第2話
「まずは、なぜ私がこの犯罪を犯したかの理由を話す前に、私の生い立ちから話をしても宜しいでしょうか?その方が理由も理解してもらいやすくなると思いますので。裁判長、宜しいでしょうか?」
「ええ、お任せします。本件は今後の日本の治安維持において非常に重要な事件であり、日本だけでなく世界中も注目しています。時間は十分にありますので、ぜひ私たちが理解できるように話して下さい。」
裁判長はそう言うと、被告人に話すよう促した。
「ありがとうございます。あまり長くなっても退屈になり飽きてしまうでしょうから、手短に話すよう努力します。」
被告人は、一呼吸置いた。
「私には家族がいません。死別したとかではなく、産まれた時から捨てられた孤児だったため、家族の存在を私は知りません。ただ、そのことで性格が歪んだり非行に走ったりしたことはありません。なぜならば、施設にいた職員の方々や施設長が本当の親以上に私の事を大切に育ててくれたから。彼らの存在は私に家族がいない事の寂しさを一瞬も感じさせないほど大きく、また温かいものでした。
そんな不自由ない環境で育ちながら、私はこういった誰かの為に愛情を注ぎ、頑張ってくれる人たちを守れるような仕事に就きたいと思い、自衛官の道を選びました。塾に行くお金なんて当然ない私は学校での授業を真剣に受け、学校の先生方のお力も借りながら進学することが出来ました。
そして、晴れて自衛官としての任務につき、狙撃手としての腕を磨く事になりました。狙撃手という任務は私の才能にもマッチしており、非常に優秀なスナイパーへと成長することが出来ました。この時の私は、この得たスキルを活かす場面が来ない事を願いつつも、もしも自国の人間に危険が迫った時には120%の力を出せるように鍛錬を怠りませんでした。
そうして、数年間自衛官としての任務に明け暮れておりましたが、5年くらいした時、初めて年末年始に休暇を取ることができ、私は久々に施設に立ち寄ってみました。その施設は私が育った頃と何一つ変わらず、施設長も昔と変わらない愛情で私を迎えてくれました。
昔、お世話になった先生方に挨拶して回っていた時、小さい頃からずっと私の勉強を見てくれていた学生ボランティアだった女性がいなくなっている事に気付いた私は、施設長に彼女の現在を質問しました。
その時の答えが、私の人生を大きく変えました。
施設長から聞いた事は、『彼女の弟さんが殺人事件を起こして捕まったこと。それにより、彼女のご家庭全体へ社会からのバッシングが続き、気を病んだ家族は一家心中を図って死んでしまった』ということでした。
その時、私の中で二つの憎悪が沸き起こった事を今でも覚えています。
一つ目は家族や被害者の事など考えず理不尽に殺人を犯した弟さんの蛮行に。もう一つは、直接的な利害関係者でも何でもない第三者がテレビやネットなどで正義面して加害者家族を追い詰めていく人間たちの狂った集団行動に。そういった事を考えているうちに、私が心の底から守りたいと思っていた人たちを守れていない今の自衛官という仕事に疑問を感じ、退官しました。そして、今裁判を受けるまでの約2年間、私は殺人事件を繰り返し、合計で88人もの命を奪ってきました。」
自分の生い立ちを話終えた被告人は水を一口飲むと、ふぅーっと息を吐いた。そのタイミングで裁判長が被告人に対して質問をした。
「あなたは自衛官として日本国民を守るという立派な志を胸に自衛隊に入隊されていますよね。あなたが殺害した人たちも日本国民です。あなたが当初、守ると胸に誓った人たちをなぜ、殺す事にしたんですか?」
「殺害の動機ですね。それについて、今から話させて頂きます。」
そう言うと、被告人は目を瞑り、天井を一度仰いだ。それはまるで、殺してきた人たちへの葬いをしているように見えた。
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