第56話 店内改装(2)
「――ん? 踝さん。それは一体どういう?」
「五郎、よく考えてみろ。いくら行政と繋がりのある工事業者だと言っても廊下の張替えだけで数百万円は高すぎる。つまり、何か余計な事にお金を使ったと考えるのが妥当だろう」
「なるほど……」
俺と、踝さんは疑いの目を村長へと向ける。
「いや――、その――」
「「田口村長」」
「分かった! じつはのう、学校の教室にエアコンをつけることにしたのだ。夏場や冬場の勉強は大変だと思っての……」
「なるほど……。ダクト配管込みのエアコン設置ですと、かなりの額が掛かりますからね」
「うむ……」
「そんな理由があるのなら言ってくれれば……」
「そうか、理解してくれるなら助かった」
「理解はしましたが納得はしていませんけどね。空調工事に関しては建物とは異なるので特定の業者は決まっていないですよね?」
「――うっ!」
「踝さん、そのへんで――」
「わかっているよ。どちらにせよ、俺の会社の規模じゃ五郎の店のリフォームと分校のリフォームは同時には無理だったからな。そうなると本題のトイレだが――、配管が出来る予算が無いとなると完全独立型のトイレを店の前に設置するのがいいかもな」
「そうですね」
踝さんの言葉に俺は頷く。
完全独立型トイレも手入れは殆ど必要ないとパンフレットには書いてあったし悪くはないだろう。
ただ、人口が増えてきた場合は外置きのトイレは悪戯される可能性があると言うことくらいか。
今すぐに問題が表面化する事はない。
村長の案を受け入れるのが現実的選択肢と言ったところか。
「それじゃあパンフレットを見せてもらえるか?」
「これですか」
村長から渡されたパンフレットを引き出しから取り出し渡すと踝さんが目を通していく。
「コイツはすごいな。太陽光を利用した独立電源システムを採用していて微生物を利用しているから汲み取り作業も不要だぞ。値段はいくらなんだ? 最低800万円!? こんな物を寄り合い所に置こうと!?」
「う、うむ……」
「あんな寄り合い所は汲み取り式で十分だ。それより、これは店に置いておくと良いと思うぞ? あとからオプションも追加できる。水を使うから配管工事が必要になるが、大して掛からない。お前はどうする?」
「貰える物ならぜひ!」
「実体験だからの!」
「分かっています。村長、それで何時まで借りられるんですか?」
「一応、無期限と考えておる」
「わかりました。踝さん、トイレの設置費用については俺の方から出すのでお願いできますか?」
「――ん? いいのか? 五郎が、それでいいなら受けるが――」
「はい。そんなに村長に迷惑は掛けられないので」
「それなら、いいんだが……。それで村長、このトイレはどこにあるんですか?」
「寄り合い所の庭のプレハブの中にあるの」
「分かりました。五郎、俺は職人を集めてトイレの設置をするが――、予算としては30万も掛からないと思うけど大丈夫か?」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあな」
話が一段落着いた所で踝さんが部屋から出ていく。
「――さて、儂もそろそろ帰るとするかのう」
俺は、座布団の上に座っていた村長の腕を掴む。
「村長、実は相談があるんですが……」
「相談?」
「はい。少し待っていて貰えますか?」
「深刻な相談か」
「かなり……」
「わかった」
快諾を受けたあと、俺は6000万円相当の金の装飾品が入った袋を部屋に持ち込む。
「実は、これなんですが……」
「こ、これは――!?」
「金です」
「見れば分かる。それよりも……、この量は……」
村長が袋の中から、ブレスレットの形に加工された金を取り出し見ていく。
「うーむ」
眉間に皺を寄せながら村長は一言「よくわからんの」と、呟いたあと俺の方を見てくる。
よく分からないなら分かる振りをしないでもらいたい。
「五郎、これが全て金ということかの?」
「はい。一応、6000万円分ほどあるかと――」
