第10話 霊能者の弟子

「あなた、いえ、あなた方は一体何者なんですか?」


 時は午後6時。沈みかけの太陽が、西の空を紫色に彩る。校舎の裏には伸び切った影が三つ。二つは横に並び、一つの影に対面するように立っている。

 そして一つの影――香山稟(かやまりん)が、対面する影――貞美を指さしてそう口にした。その声は震えており、小さいものだった。

 そして、繰り出される二言目。今度ははっきりと、前方二人の耳に届いた。



「あなた、怨霊ではありませんか?」



 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★



 それは学校が終わり、掃除をしている時だった。経流時が担当の場所をほうきで掃いていると、手に紙を握った貞美がパタパタと走ってきた。

 息を切らす貞美を心配そうに声をかける経流時。しかし焦った表情を見せる貞美は、力強く手紙を手渡した。

 そこには――


「午後6時に校舎裏へ来てください」


 内容は短的にまとめられていた。息を飲む二人。まさか、入学初日に呼び出しを食らうとは思いもしなかった。貞美の美貌であれば十分に考えられることだが、まさかの初日。とんだプレイボーイがいたものだと、何故か関心する経流時。一時、甲樹の顔が脳裏をよぎったが、首を振って否定した。貞美が一人では心細いというので、経流時を連れて校舎裏へ回った。

 元々は、経流時は柱に隠れて待機の予定だった。しかし訪れたのは小柄な女子生徒、香山凜だった。彼女は経流時と同じく目立つことが苦手で、普段は自分の席から教室の雰囲気を傍観している。まさかのレズビアンか、と興味津々に状況を見つめる経流時。

 しかし、彼女から放たれた言葉は衝撃的なものだった。二人は氷河期到来の如く、その場に固まった。


「どうして、そう思うの?」


 何とか声を出す経流時。すると、凜は自分の目を指して、


「私は寺生まれのせいか、霊視ができるんです。私の目に、隣の彼女、貞美さんが引っ掛かったんです」


 そう言った。霊視ができることを口にするのに慣れていない様子だったが、凜は真面目な表情で言ったのだ。

 少し前の経流時なら間違いなく信じなかった。しかし貞美との出会いで、霊の存在を認識している。それに、真剣な眼差しを見せる凜を、ただの狂人とは思えなかった。


「ということで、除霊させていただきます!」


 凜は目を見開き、大きな声で叫んだ。懐からお札を取り出し、貞美を睨み付ける。静かで弱弱しい彼女の姿は、もうどこにもなかった。霊能者としてするべきことはする。怨霊界も同様だが、この界隈に精通する者は皆、プロ意識が高いようだ。


「ちょっと待った!!」


 戦闘態勢に入る凜の間に入り込み、ストップをかける経流時。


「どいてください。そいつは生徒に化ける悪霊です。貴方は騙されていたんですよ」


「ち、違うから!」



 経流時の発言には耳も向けず、そう言う凜の周囲には、青白い光が飛び交っていた。それは益々強い光を帯び、遂にその場を、輝きで満たした。


『浄化!!』


 凜は叫ぶ。同時に、光が一気に膨れ上がり、一体を覆い尽くす。貞美どころか校舎を丸呑みにする程の巨大な光に、経流時は腕で目を覆い隠した。


「――――――」


 光はすぐに収まった。経流時の視界は徐々に色を戻し、その場の状況を目にした。


「う、そ……」


 顔を青白くして、弱弱しい声を漏らす。しかしそれは経流時のものではなく、凜の声だ。そこには先程と何も変わりない風景が広がっていた。


「私は怨霊ではありませんよ?」


 勿論貞美は健在だ。

 巻き上がった砂埃を払いながら、彼女は言った。


「でも、そんな……」


 目を震わせながら、まるで信じられないものを目にしているような表情を見せる凜。その文字通り、彼女からすれば不可解な現実が目の前に広がっているのだが、まさか自分が力を失ったのか、というまで考察を展開した。


「信じられないなら、あなたの師匠のところにでも行きますか?」


 いい加減にしろと、ため息交じりに提案する貞美。

 丁度、道端の電灯が明かりを灯す頃だった。


《あとがき》

 あれ? 休載いらない???

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