第27話 フォークリフト

 自宅へ戻ると、居間には桜だけでなく和美ちゃんの姿も見えない。

 玄関には二人の靴があったのだから家からは出ていないはずだが……。


 桜の部屋に行くと、二人してテレビゲームをしているのが目に入った。

 どうやら、二人してゲームを始めたようだな。

 とりあえずは一安心だ。


 居間へ戻り引き出しの中から100万円が入った封筒を一つ取り出し、1万円札30枚を抜く。

 そのあと現金70万円――、1万円札70枚を封筒に入れて月山雑貨店へと戻る。

 すると藤和一成さんも塩をトラックから降ろしている姿が目に映った。


「藤和さんも荷下ろしを手伝っているんですね」

「はい。一人だと大変ですから」

「たしかに……、ダンボール一箱で何キロあるんですか?」

「20キロ弱ですね」

「なるほど……」


 つまり一つの箱で、1キロの塩が20袋入っているということか。


「――ということは500箱あるということですか」

「ええ。まあ、そうなりますね」


 笑顔で、藤和さんは答えてくるが荷下ろしが想像以上に大変なのは見ているだけで分かる。

 台車に載せられる塩のダンボールは20箱ほど。

 つまり25往復しないといけないという事だ。


「藤和さん、確認してください」

 

 お金が入った封筒を藤和さんは頷きながら受け取ると、そのまま荷下ろしを続行する。

 どうやら、俺の前では確認はしないようだ。

 出来れば、すぐにお金の確認をしてもらった方が助かるんだけどな。


 途中から、俺も見ているだけだと落ち着かなくなり手伝うことにしたが――、量が量だけに全ての塩を店内に運び込んだ頃にはお昼を過ぎていた。


「月山様。それでは、また後日にでも伺います」

「はい。よろしくお願いします。出来れば、香辛料を早めに持ってきて頂ければ助かります」

「かしこまりました」


 最後まで、お金を入れた封筒の中身を確認せず藤和一成という人物は、トラックに乗って帰っていってしまった。

 俺のことを信頼してくれているようだが……、なるべく封筒の中身は見ておいてほしかったな。


 自宅に戻ると桜と和美ちゃんが居間――、俺の部屋に戻ってきていた。


「お腹……、すいた……」


 和美ちゃんの呟きに反応するがごとく桜のお腹も「くーっ」と、小さな音を立てた。

 そういえば、朝食はプリンしか二人は食べていなかったことを思い出す。


「少し待ってろ」


 俺はパンケーキを焼く。

 パンケーキを焼くのもかなりの腕前に達したようで焦げ目なく綺麗に焼くことが出来た。


 二人に昼食を食べさせたあと、俺は塩の荷下ろしで握力が無くなった手でフォークリフトの項目を調べていく。

 さすがに毎回10トンもの荷物の荷下ろしを手作業でするのには無理がある。


「ふむ……」


 ノートパソコンの画面に表示されたのは、中古のフォークリフト。

 価格は50万円ほど。

 燃料はバッテリー式というのが良い点だが……。

 安定して使う分には、ガソリンで動く中古フォークリフトの方がお薦めのようだ。

 

 ちなみにお値段は40万円。

 これはお買い時だろう。 

 

「ノーマン辺境伯に、塩を売却したお金でフォークリフトでも購入するとするか」


 ある程度、購入するフォークリフトの目ぼしがついたところで、昼寝をしていた桜が目を擦りながら起きて近寄ってくると、胡坐をかいていた俺の足の上にちょこんと座って背中を預けてきた。


「おじちゃん。これって何?」


 桜が、ノートパソコンの画面に表示されているフォークリフトを眠そうな目で見ながら聞いてくる。


「これは、重い荷物などを運ぶフォークリフトっていう物だな」

「そうなの? 桜も運転できるの?」

「フォークリフトを運転する場合は資格が必要なんだよ」

「しかく?」

「車を運転するときには免許が必要なんだが、それと似たようなものだな」


 桜が首をコテンと傾けながら良く分からないと言った表情をしている。


「よくわかんない」

「まぁ、桜は運転したら駄目ってことだな」


 ムッとした表情を桜は見せてくる。

 ただ、やはり眠いのだろう。

 俺の足の上に座ったまま、桜は瞳を閉じて寝息を立てて寝た。

 これでは身動きが取れない。


 まぁ、今後の事も考えてスケジュールを考えておくのもいいかもしれないな。


 ちなみに、桜が聞いてきたフォークリフトというのは正確には免許という物は存在しない。

 フォークリフト運転講習を受けて受かれば運転してもいい事になっている。

 もちろんナンバープレートがついていないと公道を走ることは出来ないし、公道を走る場合には、排気量によって必要な運転免許が変わってきたりする。

 

 ――俺の場合は、工場勤務でプラスチック製品を加工する機械を配線していたこと。

 

