第2話 霊能者など信じない!

 突然ではあるが、三日前の話をしよう。

 

経流時はいつも通り学校へ行き、いつも通りの日常を穏やかに過ごしていた。

 しかしこの日、経流時は先日亡くなった従兄いとこの部屋の片づけを頼まれていた。

 面倒に思いながらも、経流時が両親を亡くしてからお世話になったことがあり、断るわけにはいかなかった。


 学校が終わった後、直ぐに従兄の家に立ち寄った。家は二階建ての木造建築で、祖母と従兄は二人暮らしだった。部屋は二階西側の個室。日当たりが良く、従兄と日光浴をした覚えがある。

 祖母は経流時の来訪に喜んだ。声をかけた中で経流時だけが唯一、手伝いに応じてくれたらしい。経流時を客室へ招き入れ、お茶を出すと、昔話を始めた。一人になってしまい、心身が憔悴していたのだろう。祖母は従兄との思い出を、物哀しげに話すのだった。

 結局その後に訪問者はなく、二人で片づけをした。

 8畳程度の部屋だ。経流時は直ぐに終わる算段でいた。

 しかし経流時の従兄は整理整頓が苦手だったらしく、襖を開けると、部屋はゴミ屋敷へと化した。

 なんということでしょう。のナレーターもビックリする程の変貌ぶりだ。

 仕方がないので雪崩れたガラクタを丁寧に分別し、ゴミ袋にまとめて整頓した。

 そのため、部屋はさほど広くないのにもかかわらず、片づけに2日かかった。

 その時に経流時が気になる大人の本をこっそりとカバンに入れたのは、また別の話である。


 作業が終盤に入ったところで、経流時はを見つけた。

 古いビデオデッキだ。経流時が祖母に尋ねたところ、身に覚えがないという。

 ということは経流時の従兄の所有物となるのだが、経流時はにそんな事どうでもよかった。


「このビデオデッキ貸してくれない?」


 経流時は懇願した。古いものを集めることが趣味だったりする。

 祖母は自分の所有物ではないため判断に困ったが、どうせビデオデッキなど棄ててしまうと思い、譲り渡すことにした。

 経流時は喜んで家に持って帰った。




 経流時は一人暮らしだ。

 両親を亡くしてから高校に入るまでは祖母の下に身を置いていた。しかし自立への憧れがあった経流時は、高校に入学すると一人暮らしを始めた。


 ビデオテープはデッキの近くにあったドラ○もんとアン○ンマンを借りてきた。どう見てもカモフラージュである。中身はきっとムフフンな内容に違いない。

 早速テレビにビデオデッキを接続させる経流時。その表情はなんとも楽しそうであった。


 ビデオデッキの挿入口を押す。カチッと心地よい音が鳴って、カバーが外れた。

 にもかかわらず、ドラ○もん(仮)が上手く入らない。

 挿入口を覗くと、別のビデオテープに塞がれていた。

 経流時は不思議そうに顔を顰め、それを取り出そうとした。しかし奥でつっかえているのか、ビクともしない。

 鉄くぎを引き抜く勢いで引っ張ると、ようやくビデオテープが姿を現した。

 とても汚なかった。相当古い代物のようで、皹が入っていたり、カビの匂いが仄かにした。


「うわぁ……」


 経流時は眉を顰めた。

 もし匂いや状態だけが問題なら、経流時はこんな顔をしなかっただろう。


 ビデオテープの差し込み口に、大量の頭髪が絡みついていた。まるでシュレッダーに巻き込まれたような、長く縮れた毛が何本も。これが引っ掛かっていたのだろう。

 経流時は怖くなって直ぐにビデオテープをゴミ箱に捨てた。


 それ以降、経流時はそのビデオテープの事を考えるのは止めた。

 気を取り直してドラ○もん(仮)を差し込んだ。今度は上手く挿入できた。


 映像は直ぐに流れ出した。経流時は急いで準備ティッシュ掴み取りをする。

 しかし、映像は経流時が想像していたものとは大きく異なった。


 とても気持ちの悪い映像だった。画面の点滅が激しく、ブロックノイズが絶えない。突然、発作で苦しむ人々や地震で家が崩れる様子等が映し出された。場面展開は10に分かれていた。それが30分も続く。

 経流時は嘔吐感に耐えられなくなって、途中でトイレに駆け込もうとした。

 その時、

【この映像を見たものは呪われる。今からいうことを三日以内にやれ。まず――】


 そんな文字の羅列が表示され、映像がプツリと切れた。言葉は途中で途切れてしまったのだ。


「何をすればいいんだ……」


 経流時は不安になった。再び嘔吐感を思い出し、全速力でトイレに駆け込んだ。



 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


経流時の背筋に戦慄が走った。

ビデオデッキから取り出したビデオテープが、例のモノにすり替わっていたからだ。経流時は顔色を悪くしてゴミ箱を覗く。そこにはドラ○もん(仮)の姿が。

経流時の口元から短い悲鳴が漏れた。


――これやばいかもな

 

そこから経流時の行動は早かった。

 自分に呪いがかかったとは甚だ思っていない。しかし万が一の時のために、例のモノを携えて、遥々隣町の霊媒師の元を訪ねた。


「本物だね」


 それが霊媒師の見解だった。

 彼女の言葉に、経流時は心臓を掴まれたような感覚に陥った。この霊媒師が【奇跡の霊媒師】とTVでも有名であることが、一層経流時を追い詰めた。


 ――嘘ではない。


 経流時は気忙しく、何をするべきであるか訊ねた。

 何せ肝心な部分が切り取られていたのだ。このままでは本当に呪い殺されてしまう。


 一方で、霊媒師は冷静に話し始めた。

 曰く、怨霊は供養を求めている。長い間死体が見つからず、彷徨う魂がビデオテープに乗り移ったと。だからやるべきことは一つ。このビデオを供養し、悪しき魂を浄化すれば良いと。

霊媒師は手厚く供養までしてくれた。なんとお値段2万円で。


 そして最後に霊媒師は言った。


「まだ安心してはならない。お前の身体は霊を呼びつけやすくなっている」


 まったく、この霊媒師は怖いことを言ってくれる。恐怖心を駆り立てられた経流時はまんまと3万円の御札を護身用にと売りつけられてしまった。


 流石の経流時もこれには疑いをかけたが、その値段で安心が買えるのなら安いものだと、万札3枚を手渡した。



 そして三日後の今日、怨霊は無事に経流時の元に訪れ、現在に至る。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る