第20話 24金の金貨

「桜ちゃんいるよね?」

「まぁ、いるが……」


 出来れば、桜はこの子を苦手としているからな。

 もう少し、様子を見てから関わりたい。


「おじちゃん。誰が来たの?」


 廊下に出てきた桜は、俺に話かけてきたあと、訪ねてきた和美ちゃんを見て固まる。


「桜ちゃん! 遊びにきたよ!」

「……う、うん……、上がっていいよね? おじちゃん」

「――ん? ああ、いいが……」


 あれ? 桜は、この女の子が苦手じゃないのか?

 それか……、もしかしたら社交辞令みたいな?


「おじゃましまーす!」


 ほとんど遠慮もなしに、和美ちゃんが家に上がって桜に抱き着く。

 桜の表情は、どことなく迷惑そうな顔をしているように見えるが……、まぁ、桜がいいなら俺がとやかく言う必要はないからな。

 子供の友達関係にまで親が口を出すのは筋違いだろうし。


「……こ、これ――、プリン!?」

「それ、おじちゃんのだから食べたら駄目だよ!」

「――桜ちゃん。こっちに来てから、甘いもの食べてないんだよ!」

「それでも駄目。おじちゃんのはおじちゃんの分なの」


 二人の声が聞こえてくる。

 どうやら、俺のプリンを和美ちゃんが狙っているようだ。

 それを桜が押さえていると。


「おっさ……、お兄ちゃん! いえ! お兄様! プリンを食べてもいい?」


 いきなり廊下に顏を出してきた和美ちゃんが、今度は俺に話かけてくる。

 桜相手だと無理だと悟ったらしい。

 ああ見えて桜は頑固者だからな。


 まぁ、俺と桜だけプリンを食べて子供に食べさせないのはアレだしな。


「ああ、食べていいぞ」


 今日のプリンは諦めるとしよう。

 桜と和美ちゃんが二人並んでプリンを食べているのを横目に見ながら洗い物を済ませる。

 そして洗濯をしたあと、家の戸を全部開けていき――、陽の光を取り入れたあとお風呂を掃除していく。

 全部が終わり居間に戻ると桜と和美ちゃんの姿が見当たらない。


 ――いったい、どこに行ったのか……。


 まずは玄関を確認するが子供の靴が並んで置かれているということは、家の中にいるのは明らかのようだ。


「――と、いうことは……」


 桜の部屋のドアを開けると二人仲良く、ゲームをしている。


「ここにいたのか」

「おじちゃん」

「お兄さんな。……ところで、桜と和美ちゃんは、何のゲームをしているんだ?」

「対戦ゲームしているの」


 答えてきたのは桜。


「なるほど」


 ゲーム内容としては、通路に爆弾を置いて相手を倒すだけの対戦ゲーム。

 二人の様子を見たあと部屋の時計を見る。


 時刻は10時を過ぎ。

 そろそろ出かけた方がいいだろう。


「桜、診療所に行くけど一緒に行くか?」


 俺の言葉にビクッ! とする桜。

 やはり、注射の恐怖が残っているのだろう。


「……い、行かないと駄目?」

「いや、今日は大丈夫だけどどうする?」

「…………和美ちゃんとゲームしている」

「そうか。それじゃお昼までには戻るから何かあったら電話してくれ」


 メモ用紙に携帯電話の電話番号を記載する。


「電話の仕方は分かるな?」

「うん」


 コクリと頷く桜を見たあと、居間に戻り金貨の入った袋を手に取ると家から出て、車に乗りエンジンをかける。


 まずは都筑診療所に行き、異世界人のノーマン辺境伯爵の診断を見てもらうことの交渉。

 次に、貴金属装身具製作技能士の国家資格を持つ目黒さんに金貨の査定と販売方法の話をする。


 アクセルを踏み、庭から出たあとは都筑診療所へ。

 到着後、車を駐車場に停めて診療所内に入る。


「すみません」

「これは月山さん、どうかしましたか?」

「都筑先生に、お話がありまして――。今は、お時間とか大丈夫ですか?」

「少しお待ちください」


 看護師の轟さんの言葉に頷き待合室で待つこと数分。


「月山さん、診察室へどうぞ」

「はい」


 すぐに診察室へと入る。


「おお、五郎か。どうかしたのか? 検査の結果は、まだ出ておらんぞ?」

「実は、折り入って頼みがありまして」

「ふむ……」


 俺は轟看護師の方へと一瞬視線を向ける。


「例の件か?」

「はい」

「それなら問題はない。轟くんも承知していることだからな」

「そうですか」

 

