第4話 青信号
「青ですよ〜」
声をかけた祐一好みの端正な顔立ちのお姉さんが、満面の笑顔で何度か大きく頷いた。けれども動く気配は一向にない。雲一つない爽やかな青空だ。その眩さの所為なのか、祐一は「綺麗な人だな」と思ったが、ジロジロ見るのは失礼だろうと正面を見据え直す。その刹那、交差点の横断歩道が一斉に「青」に変わった。
祐一はゆっくり足を踏み出す。綺麗なお姉さんが祐一の横をかすめるように颯爽と走り抜けて行く。「赤ですよ…」と後ろ姿に投げかけたが、彼女の自転車は止まらずに、横断歩道を踏み越えて行った。なんだか裏切られたような寂しい気持で、「赤なのに〜」と独り呟きながら小さな段差を跨ごうとした時である。数滴の水が頭上に降り注ぐ。まさか雨でもあるまいしと心持ち上を向けば、何かが中空を飛んでいき、カランと向こう側へ落下する音が聞こえた。それを追うように数台の自転車が通り過ぎ、横断歩道を踏みにじってそのまま車道を突っ走る。
歩道に転がった、恐らく自分に投げつけられた空き缶を、祐一は穴のあくほど眺め佇んでいた。
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