第19話 異世界料理
「それでは、お昼を少し過ぎてしまったが食事にするとするかの? アリアよ、食事の用意は出来ているかの?」
「はい。料理長が腕を振るい料理をご用意しております」
ノーマン辺境伯の問いかけに答えたのはアリアと呼ばれた20歳くらいの女性。
水色の髪をリボンを使い後頭部で結えている。
所謂、ポニーテールというもの。
「今日は目出度い日だ。ゴロウ、食事はしていけるかの?」
「はい。ご一緒させていただきます」
雰囲気的に、断るのは良くないだろう。
それに、食事というのは――、その国の文明がどういう物なのか? を見ることもできる。
どんな香辛料を料理に使っているのかを見るのも商売をしていく上で参考になるはず。
「それでは、ゴロウ様。食堂までご案内します」
「あの、ノーマン辺境伯様は?」
「儂は、あとで行くからの」
「そうですか……」
――なら先に向かうとするか。
アリアさんに案内され通された食堂は、大広間で室内の中央には巨大なテーブルが設置されていて、テーブルの上には無数の料理が置かれている。
料理の数は100を超えるだろう。
「今日は、何十人ほどで料理を?」
少なくとも、俺とノーマン辺境伯の二人だけで食べる料理の量ではない。
「これは、ノーマン様とゴロウ様のためだけに作られた料理になります。どうぞ、お座りください」
テーブルには椅子が2脚しか置かれていない。
本当に二人のためだけに作られた料理のようだ。
それにしても見た事がない料理ばかりある。
「あの、アリアさん。あれは……」
テーブルの上に置かれている一抱えほどもある骨付き肉を指さしながら聞くが――。
アリアさんはニコリと微笑むと。
「あれは飛竜の骨肉になります。とても高級な物で祝いの品などに出されるものなのです。ノーマン様が、ゴロウ様の為にと兵士の方に命じて狩らせて用意させた物なのです」
「そうですか」
飛竜か……。
骨付き肉が、抱きかかえられるほどの大きさとなるとするとずいぶんと大きいのだろう。
「それで、ノーマン辺境伯様は?」
「アロイス様と来られると思います」
アロイス様?
「アロイスさんは、地位としては高い方なのですか?」
「はい。アロイス様は、男爵家であるイリス家の方でルイズ辺境伯領においてルイズ辺境伯軍の指揮権をノーマン様から預かっておりますから」
「なるほど……」
俺が物語で知っている横暴な貴族像とは違うが、念のために今度から、口の利き方について気を付けよう。
アリアさんと話をしていると食堂に入ってきたアロイスが近づいてくる。
「ゴロウ様」
「何でしょうか?」
「じつは、ノーマンさまが食事には来られなくなりました」
「先ほどの話し合いで?」
「はい。ずいぶんと消耗されてしまったようで――」
「そうですか……。それは仕方ないですね」
「ご理解――、感謝いたします」
「それでは、この料理はどうしましょうか? 皆さんで食べませんか?」
「よろしいのですか?」
「はい。料理は、みんなで食べた方が美味しいので――。それと、私からではなくノーマン辺境伯様からの差し入れということでお願いできますか?」
「…………よろしいのですか?」
もちろんと俺は無言で頷く。
どのみち食べられる量ではないことだし、丁度いい。
すぐに大勢の兵士やメイド服を着た女性達が集まってくる。
「今日は、普段から仕事に従事している皆にノーマン様からの御心づけだ」
アロイスの説明が終わると同時に、談笑と共に立食形式の食事が始まる。
「ゴロウ様、こちらをどうぞ」
アリアさんがお皿を持って話しかけてきた。
「これは?」
「はい。飛竜の肉になります。料理長自慢の料理になりますので、すごく人気なのです」
「なるほど……」
飛竜の肉を頬張る。
味としては、熊肉に近い。
甘酸っぱいソースが使われている。
「あの、これは……」
「はい。これはオリーブオイルで焼いたあとに果物を数種類搾って作られた果汁を使ったソースで味付けされたものなのです。マスタードもありますので、どうぞ――」
