第22話 黄金の光

 和美ちゃんが帰ったあとは、問屋を探すべくインターネットで検索をかける。

 

「近場で問屋はないな」


 多くの問屋や仲卸から断られている事を考えると、営業をかけるにも近場以外に選択肢はない。

 そうなると、やはりネット通販が主流になる可能性もあるが――。


「ネット通販の問題は、第三者に情報が漏れやすいことだよな」


 以前に、ネット通販を利用していた。

 その際に、多くの関係のない企業からお薦め商品メールが届いていた事がある。


 そう考えると、ネット通販は個人情報流出が最も危険な物と言っていい。

 それに、大量発注などをすれば正社員ですら企業コンプライアンスを守らないのに、アルバイトや派遣になれば簡単に情報は漏洩する。

 そんな危険なネット通販を利用するわけにはいかない。


「個人で利用する分ならいい。問題は、法人として利用する場合は選択肢からは除外した方がいいだろう」


 ――さて、どうしたものか。


「とりあえずは、業務用スーパーで現金買いをしてお茶を濁す方向にもっていくしかないか」


 あとは、時間を稼いでいる間に、問屋の開拓だな。 

 今後の方針が固まったところで、立ち上がる。

 ずっと座っていて、疲れた。


 縁側に座ると、外はすっかり薄暗くなっており吹く風が涼しい。

 

「やっぱり夜になると冷えるな」


 居間の時計を見ると、指針は午後6時を示している。

 そろそろ夕飯の用意をした方がいいだろうな。


「夕飯は、どうしたものか――」


 台所に行き冷蔵庫を開ける。

 中には、プリンの素や、シャーベットの元が入っている。


「とりあえずご飯でも炊くとしよう」


 電子ジャーの内容器に3合のお米を入れて水で洗ったあと、3合分の水を入れて電子ジャーの中へと設置する。


「たしか……、主婦の人たちが30分くらい水を吸わせるようにと言っていたな」


 電子ジャーに内容器を設置し終えたあとは、オカズを作ることにする。

 冷凍庫を開けたあと、レトルトのハンバーグを取り出す。

 

「作り方は……」


 裏を見ていくが、どうやら20分ほど湯煎するだけでいいようだ。

 お鍋に水を入れて洋風ハンバーグの冷凍パックを入れる。

 そして、ケトルに水を入れて水を沸騰させた。


 少しすると桜が起きてきた。

もちろん、冷凍のハンバーグを出し夕食にする。

 

「――おじちゃん! はんばーぐ! すごい!」


 なんか知らないが俺のことを、すごく尊敬してきた眼差しで見てきたので本当の事が言えず「お、おう」としかいう事が出来なかった。

 

 それにしても、桜はハンバーグが好きなのか。

 今度、別の冷凍食品のハンバーグも買ってくるとしよう。




 ――夕食後。


 桜をお風呂に入れたあと、妹が使っていた部屋で寝かせた。

 そのあとは、居間へと戻る。

 時間が過ぎるのを待ち乍ら、


「そろそろか……」


 俺は、居間の畳の上に敷いた布団で横になりながら壁掛けの時計へと目を向ける。

 すると、何時ものように部屋の襖が静かに開く。

 部屋に入ってきたのは、クマのぬいぐるみを持参している桜。

 

