第17話 のぞむがままの褒美を少女に
大聖堂の中央にしつらえた玉座に、国王陛下とイリ王子が腰をかけました。
イリ王子は、心なしか顔色が悪そうです。
紫大臣がその前に参上し、口上を読み上げました。
「儀式に先立ちまして、この大聖堂の壁画をかきあげました世界一の絵師を、紹介したく存じます」
「うむ、紫よ。朕は、王子と違って絵のことは良く知らん。だが認めよう。この壁画を描いたものこそ、真の世界一の絵師である。王子の成人の儀に、王として、父として、またとない良い贈り物をすることが出来た。
紫大臣、そちにまかせて良かった。
そちは約束したそうじゃな。この世界一の絵師に、なんでも望むものをあたえると。よろしい。紫大臣の約束は、朕の約束じゃ。
世界一の絵師をこれへ。
約束を果たそう。セフィド・キタイ国王が、何でも望むとおりの褒美を取らせよう」
大聖堂に集まった人々は、みな固唾を呑んで見守りました。
聞くところによると、絵を描いたのはま十四・五歳ほどの正体不明の少女であるとか。いったいどんな願い事をすることでしょう。
しかしそこにあらわれたのは、少女ではなく、一人の男。
シュンメイでした。
シュンメイは陛下と殿下に恭しく一礼すると、水を打ったような静けさの大聖堂に響き渡る大声でこう報告しました。
「この絵を描いた少女は、賊の手から壁画を守ろうとして煙に巻かれ、昨日、息絶えました。
少女の遺言に従って、私は遺体を灰にして大河に撒きました。
少女の、望みはただひとつ。
この絵にあるような幸福な世界を、国王陛下と王子殿下に作っていただく事でありました」
思いもよらぬシュンメイからの報告に、大聖堂のいたるところから悲鳴がもれ、やがてそれはすすり泣きに変わりました。
国王陛下は、しばらく後にこう返答しました。
「国王として、なんでも望むものを約束した。それは、我が力ならば叶えられぬことはないと思ったからじゃ。
しかし、少女のその望みは大きすぎる。
だが、約束しよう。もう一度約束しよう。
少女は命を懸けて、世界一の絵を作り、それを守った。
朕も命を懸けて、必ずこの地上に、この絵のような素晴らしい世界を作ると」
シュンメイは、それを聞くと深々と頭を垂れました。
やがて、どこからか自然に拍手が沸きおこります。そして、それは大聖堂中に広がり、割れんばかりの大喝采となって響き渡りました。
拍手の中で一人だけ、自分の体調と必死に戦っている者がおりました。それは、儀式の主役であるイリ王子でした。
王子の頭の中を大きな拍手の音がぐるぐると回り、とうとう目が回ってきました。
(だめだ、これは、とてもとても大事な儀式なのに……)
しかし、最後に聞こえたのはシュンメイの悲鳴のような声でした。
その声は、「イリ殿下!」と叫んでいます。
(あれ? 僕のこと? 僕、どうしたのだろう……)
イリ王子は、そのまま気を失って倒れていました。
成人の儀は、イリ王子が倒れたため無期限に延期となりました。
しかし、儀式が中止になっても、大聖堂に描かれた壁画を一目見ようと国内外からの見物客が連日押し寄せ続けたのでした。
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