第5話 世界一の絵描き候補、一人目

 王宮正門前の行列は、一段と長さを増していました。

 行列目当てに屋台ができ、その屋台目当てに町の人たちが集まってきます。するとそのお客目当てに、大道芸や物売りがあらわれて、近年にない大賑わいです。

 しかし、そんな中、困り果てている人たちがいました。

 そう、大臣たちです。朝から晩まで審査しても、列は一向に短くなりません。本業の政治にも差し障りがではじめています。

(誰が、こんな事言いはじめたんだ)

 面と向かっては言わないものの、皆、紫大臣に対する不満でいっぱいです。


 そんなとき、一人の男が列の一番後ろに並びました。

 男はもちろん、自分の描いた絵を手にしています。

 すると、不思議なことが起こりました。

 男の前にいた人が、列を外れてしまったのです。

 そこで、男は一つ前に進みました。するとその前の人も、やはり並ぶのをやめて、家に帰ってしまいました。

 そんなことがどんどん続いて、男はあっという間に、列の一番手前、王宮の正門にたどり着きました。

 列がいつのまにか無くなったのを知って、大臣たちが飛び出してきました。


「おお、そなたであった」


 男というのは、シュンメイでした。

 列に並んでいた人たちは、シュンメイの持っている絵を見て、この絵には勝てないとあきらめて並ぶのをやめてしまったのでした。

 シュンメイの持ってきたのは、大きな滝の絵でした。

 見ただけで、ごうごうと音が聞こえるような、水しぶきが飛んできて冷たく感じるような、素晴らしい出来栄えです。

 紫大臣についで位の高い紅大臣が、もみ手してシュンメイに言いました。

「いやー、お待ちしておりました。シュンメイ、いやシュンメイ先生、さすがわがセフィド・キタイ一の画家先生だ。正直われわれ、誰かのせいで慣れぬ絵の審査をやらされて困っていたのですよ。しかし、まことの良いものというものは、誰の目にも明らかなもの。文句なし、先生の絵が一番でございます」

 あわてて紫大臣が何か言おうとしましたが、残りの大臣たちににらまれて、

「いやー、もちろん今の時点では一番なのだが、期限があと二週間残っているから、その前に決めるのはまずいのではないかな。一応、ほかの国にも伝えてある約束事だし……」

 というのがやっとでした。


 シュンメイの持ってきた滝の絵は、紅大臣たちのたっての頼みで、王宮の正門に飾られることになりました。

 つまり、この滝の絵よりもうまいと自信のある絵を持ってきたものだけが、門をくぐって審査を受けてよいというわけです。

 それ以後、王宮の正門をくぐる人はパタリといなくなりました。


 王宮の周りは、あれだけの人だかりがうそのように静かになりました。

 紫大臣は、毎日、正門の前に立っては、誰か来ないかと待っています。たまに外国から来た自称世界一がやってくることもありましたが、皆、滝の絵を見るとすごすごと逃げ帰ってしまいました。

 無論、紫大臣とてただ黙って待っていたわけではありません。

 世界中の有名な画家に連絡をとって、来てくれるように頼んでいました。

 しかし、有名な芸術家になるほど、褒美には興味がなかったり、一番二番と優劣を決めるのを嫌がったりして、大臣の願いを聞いてくれるものはおりません。

「これでは、何のために、壁画なんてものを作ることにしたのかわからんぞ」

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