ね」
「うん! すごいの!」
どうやら桜だけではなく雪音さんも満足頂ける景色だったようだ。
たまには、遊園地に遊びにくるのもいいかも知れないな。
夕飯は予約していたレストランで食事をしたあと根室さんの家にフーちゃんを迎えに行ったあと帰宅した。
遊園地に行ってから一週間弱が経過し――、
「冷たいの!」
現在、俺達は自分達が住んでいる母屋の裏手に流れる川に涼みにきていた。
参加者は、俺と雪音さんと根室さん一家。
「桜ちゃん! フーちゃんって川で泳げるの!?」
「川の上も走れるの!」
桜と和美ちゃんが、浅い川の部分でビーチボールをパスしないながら遊びつつ、フーちゃんは川の中をバシャバシャと泳いでいる。
そして、そんな二人と一匹を見ている俺。
何かあった時に助けに行けるように海パンを履いている。
横目でチラリと、雪音さん達の方を見ると、
「河原でバーベキューって大学生以来かも知れませんね」
「分かります、分かります。こういうのっていいですよね」
「二人とも手を動かしなさい。ほら、そういう包丁の持ち方は危ないからね!」
恵美さんと雪音さんと、村長の妻である妙子さんが昼食で焼いて食べる為の食材を切り分けていて――、田口村長が食材を串に刺している。
「おじちゃん!」
「どうかしたのか?」
「見て見て!」
桜が、手にしているビーチボールを投げる。
「フーちゃん! GO!」
「わん!」
フーちゃんが河原を走ってビーチボールを追いかけていく。
「フーちゃん! ジャンプなの!」
「わん!」
河原から、川の方へ向かってジャンプをするフーちゃん。
そして――、桜が投げたビーチボールを小さな右前足で桜の方に弾くと同時に空中で回転しながら川の中へと落ちる。
フーちゃんは川の流れに逆らって泳いでくると、湖面を蹴るようにして跳躍すると桜の頭の上にポフッと乗った。
「すごいですね……いまの……。一瞬、水の上に立っていませんでした?」
何時の間にか調理の作業が一段落ついたのか隣に立っていた雪音さんが話しかけてくる。
その信じられない物を見たというばかりの表情をしている。
「気のせいです」
「え? そうですか?」
「はい。気のせいです。きっと水位が低かっただけです」
「――で、でも……、桜ちゃんの身長までジャンプする仔犬って……」
「まぁ、フーちゃんは元々は捨て犬だったので……、色々とあるんですよ」
「そ、そうなんでしょうか」
「はい。そうなんです」
さすがに異世界から連れてきて村長に言ってないのがバレると色々と言われそうだからな。
それに犬くらい大した問題でもないだろう。
あと最近では、俺もフーちゃんの事に関して、少しだけ身体能力が高い仔犬という認識をしている。
まぁ、そもそもフーちゃんは地球の犬じゃないし……。
異世界の犬なのだから、身体能力が少し高いとかそういうのがありそうだからな。
「でも、フーちゃんは桜ちゃんの言葉を理解しているような……」
「そうですか? 普通にお手! とか言えばしますよね」
「そうですね……。でも、五郎さんがお手! ってすると噛まれますよね」
「……」
ソレに関しては、一つ心当たりがあった。
雪音さんが来る前のフーちゃんのご飯は毎日、ドックフードであった。
だが、雪音さんが来てからと言うもの、雪音さんはフーちゃんに手作りのローストビーフを毎日上げていた。
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