 それなら一安心だな。


「じつは、月山雑貨店が異世界に繋がっているのです。そして、繋がっている先は中世の文明のようでして……」

「ふむ。つまり衛生面や病について問題があるということか?」

「はい。そして異世界の自分の店が繋がっている領地を治めている領主が、私の父方――、つまり祖父のようなのです。そして、その祖父ですが咳をすると血を吐くこともありまして……」

「五郎」

「はい」

「何故――。最初に来た時に、それを言わない? 異世界の病が移る物であったのならバイオハザードが起きる可能性もあるのだぞ? お主と接触したのは誰と誰だ?」

「姪っ子の桜と、踝リフォームの社長と職員、あとは……、根室老夫妻に、夏休みで遊びにきている根室さんのお孫さんでしょうか? それと田口村長と、お孫さんの雪音さんと隣町の――」

「そこまででいい。とにかくだ! すぐに全員の検査を行う。まったく――、もっと気を配れ! 下手をしたら村中に未知のウィルスが蔓延するところだぞ?」


 都筑医師は、眉間に皺を寄せながら叱咤してくる。


「申し訳ありません」

「――いい。それよりも、早めに祖父を連れてきなさい。どんな病気なのかを検査したいからな」

「分かりました」

「うむ。それと――、この後も人に会う予定はあるのか?」

「…………」

「あるんだな?」

「はい。目黒さんに相談したいことがありまして――」

「それは、いまではないとまずいのか?」

「はい」


 これから、大量の塩の仕入れでお金が必要になる。

 そのために、なるべく早い段階で金策方法を構築しておきたい。

 

「ふむ。――なら、この医療用マスクをつけていくといい……、と、言うより人前ではマスクは付けておけよ?」

「わかりました」


 都筑医師より渡された医療用マスク10パック入りを渡される。

 診療所を出たあとは、車で目黒さんの家へと向かう。

 目黒さんの家は、山間にあり車では10分ほど。


 崖を切り開いた場所に平屋建ての家が一軒ポツンと存在している。

 斜面に車を停めたあと目黒さんの家の玄関の戸を数度叩く。


「なんだ? 騒がしい」


 玄関の引き戸を開けて姿を現したのは90歳近い小柄な老人の目黒(めぐろ) 垂造(たれぞう)。


「お久しぶりです」

「五郎か。田口から来ると聞いておったが、ずいぶんと時間がかかったな?」

「はい。それで――」

「中に入れ。茶くらいは出そう」


 彼の家に上がると囲炉裏のある部屋へと通される。

 

「さて、田口から聞いた話だと金貨の換金方法だったな?」

「はい。こちらが金貨になります」

「どれ――」


 金貨が入った袋を目黒さんに手渡す。

 目黒さんは、金貨を全部手に取り目で確認すると――。


「ふむ、24金だな。これほどの純度の高いものを作れるとは……、これなら1グラム5000円近い値はつくだろう。重さは手に持った感触だと20グラムといったところか」

「つまり、10万円の価値があると?」

「金貨としての価値は、それだけの価値はあるが――、実際は売ろうとしても難しいだろうな」

「そうですか……」

「落ち込むことはない。儂が、この金を加工してネックレスや指輪にする。そして、五郎は加工した貴金属を質屋などに売りに行けばいいのだ。貴金属製のネックレスや指輪の買取なら多くの店で行っているからな。足は付き難いはずだ」

「わかりました。それでは、これはお預けします」

「うむ。それで手間賃だが――」


 そうだった。

 無償で金を細工物にしてくれる訳がない。


「分かりました。手間賃ですが……」




 ――目黒さんと商談が終わった1時間後。


 ようやく月山雑貨店の看板が見えてきた。

 車を家の敷地内に入れたあと家に入る。


「桜、今戻ったぞ」


 部屋のドアを開けると桜と和美ちゃんが、ベッドの上で一緒に寝息を立てていた。 


「どうやら、遊び疲れてしまったようだな」


 それにしても、同じベッドで寝るとは二人は仲がいい友達になれそうで何よりだ。


 

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