 そして配線をする際の土台である数トンもある鋳物を移動する事もあったので1トン以上のフォークリフトの免許を持っていたりする。


 桜を膝の上に載せたまま、今後の事を考えていく。

 まずは、今日の夜に塩を異世界へもっていくことにするとして……、そのあとは金を貴金属として貰えないかどうかの交渉。

 あとは目黒さんに定期的に仕事を振ることで、何かあった場合に無理をお願いできるようパイプを作っておくことにする。

 それと、姪っ子の桜をノーマン辺境伯に会わせるかどうかだが……。


 ――桜の心情を考えると、もう少し落ち着いてから会わせていいかどうかを判断した方がいいだろう。


 メールソフトを何気なく起動すると一通メールが届いているのが確認できる。

 どうやら、お金の方は確認出来たようで今後とも取引をよろしくお願いしますと言った内容が書かれている。

 

「胡椒などは、数日後には届くのか」


 塩以外の物資については多岐に渡るため、用意と納品に少し時間が掛かるようだ。

 まぁ、店の棚も3割程度の進捗具合なので丁度いいだろう。


 あとは……。

 冷蔵ケースと冷凍ケースの追加だよな。

 人口が少ない結城村では、精肉や鮮魚と言った日持ちしない製品は仕入れてもリスクを伴う。

 それなら冷凍食品を仕入れて販売した方がいいだろう。

 そうなると冷凍ケースの購入が最優先になる。


「どちらにしてもお金が必要だよな……」


 ノーマン辺境伯には1キロ100円と説明したが、もう少し色を付けてもらえないかどうか聞いてみるとしよう。

 それにしても、和美ちゃんが何時の間にか簀巻きにされて部屋の片隅に転がされているんだが――、目を離している間に新しい遊びでも桜と和美ちゃんは開発したのだろうか?

 ――と、考えごとをしていた所でインターホンが鳴る。


「桜、ちょっといいか」

「うん」


 膝の上に乗っていた桜に退いてもらったあと、玄関に向かい引き戸を開けると、そこには、和美ちゃんの祖父である根室(ねむろ)正文(まさふみ)さんが立っていた。

 

「五郎、孫が来ていないか?」

「和美ちゃんですか?」

「ああ、牛の世話をしている間に、姿が見えなくなってしまっていてな……、それに――、諸文が小さな頃に使っていた自転車も無くなっていて――、もしかして? と思ったのだが……」

「来ていますよ? 上がって行きますか?」

「その前にコレを――」


 差し出してきたのは、魔法瓶。


「これは……」

「牛乳だ。孫が迷惑を掛けてしまったからな」

「そんなことないです。ほら、困ったときはお互い様ですし――」

「五郎も丸くなったな」

「前から、こんな感じですが」


 他愛も無い話をしながら居間まで正文さんを案内しようとすると、いつの間にか足元に居た桜の姿が無い。

 どこに行ったのか……。


 居間に到着すると――、先ほどまで簀巻き状態であった和美ちゃんがベッドの上に寝かされている。

 そして桜と言えば遅れて居間に入ってきた。


 どうやら、一足先に玄関から退散したのは簀巻き状態の和美ちゃんを開放する為だったようだ。

 まぁ、俺としても――、その方が都合良いからな。

 さすがに相手のお孫さんを布団で簀巻きにしておいたのを見られたら良いようには取られないだろうし……、仮令たとえ――、それが子供のした事であったとしても責任は親にあるわけだし。

 寝ていた和美ちゃんを正文さんは抱きかかえて連れていく。

 年を経たと言っても、普段から体を動かしている老人には、5歳の子供を片手で抱きかかえるくらいわけないのだ。


「それでは、五郎。またな――」

「はい」




 正文さんが和美ちゃんを連れていったあとは、踝さんと今後の店舗についてのリフォームについて話し合った。


 時間的には夕方までかかってしまった。

 将来的には、冷凍ケースを多く入れる事を念頭に置いて話した。


 ――夕飯を食べたあと、桜が疲れて寝たのを横目で見ながら俺はパソコンで調べものをしつつ今後の事について考える。


 まず考えることは資金だ。


 資金の目処については、貴金属を売って稼ぐということで何とかなりそうだが――、それでも限界はある。

 何せ、何度も同じ場所で売っていたら不審に思われるからだ。

 そうなると、遠出をして少しでも多くの場所で捌いた方がいいだろう。

 出来れば大規模な店舗などで。

 小さな店舗とかだと、情報のやり取りで俺が大量に金を売っている事が分かってしまう可能性だってあるし。


 それと塩などを保管しておく倉庫も必要だ。

 店内にパレットに載せたままの塩を置いておくのは問題だからな。


「倉庫も踝さんに作ってもらうとするか。はぁ……、思ったよりもやる事が、多いな。そろそろ時間か」


 時計は、午前0時を指している。

 

 何時ものようにバックヤード側から扉を開けると、鈴の音が鳴った。

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