赤ずきんを襲おうとしたら人狼ゲームが始まった

○●メイド

第1話 人狼ゲーム 始まらない

昔々あるところに1匹の狼と赤ずきんという幼女がいた。




元々この狼はグルメであり今までたくさんの人を食してきた。


だが足りないのだ。自分を満足させる餌を見つけなければ、そう思い狼は一人の幼女を見つけた。




赤ずきんはとても可愛く、凛々しく、賢い幼女であった。


狼はどうしてもその少女を食べたいと思った。




何日もの下見が功を奏し、狼は遂に赤ずきんと接触することに成功する。




「こんにちは、おおかみくん」




上品にドレスの裾をつまんで挨拶してみせる赤ずきんに狼は少し惚けていたが気を取りして自分を戒める。必ずこの幼女を食して見せる…と。




「赤ずきんちゃん。今からどこへ行くの?たった一人で?」




勿論どこへ行くかは下調べ済みだ。祖母の家だという。お見舞い……。こういうところもいい。


最後の質問は人数確認だ。もし途中で誰かと合流するのならば今日の計画は見送った方がいいかもしれない。




「おばあ様の家だよ。病気で辛いだろうから見舞いに行くんだ」




幼女らしくない言動だが狼は構わない。インテリ幼女も彼の好みである。




「そうかぁ。偉いねえ」


「そうかい?ぼくは当然のことをしているだけだと思うが」


「そうだ。お見舞いに行くなら少し行った先にある花畑で花を摘んでいったらどうかな。おばあさんも喜ぶと思うよ」


「ほう。では立ち寄らせてもらうことにするよ。ではさよなら。君は……いい人なんだね」




狼はそんなこと心にも思ってなかったが時間を稼ぐために花を摘んでいくことを提案してみた。


言ってみれば上手くいくものである。


彼女は彼を疑うことなくいいひとだと信じていったではないか。


ますます彼女を食したくなる狼だった。




さて、赤ずきんと別れた狼はそのまままっすぐおばあさんの家へと直行した。


トントンと手をたたくと、


「はい。どなたかの?」


というおばあさんの声がした。


狼は精一杯の裏声を作り返事をした。




「赤ずきんだよ。今日はお見舞いに来たんだ」


「おや、赤ずきんかい。さあさ。鍵はかかってないから戸を押して入ってきておくれ」




正直こんな森に建つ一軒家で鍵をかけないのは不用心すぎないか?と呆れる狼だったが今は好都合なのでありがたく戸を開けた。




戸を開け中へ飛び込んだ瞬間狼が先ほどいたところを包丁が掠めていった。




「野良狼一頭かい……。久々の獲物にはちょっと物足りないねえ」




狼はおばあさんが元々凄腕の冒険者だったことは知っていたが今は寝たきりとしか聞いておらず油断していた。


しかし流石は狼、すぐに意識を切り替える。


――この老婆は強い!!




「ほら次行くよ」




次々と飛んでくる包丁にナイフ。それを狼はギリギリでかわしつつ違和感を覚える。


武器の飛んでくる場所が変わらないのだ。


狼はここで推測を立てた。恐らく老婆は……動けない。




「しまった。包丁がもうない」




そのすきを狼は見逃さなかった。


百獣の王と肩を並べる森の王者。一瞬で老婆を噛み千切る。


狼は老婆が即死したのを確認し、部屋の整理を始める。




赤ずきんが来た時に老婆に扮して襲う計画だった。


しかし老婆の服も血に汚れとても着られる状態ではない。


仕方がないので狼は近くの河原に洗いに行くことにした。誰にも見られないよう警戒しながら。




その時だった。




【システムメッセージを確認。人狼ゲームを開始します】




狼の頭に直接音声が響く。




「は?なんだこれ」


「どうやらぼく達は閉じ込められてしまったようだね」


「がっ!?」




狼がいきなりのボーイッシュ幼女の登場にのけぞる。


だが赤ずきんは気にもしてないという風に続ける。




「先ほど確かめてみたのだがどうやらこの森一角が透明な壁に囲まれているみたいだ。少し抵抗してみたんだが当たっている感触がない。にもかかわらず出ることができない。不思議だと思わないかい?」


「あ、ああ。不思議だな」




正直狼は襲おうとしていた幼女が何故今現れたのか分からずしばらく思考が止まっていた。


そうこうしているうちにまたあの声が響いた。




【ゲーム参加者は被害現場へ集まってください】




狼は焦った。被害現場という単語に自分の行いがばれているのではと考えたかだ。


事実、それは当たっていた。




「あれが被害現場のようだね。行ってみるしかないな」




狼が赤ずきんに言われて視線を向けると赤い光の柱のようなものが天まで続いている。




――おばあさんの家のある位置から天へ。




狼はこの時考えていた。自分がおばあさんを殺したことがバレれば赤ずきんを食べるチャンスは永遠に失われるだろう。なら今食べるべきか。いやこの人狼ゲームとやらを見極めてからでも遅くないだろう。その時には手遅れかもしれない。




狼は二つの選択肢をとれたが何故だか今赤ずきんを食べるという選択肢はあり得ないように思えた。


それが人狼ゲームのシステムがもたらした思考誘導だったことに狼が気づくことはない。




そして狼と赤ずきんはおばあさんの家へと辿り着いた。




「ふむ。中へ入ってもいいと考えるべきかな?」


「入ってもいいんじゃないか」




本音を言えば狼は入りたくなかったがここで入らないのも不自然だと思いついていくことにした。


大丈夫だ。ここでバレても自分が殺したことさえ分からなければいくらでもチャンスはある。




そして赤ずきんが扉を開けると、中には赤く染まった何かが倒れていた。


それは間違いなくおばあさんだったもので、今はもう違うものになっていることも間違いなかった。




「おばあ様……?ひどいな。完全に死んでいる」


「これは誰かに殺されたってことなのか……?」




殺したのは狼だが自分が殺したことを悟られるわけにはいかない。


必死に初めて見たような感想をひねり出す。




【全員が揃いました。それでは昼時間を開始します。】




またあの声だ。


狼が周りを見渡すと、赤ずきんのほかに何人かいることに気づいた。


一人は銃を携えており、また一人はスーツを着ている。最後の一人は何だろう。綺麗な女性だ。




「なるほど。集まったのはぼく。狼さん。猟師さん。金貸しさん。湖の女神の5人というわけだ」


「おいおいおい人が殺されてるんだぞ!こんなもん狼がやったに決まってる!」


「私としては金さえ返してもらえれば何でもいいんですが。誰かが肩代わりしてくださるのですか?」


「あたし……湖を守ってただけなのに」




昼時間とはなんなのか。


人が死んでいるにも関わらず一人を除いて皆冷静だ。だからこそ考えなければならない。




――自分が最後に生き残る方法を。




【言い忘れていました。あなたたちはこの昼時間に議論をし、狼を見つけ出し投票してください。一番票数の多い者が処刑されます。処刑された者が狼だった場合、この閉鎖空間から解放されます。処刑された者が狼ではなかった場合、狼以外は全員が処刑されます。では引き続き頑張ってください】




五人の中に狼は一人しかいなかったので処刑されました。




めでたしめでたし。

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赤ずきんを襲おうとしたら人狼ゲームが始まった ○●メイド @kagami_yuka0101

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