「……」


 無言のまま、桜がゴソゴソと布団の中に入ってくる。

 そして、俺との間に熊のぬいぐるみを置くと寝息を立て始めた。


 結城村に来てからという物、桜は毎日のように夜中になると俺の布団の中に入ってくる。

 理由は分からないが、ママ友掲示板によると夜中は、子供にとって不安を抱える時間らしい。

 そのために、一人で寝るのは怖いから布団に入って来るとアドバイスされた。

 ちなみに上手く対応できない場合は、気づかないフリをしておくのが良いらしい。


 桜が寝息を立て始めてから、数時間。

 時計の針は午後11時を指し示している。

 壁掛けの時計の秒針音が部屋の中に響き渡る。

 それと共に夏場と言うこともあり、虫の音色も混ざる。


 しばらく時計を眺めつつ、時刻は午後11時40分を過ぎた。

 そろそろ用意をした方がいいだろう。


 桜が起きないように細心の注意を払いながら布団から出たあと、洋服を着てから家を出る。

 裏庭を通りバックヤード側から店内に入る扉を開く。

 すると、澄んだ鈴の音が鳴る。

 店内に入ったあと、カウンター横の柱に設けられている店前のシャッターを開けるボタンを押す。

 シャッターは、油を差してあるので音を立てずに上がっていく。


「――さて、いくか」


 両開きのガラス扉を開けて外に出ると――、大勢の兵士が店前に並んでいた。

 その数は100人を超える。


「ゴロウ、待っていたぞ?」

「ノーマン辺境伯様、これは一体……」

「うむ。一応は、箔をつけようかと思っての。我がルイズ辺境伯領の騎士を100人ほど選抜したのだ」

「もしかして……、この方々――、全員が来られると?」

「うむ。アロイスが1000人は連れて行かないと辺境伯家の威信がと言っておったが、さすがにゴロウに迷惑はかけられんからの」

「いえ、100人でも十分問題です。せめて2人にしてください」


 気が付けば素で答えていた。

 100人とか来たら大問題だ。

 隠す隠さない以前の問題になってしまう。

 完全にバレる。


「そ、そうなのか?」

「はい。日本は安全な国なので――、それに100人とか面倒を見るのは無理なので」

「う、うむ……。それでは仕方ないの――。ナイル」

「はっ!」

「お前が儂の護衛として着いてきなさい」

「――ですが! たった一人では! 何か不測な事態が発生した場合に対処しきれません!」

「たしかに……、だがな――」


 チラッと、ノーマン辺境伯が俺の方を見てくる。

 だが、俺は首を横に振る。

 さすがに大所帯の引き受けは無理だ。

 2人でも多い。

 正直、ノーマン辺境伯だけでいい。


「ノーマン辺境伯様、皆様――、結城村は何もない村ですので問題ごとは起きないと思いますので心配しないでください。自分が保証します」

「うむ。――なら、致し方ないの。儂の身の回りの世話にアリア、護衛にはナイル。二人が付いてきなさい」

「ハッ! このナイル、一命に代えても!」

「畏まりました」

  

 二人共、覚悟ある表情でノーマン辺境伯の言葉に頷く。

 二人の様子を半ば呆れるように見ているとノーマン辺境伯が手を伸ばしてきた。


「ゴロウ。手を掴んでくれるかの?」

「はい?」

「エルフから、建物に入る際には店主に招いてもらう必要があると言われておったのだ」

「そうなんですか?」


 異世界人は吸血鬼なのか?

 心の中で突っ込みを入れつつノーマン辺境伯の手を握ると店内に案内しようと歩き始める。

 そして――、ノーマン辺境伯が月山雑貨店の扉を潜ろうとした瞬間、店内に掛けてあった寂れたブロードソードが鳴り響く。

 それと同時に店全体から強烈な光が噴き出し周囲を照らす。

 それは、目を開けていられない程の強烈な光。

 

 しばらくして、ようやく視力が戻って来る。

 辺りを見渡すが何か変わった様子は見受けられないが――。

 俺が手を握っていたノーマン辺境伯が、しきりに「――こ、これは……」と、自身の喉や胸に手を向けている。

 

「ライオネル!」

「はい」


 集まっていた兵士の中から、一人の男が駆け寄ってくる。

 年齢は60歳前後と言ったところだろう。


「体を魔法で調べてくれ」

「わかりました」


 ライオネルと呼ばれた男が、何か言葉を紡いでいく。

 そして手をノーマン辺境伯爵の胸元へと向けると目を見開き――。


「ノーマン様、びょ、病気が消えております……」


 震える声で、そう呟いた。


「なん……だと……、それは本当か?」

「はい。解析(アナライズ)の魔法を試しましたが、病に侵されている形跡すら発見できません」

「…………ゴロウ」


 ノーマン辺境伯が俺の方を見てくるが――。


「自分は何も知りません」


 首を横に振る。

 本当に何も知らないのだ。

 ノーマン辺境伯は、ジッと俺を見てきたかと思うと――。


「メディーナ」

「はい」


 集まっていた兵士の中から出てきたのは金髪碧眼の美女。

 年齢としては10台後半くらいだろう。

 背中に弓を背負っているのが見える。


 ――と、言うか日本に来るのに弓矢持ってくるつもりだったのか。

 大問題になるところだった。

 もう少し考えてほしい。


「すぐに西方森林に向かい結界を張ったエルフに、結界の概要の確認を取ってくるのだ」

「ハッ! すぐに――」


 馬まで待機させてあったのか、メディーナと呼ばれた女性は馬に乗ったあと駆けていき――、すぐに姿が見えなくなった。

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