アリアさんが差し出してきたマスタードにつけて食べる。
たしかに肉の臭みは、消えて食べやすくなった。
立食形式の食事会を見ながら、ふと姪っ子の桜のことを思い出す。
そろそろ帰った方がいいだろう。
頃合いを見計らってアロイスに近づく。
「アロイスさん。そろそろ帰りたいと思います」
「分かりました。すぐに手配致します」
前回と同じようにナイルさんに店先まで送ってもらう。
「ゴロウ様。それでは、また明日にでも――」
「分かりました。それでは、またよろしくお願いします」
ナイルと別れる。
店の中に入りシャッターを閉めたあと、バックヤード側から家に戻る。
居間の襖を静かに開けると桜は、俺の布団の上で熊を抱きながらまだ寝ていた。
時刻を見ると――。
「午前3時か……」
3時間も異世界に居た事を考えると、今後の事も考えると桜にも異世界の事を話しておく必要もあるかも知れない。
病の治療で、こちらの世界にノーマン辺境伯が来たら顔を合わせることにもなるだろうし。
――翌朝。
「眠っ――」
思わず欠伸が出る。
結局、寝たのは朝方の4時近かった。
そして目が覚めたのは午前7時。
実質3時間ほどしか寝ていない。
理由はエアコンの付け忘れで蒸し暑くて起きたのが原因。
ちなみに、桜は扇風機の前で大きな口を開けて「あー」と叫んでいる。
俺も小さいころはよくやった遊び。
このへんは時代が変わってもやる事は変わらないのだろう。
「おじちゃん」
「お兄さんな。どうかしたのか? いまは火を使っているから危ないぞ?」
「今日はラーメンなの?」
「今日は、そうめんだな」
「――! フルーツそーめんなの?」
何故か知らないが、桜のテンションがいきなり上がる。
「いや、フルーツはつかないな」
「つかないの?」
「つかない」
「…………」
シュンとしてしまった桜がトボトボと居間に戻っていく。
こんど、フルーツの缶詰でも用意しておくとしよう。
沸騰した水に、そうめんの乾麺を入れて茹でたあと水で洗う。
そして水気を取り大皿の上にそうめんを載せる。
二人分のガラスの器に麺つゆを入れて水で薄め居間へと運ぶ。
「桜、出来たぞ」
「……はい」
「そうめんを食べたら、食後のプリンを食べような」
「プリン!? 食べる!」
ハッ! とした表情をしたあと桜が目を輝かせると一心不乱にそうめんを食べ始める。
どうやら、プリンは子供の心を鷲掴みにする魔力を秘めているらしいな。
「プリン! プリン!」
そうめんを食べ終えたあと、お茶碗に入った2人分のプリンを冷蔵庫から取り出し、それぞれ平皿の上に逆さにして載せ替える。
次に、冷やしていたイチゴをスライスしプリンの上に載せたあと、冷凍庫から氷を作る型を取り出す。
そして出来上がっているイチゴシャーベットをプリンの周りに配置したら完成。
「さて、食べるか」
「うん!」
居間に、プリンを持っていきテーブルの上に置く。
そして――、食べようと思いスプーンを手に取ったところで。
「桜ちゃん! あーそーびーまーしょー」
玄関の方から子供の声が聞こえてきた。
しかも聞き覚えのある声。
「無視しておくわけにもいかないか」
玄関を開ける。
「よっ! おっさん!」
そこに立っていたのは、根室和美。
桜と同じ年齢の子供。
「おっさんじゃなくてお兄さんな」
「こんな朝早くからどうしたんだ? おじいさんとおばあさんとは一緒じゃないのか?」
周りを見る限り、和美ちゃんの姿しか見えない。
「あそこにいるよ!」
「あそこ?」
和美ちゃんの指さした方角へと視線を向けると、家の前の畑をトラクターで耕している根室正文の姿が見える。
「つまり、トラクターで耕すついでに送ってもらったということか」
「うん!」
「なるほど……」
根室さんも朝から働くな。
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