「なるほどのう。当初の目論見よりも異世界との交流で稼げていて現金化に困っているというところかの?」
「そうなります」
伊達に年は経ていない。
俺の置かれている現状は既に理解していると言ったところか。
「ふむ……。目黒には相談したのか?」
「――いえ、それは……」
「まだ、目黒とは話をしていないと言う事かの?」
「はい」
正直、目黒さんに金の話をするとマージンをかなり持っていかれる事もあり、あまり相談はしたくない。
前回の手数料も大きかったからな。
「ふむ……。だが――」
村長が袋からいくつかの金の装飾品、ネックレスや指輪を取り出す。
「儂から見ても、これらの装飾品は少しばかり形が古臭いと思うのだがの。これらを大量に質屋経由で買い取ってもらったとして同じような製品が市場に多く出回れば問題になる。そのあたりは、どのように考えておるんじゃ?」
「そのへんは一店舗あたりの持ち込み数を制限して多くの質屋や金の買い取り店を回ろうと思っています」
俺の言葉に村長は麦茶を飲みながら思案し――。
「五郎、質屋は質屋組合というのがあるのは知っておるかの?」
「質屋組合?」
「うむ。儂も目黒からサラッと聞いたんだがの。質屋と言うのは買い取りのライバル店であると同時に情報交換を密に行っているそうなのだ。いまはエンターテイメントなる物で情報交換ができるとも聞いたしの」
「エンターテイメント? それはインターネットでは?」
思わず突っ込みを入れてしまう。
「同じようなものだ」
思わず『いえ、全然違うと思いますが――』と、言う言葉は飲み込む。
余計に突っ込みを入れて藪蛇も良くないからな。
「なるほど、つまり質屋同士で横の連絡網があるから、あまりに同じ製品を売ると足が付く可能性があると言うわけですか」
「うむ。そうなるの」
それは困ったな。
金を持っていても現金に換金出来なければお金にならない。
そうすると塩などを毎月購入できないことになる。
「それにしても、まさか――、こんな事になっているとは思いもしなかったの」
「はい。自分も、まさかこんな状況になるとは……」
「それで利益は、どのくらいなのだ?」
「100円で仕入れた物が1000円で売れる感じです」
村長が口をつけていた麦茶をいきなり噴出した。
汚いな。
あとで掃除が大変だ。
「…………ちょっと待て! 100円で仕入れたものが1000円で売れ……る?」
「はい」
即答した俺に村長は呆れ顔で空になったコップに麦茶を入れつつ溜息をつく。
「五郎の向かっている異世界は、古代文明に近い技術しかない世界なのか?」
「古代文明と言うよりも内陸部にあると言った感じです」
「なるほど……」
村長が指先でテーブルを叩きながら思案したあと俺を見てくる。
「つまり戦略物資と言う形で、塩の流通が他国により規制されていて価格が吊り上げられていると言ったところかの」
「――ええ、まあ……」
さすが……、というか――。
断片的な情報しか話していないのに……。
「まるで見てきたかのように言いますね」
「当たり前じゃ。五郎は、日本史をきちんと習っておらんのか?」
「いえ、学校では習いましたが……」
ただ、日本史は年表ばかりで塩の事なんて何一つ書いてなかったぞ?
「戦国時代は、大名同士が戦争をする上で塩の確保は必須だったのだ。そして内陸部における塩の需要は進軍する際、食料を保管する為に重要でな……。それに古代文明は、塩の生成方法を確立しておらんかったでの。だから塩が大変貴重だったのだ。岩塩採掘所を中心に多くの町や都市が出来たのは習わなかったのかの?」
「そういうのは、歴史や日本史の教科書には……、基本的に年表と何が起きたかしか授業では……」
「ふむ。詰め込み教育の弊害と言ったところなのかのう」
村長が麦茶の入ったコップをテーブルの上に置く音が部屋の中に響く。
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