第3話

「なぜ、私が一度は守ると誓った日本国民を殺したのか。その動機について今から話させて頂きます。ただ一つ、これだけは約束して欲しい。特にマスコミのみなさんにお願いがあります。」

そう言うと、被告人は傍聴席を向いた。

「これから話す事は全て事実であり本心です。紙面の都合や時間の都合などあるかもしれませんが、可能な限り一語一句を省く事なく報じると約束して欲しい。もう一つ、これはお願いですが、どうか私の行いをヒーローや英雄のように讃えるような報道をしないようにして欲しい。私の行いは、法治国家の元で生活する以上は絶対にやってはいけない行動です。どんな理由であれ、法律で罰則を与えられる対象になっている行為です。もしも、私の行動と同じような蛮行をする国民が日本、いや世界で出てくるとするならば、それは報道したあなた達にも責任の一端があると思ってください。お願いできるような立場ではないと分かっていますが、どうかよろしくお願いします。」

被告人は深々と頭を下げると、裁判長の方を振り返り、軽く頭を下げた。


「私がなぜ、88人もの人間を殺害してきたのか。それは、殺人事件を筆頭に凶悪事件によって悲しむ人をこれ以上、出したくなかったからです。被害者や被害者家族はもちろんのこと、加害者家族も含めた犯罪者を除いた当事者と関係者全てを事件は不幸にします。普通に暮らしている人たちの平穏を奪っていい人なんて、この地球上には誰一人として存在していません。それなのに、犯罪者の理不尽かつ自分勝手な理由により、或る日突然、平穏な生活を壊される。壊されただけでなく、テレビやネットといったメディアにより、壊され続ける。何一つ悪い事をしていない家族が言われのない中傷を受け続ける。加害者家族だってそうです。もしも、この世の中で加害者家族を恨む権利があるとすれば、それは自分たちの家族を殺された遺族や近しい友人だけだ。恨むべき相手はもちろん犯罪者であるが、その関係者も含めて憎しみの対象となってしまう事は仕方ないでしょう。


しかし、そもそもなぜ、こんな事態になったのかを考えれば原因は明白だ。それは、凶悪事件が起こったせいだ。凶悪事件さえ起こらなければ、悲しむ人間は一人も存在しない。子供でも分かる論理です。でも、現実には起こってしまっている。ならば、被害者遺族の憎しみや、加害者家族を救う手立ては何かを考えた時、私にできることは、自衛官時代に培った狙撃スキルを活かして、塀の中で世間からの誹謗中傷に守られ、税金で3食を食べさせてもらい、布団の中で眠る事を許された理不尽かつ自分勝手な犯罪者たちを一掃することしかないと思ったのです。


そうすれば、犯罪者が殺された瞬間に、加害者家族は被害者遺族に立場を変える。加害者家族というだけで言われなきバッシングを受け続けた家族からしたら、犯罪者が殺される事は悲しさはあるけれど、同時に解放もされるのではないかと思ったんです。そして、犯罪を犯せば、正体不明の誰かから殺されるという恐怖が抑止力にも繋がると思いました。核兵器が戦争の抑止力になっているように、圧倒的な恐怖や攻撃力というのは最大の抑止力になるのです。


もちろん、殺人という手段以外にも何か別の手段があったと批判や反論される事もあるでしょう。

でも、私は殺人という方法を選択しました。それは私にそれを実現できる狙撃というスキルがあった事も関係しますが、それ以外にも理由があります。」

ここまで、顔色ひとつ淡々と話すと、被告人は水を一口、飲んだ。

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