理不尽

乃木希生

第1話

「以上の理由から、被告人を刑法第199条殺人罪に基づき、死刑を求刑します。」

普通の裁判であれば、ここで弁護側が異議を唱えて、裁判が拗れていくのであろうが、本件に関しては全てが異質だった。

弁護士も検察の求刑を受け入れ、異議なしといった態度でずっと着座したままだった。

「弁護側は、求刑に対して異論はありますか?」

裁判官からの質問に対して、弁護士はすっと立ち上がると

「異論はありません。社会正義を考えた上では死刑は免れないと考えています。また、被告人も死刑であることに異論はないため、弁護人にとっての利益にも即しております。」

そう言うと、弁護士は静かに着席した。


代わりに騒々しくなったのは記者や遺族など、百人近くがギュウギュウ詰めになって座っていた傍聴席だった。

『カンカン』

「静粛に」

裁判官は傍聴席を静めたあと、被告人へ質問を始めた。

「今の求刑を聞いて、率直な感想を聞かせてください。また、今回の事件を起こした理由があるならば、再発防止のためにも正直に話してください。」

被告人は、裁判官を見つめ一呼吸を置いてから徐ろに口を開いた。


「当然の求刑だと思います。異論も反論もありません。私を活かしておく事は社会にとっても何一つ利益がありませんから。再発防止のためになるなら、喜んで事件を起こした理由も全て包み隠さずにお伝えします。お願い出来る立場ではないことは分かっていますが、ぜひ、今後の社会のために今からお話することを教訓として活かしてもらえたら嬉しいです。」


そう言うと、日本犯罪史上、最悪であり、称賛を集めてしまった事件の全容をゆっくりと語り始めた。

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